ビールを売って野球を覚えました。「前日の自分を上回りたい」小さなエース級 【楽天生命パーク宮城の売り子さんインタビューVol.1】

パ・リーグ インサイト 馬塲呉葉

2019.8.30(金) 08:00

アサヒビール担当のひなさん【撮影:馬塲呉葉】(C)PLM
アサヒビール担当のひなさん【撮影:馬塲呉葉】(C)PLM

 「プロ野球が好きだから、球場で働いてみたい!」と思ったことがある人は多いだろう。チケットもぎり、清掃、飲食販売など、1日で数万人を動員するスタジアムを支える仕事は多岐に渡る。そしてその中でも、ビールの売り子さんは「花形」だ。

 重たいタンクを背負ってスタンドを駆け回り、猛暑でも雨でも笑顔を絶やさない彼女たちの姿に、淡い憧れを覚える女性も少なくはないはず。また、売り子さんの存在は海外のスタジアムでは見られないもので、日本プロ野球の大切な文化のひとつでもある。

 ここではそんな売り子さんのうち、東北楽天ゴールデンイーグルスの本拠地・楽天生命パーク宮城で働く方々をご紹介。最初に「パ・リーグインサイト」編集部のインタビューに答えてくれたのは、アサヒビールを担当しているひなさんだ。

【Vol.2かれんさんの記事はこちら】

野球のルールを教えてくれたのはスタジアムのお客さん

 小柄で、溌剌とした笑顔が印象的なひなさんは、青森県出身の19歳。小学校5年生のときに親御さんの転勤で仙台に住むことになり、プロ野球に触れるようになったそうだ。「岩隈久志選手(当時・楽天イーグルス/現・巨人)が小学校に来てくださったときに、キャッチボールをしているところを間近で見て、野球選手ってすごいなと思いました」。そんな風に、楽天イーグルスの存在は身近に感じていたものの、ルールについてはほとんど知識がなかったと言う。

「2万人以上のたくさんのお客様から見られながらお仕事することはなかなかないし、貴重な経験ができると思って売り子に応募しましたが、野球の知識は全然なかったんです。売り子をしながら、どうやって点が入るんですか? とか、どこからがファウルで、どこからがホームランなんですか? とか、そういう初歩的なことをお客様に聞きながら、だんだんと覚えて、好きになっていきました」。

 今ではすっかり楽天イーグルスのファンで、「藤平尚真投手が好きです。同じ世代の方が活躍されていることを知って、私自身刺激になったので」と笑顔を見せる。楽天生命パーク宮城の好きなところは、「他の球場にはない、野球観戦だけじゃなく、お子さんが楽しめる遊園地のようなところ」だと言う。

アサヒビール担当のひなさん【撮影:馬塲呉葉】(C)PLM
アサヒビール担当のひなさん【撮影:馬塲呉葉】(C)PLM

ハードなお仕事にも前向き「やりたいからやるという感じ」

 楽天生命パーク宮城の売り子さんの1日の平均販売数は80杯ほどだそうだが、ひなさんは自己最高「259杯」という実力派。また、基本的に販売エリアが決められている中、自身の判断でどのエリアにでも売りに行くことが許されている。活躍の秘訣は、何事にも物怖じしないところだろう。

 売り子さんに応募したとき「野球のルールもわからず、体力にも自信がなかった」というひなさんだが、同時に「不安はありませんでした。やりたいからやるという感じ」とあっけらかん。「基本的に前に出ることが好きで、自分から色んなことを発信していきたい」そうで、エース級の働きを見せている今も「色々なお客さまと接していますが、そこまで辛さは感じません。体力的にも辛いというよりは、楽しさが勝ります」と頼もしい。

 8月は仙台も連日厳しい暑さが続き、売り子さんの体力が心配になるが、熱中症対策については「売り子とは別のお仕事をしている方が、具合が悪そうな子に声をかけてくれる」そうだ。しかしひなさんは、「でも休憩している時間がもったいない。前日に自分が売った数よりも売りたい」と芯の強さを垣間見せる。

 売り子さん同士の仲は非常に良いそうで、売上競争についても「結局、自分との戦いではないですが、自分がどれだけ頑張れるかだと思うので。いつも自己記録はこれくらいだから50杯売ろうとか、一樽売ろうとか意識しています」と冷静だ。

 可愛らしい見た目にたくましさを秘めて、過酷なお仕事を笑顔でこなすひなさん。彼女に元気をもらうため、スタジアムを訪れるファンはこれからも絶えないだろう。

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