リーグ最多の三振数は、それだけ多くの打席に立った証でもある
首位打者、本塁打王、打点王といった主要な打撃タイトルをはじめ、盗塁王、最多安打、最高出塁率といったタイトルに関しては、シーズン中からその行方が注目を集めるものだ。だが、最多三振や最多併殺打のような、いわゆる不名誉なタイトルが話題になる機会はかなり少ない。もっとも、記録の性質を考えても、それは至極当然のことであろう。
しかし、リーグ最多の三振を喫した選手は、裏を返せばそれだけ多くの打席に立ったということでもある。すなわち、その選手には多くの三振に目をつぶっても起用するだけの価値があるということだ。そして、実際にリーグ最多三振を喫した選手たちの成績を確認してみると、単なるネガティブな記録というだけでは片づけられない、興味深い傾向も同時に見えてきた。
そこで、今回は過去10年間のパ・リーグにおいて、リーグ最多の三振数を喫した打者たちの成績を紹介。NPBの歴代シーズン最多三振10傑の成績についても確認し、それらの打者たちの傾向や、成績との相関性についても見ていきたい。
長距離砲がズラリと顔を並べる中で……
過去10シーズンのパ・リーグにおいて、リーグ最多の三振数を喫した打者たちの顔ぶれは以下の通り。(所属は当時)
2010年
山崎武司氏(楽天)
シーズン成績:147三振 141試合129安打 28本塁打93打点 打率.239 OPS.749
2011年
陽岱鋼選手(北海道日本ハム)
シーズン成績:134三振 141試合147安打 6本塁打36打点 打率.274 OPS.673
中村剛也選手(埼玉西武)
シーズン成績:134三振 144試合141安打 48本塁打116打点 打率.269 OPS.973
獲得タイトル:本塁打王、打点王、ベストナイン(三塁手)
2012年
ウィリー・モー・ペーニャ氏(福岡ソフトバンク)
シーズン成績:130三振 130試合129安打 21本塁打76打点 打率.280 OPS.829
獲得タイトル:ベストナイン(指名打者)
2013年
アンドリュー・ジョーンズ氏(楽天)
シーズン成績:164三振 143試合116安打 26本塁打94打点 打率.243 OPS.845
2014年
エルネスト・メヒア選手(埼玉西武)
シーズン成績:156三振 106試合115安打 34本塁打73打点 打率.290 OPS.950
獲得タイトル:本塁打王、ベストナイン(一塁手)
2015年
中村剛也選手(埼玉西武)
シーズン成績:172三振 139試合145安打 37本塁打124打点 打率.278 OPS.926
獲得タイトル:本塁打王、打点王、ベストナイン(三塁手)
2016年
エルネスト・メヒア選手(埼玉西武)
シーズン成績:148三振 137試合129安打 35本塁打103打点 打率.252 OPS.842
2017年
T-岡田選手(オリックス)
シーズン成績:141三振 143試合134安打 31本塁打68打点 打率.266 OPS.862
2018年
山川穂高選手(埼玉西武)
シーズン成績:138三振 143試合152安打 47本塁打124打点 打率.281 OPS.986
獲得タイトル:本塁打王、パ・リーグMVP、ベストナイン(一塁手)
2019年
浅村栄斗選手(楽天)
シーズン成績:162三振 143試合139安打 33本塁打92打点 打率.263 OPS.879
陽選手を除いた9人中8人が長距離砲タイプの打者となったのは、イメージ的にもある程度納得のいくところかもしれない。その陽選手以外の全てのケースで20本塁打以上が記録されており、30本塁打以上も7度。三振数がリーグで一番多かったからといって、決して不振に陥っていたというわけではないという事実が、数字からも読み取れる。
また、2011年と2015年の2度、リーグ最多の三振数を記録した中村選手は、その両方のシーズンで本塁打王と打点王の2冠を達成。当時は「中村選手が規定打席に到達したシーズンには、必ず本塁打王のタイトルを取る」という法則が継続していた時期でもあり、中村選手にとって、三振の多さはそれだけ多くの打席に立てたという証でもあったかもしれない。
また、その中村選手の同僚でもあるメヒア選手も負けず劣らず豪快だ。とりわけ、来日初年度の2014年には、シーズン途中入団ながら本塁打王と三振王の“2冠”に輝く離れ業を演じている。リーグ最多の三振を記録した2シーズンはいずれも34本以上の本塁打を記録しており、こちらも三振数がとりわけ多いシーズンにはかなりの好成績を収めていると言えそうだ。
ほか、先述の中村選手になぞらえ「おかわり2世」と呼ばれていた山川選手、MLB通算434本塁打・1748三振とまさに規格外の助っ人だったジョーンズ氏、統一球の影響でNPB全体の打撃成績が下降する中で好成績を残してベストナインに選ばれたペーニャ選手、史上3人目の両リーグ本塁打王・山崎氏、2010年のパ・リーグ本塁打王でもあるT-岡田選手といった、印象深いホームランバッターたちが顔を並べている。
そんな中で、2013年には盗塁王に輝き、北海道日本ハムでリードオフマンや3番打者を務めていた陽選手は、タイプとしてはやや異質に映る。ただ、2011年から2016年までの6年間で5度の100三振超えを記録し、通算1277試合の出場で1073三振を喫するなど、元々三振の多い打者でもあった。それでいて、キャリア通算の出塁率は.332と決して悪くはなく、三振の多い打者は無条件でトップバッターには不適格、とはならないことを教えてくれる存在だ。
元近鉄の大砲が上位を占める中で、新鋭の台頭も
続けて、NPBにおけるシーズン三振記録のトップ10に入っている選手たちと、その成績についても紹介していきたい。(所属は当時)
1位:ラルフ・ブライアント氏(近鉄・1993年)
シーズン成績:204三振 127試合125安打 42本塁打107打点 打率.252 OPS.869
獲得タイトル:本塁打王、打点王、ベストナイン(指名打者)
2位:ラルフ・ブライアント氏(近鉄・1990年)
シーズン成績:198三振 108試合101安打 29本塁打73打点 打率.245 OPS.828
3位:ラルフ・ブライアント氏(近鉄・1989年)
シーズン成績:187三振 129試合140安打 49本塁打121打点 打率.283 OPS1.005
獲得タイトル:本塁打王、パ・リーグMVP、ベストナイン(外野手)
4位:村上宗隆選手(東京ヤクルト・2019年)
シーズン成績:184三振 143試合118安打 36本塁打96打点 打率.231 OPS.813
5位:ラルフ・ブライアント氏(近鉄・1992年)
シーズン成績:176三振 119試合109安打 38本塁打96打点 打率.243 OPS.864
6位:岩村明憲氏(ヤクルト・2004年)
シーズン成績:173三振 138試合160安打 44本塁打103打点 打率.300 OPS.966
獲得タイトル:ゴールデングラブ賞(三塁手)
7位:中村剛也選手(埼玉西武・2015年)
シーズン成績:172三振 139試合145安打 37本塁打124打点 打率.278 OPS.926
獲得タイトル:本塁打王、打点王、ベストナイン(三塁手)
8位:ブラッド・エルドレッド氏(広島・2014年)
シーズン成績:169三振 118試合118安打 37本塁打104打点 打率.260 OPS.873
獲得タイトル:本塁打王
9位:マウロ・ゴメス選手(阪神・2014年)
シーズン成績:166三振 143試合152安打 26本塁打109打点 打率.283 OPS.861
獲得タイトル:打点王、ベストナイン(一塁手)
10位:オレステス・デストラーデ氏(西武・1990年)
シーズン成績:165三振 130試合125安打 42本塁打106打点 打率.263 OPS.926
獲得タイトル:本塁打王、打点王、ベストナイン(指名打者)
以上のように、全ての選手がOPS.800を超えており、同じ年にタイトルを獲得した選手も多数。好成績との相関性という点では、先ほど取り上げた直近10年よりもさらに顕著であると言えそうだ。試合数の増加も手伝ってか、2010年代中盤から後半にかけて生み出された記録が上位に多く存在しているのも興味深い点といえよう。
そんな中でも、1位から5位までのうち実に4つを占めているブライアント氏の存在感は強烈だ。「三振かホームラン」を地で行く豪快なバッティングはファンの人気を集めただけでなく、優勝を手繰り寄せるダブルヘッダーでの4打数連続本塁打、東京ドームのスピーカーに打球を当てる認定本塁打など、数々の伝説的なアーチも生み出している。
そして、2019年にブレイクを果たした村上選手がいきなり歴代4位にランクインしたという事実も特筆ものだ。昨季までは1位から4位までブライアント氏の記録がずらりと並んでいたが、村上選手がそこに割って入ったことになる。36本塁打・96打点はいずれもリーグ3位の数字で、OPSも.800超え。19歳の若さにして、既に底知れないポテンシャルを発揮している。
6位以下にも本塁打王と打点王がそれぞれ3人並んでおり、打撃タイトルを獲得していない岩村氏もOPS.966とハイレベルな打撃を見せていた。三振数はネガティブな記録ではあるが、球史に残るレベルで思い切りのよい打撃を見せていた選手たちは、すべからく好成績を残していたことも確かなようだ。
三振を恐れない姿勢が、好成績に結びつくケースは多かった
以上のように、ブライアント氏やかつての中村選手のように、三振を恐れずに長打を狙っていく姿勢が好成績に結びつくケースは多い。三振の多さはシーズンを通して出場機会を確保したことと、当てに行かずに振り抜くという強打者としての基本を、年間を通じて堅持したことの証明でもあるだろう。
もちろん三振数は少ないに越したことはないが、その他の成績が優れていればある程度は目をつぶることができるのも確か。来季以降も失敗を恐れることなく、豪快なバッティングを見せてくれる選手は出てくるだろうか。
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