中心選手としての自覚も芽生える「背中で引っ張っていきたい」
埼玉西武の平井克典投手が3日、所沢市内の球団事務所で契約更改交渉を行い、6500万円アップの年俸1億円でサインした(金額は推定)。
今季プロ野球史上歴代2位となる81試合に登板した「平井さま」が、ついに大台に到達した。セットアッパーとして開幕からフル回転し、僅差での勝ちパターン、同点、回跨ぎ……。状況をいとわず、変則フォームから投じる直球とスライダーのコンビネーションで、パ・リーグの名だたる強打者たちをねじ伏せてきた。
シーズン後半は調子を落としたものの、その快刀乱麻のピッチングでチームの窮地を幾度となく救ってきた右腕は「想像以上に評価していただいた」とニッコリ。プロ入り3年目で、スター選手の仲間入りを果たした。
「僕みたいな選手が、ここまで来られると思っていなかった。夢のようだし、夢の世界。実感がない」。2016年ドラフト5位でホンダ鈴鹿から埼玉西武に入団した当時25歳のオールドルーキーだった平井。「(プロの世界で)やれるなんて思っていなかった。キャンプでレベルの違いを痛感していた」と入団当時を振り返ったように、プロとのレベルの差を埋めることができないままルーキーイヤーは開幕1軍入りを逃した。
即戦力と言われながらも1軍のマウンドは遠く、埼玉西武第二球場のグラウンドで黙々と投げ込んだ。隣接するメットライフドームから聞こえてくる声援をよそに、2軍戦でも打ちこまれる日々が苦しかった。自信を失いかけ、「もう、鈴鹿に帰りたい」と漏らしたこともあった。平井が1軍昇格を勝ち取ったのは5月末。中継ぎとして登板を重ねるうちに首脳陣の信頼を獲得していくと、その年の7月中旬から15試合連続無失点を記録するなど抜群の安定感でアピール。見事勝ちパターン入りを勝ち取った。
登板数を伸ばし続け、今やチームに欠かせない存在となった平井だが「今だって自信はない。1日1日が勝負。毎日腹をくくってやるだけ」と謙遜した。それでも「これだけ(1億)いただいているし、自覚と責任を持って勝負したい。来季は数字に対するこだわりは一切捨ててやる。後輩に若い投手も出てきているし、背中で引っ張っていきたい」とチームの中心選手らしく、堂々と胸を張った。あの日弱気を覗かせていた右腕の姿はもうどこにもない。
(安藤かなみ / Kanami Ando)
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