甲子園が持つ“不思議な力” 早実元4番・野村大樹が感じた「音が聞こえない」世界

Full-Count 福谷佑介

2019.8.6(火) 08:30

福岡ソフトバンク・野村大樹※写真提供:Full-Count(写真:荒川祐史)
福岡ソフトバンク・野村大樹※写真提供:Full-Count(写真:荒川祐史)

1年生から早実で清宮幸太郎とクリーンナップを形成した野村

 第101回全国高等学校野球選手権大会は6日、阪神甲子園球場で開幕する。今年も各都道府県大会を勝ち上がってきた49の代表校が、深紅の大優勝旗を目指して熱戦を繰り広げることになる。

 全国の高校球児にとって「聖地」となる阪神甲子園球場。春の選抜、そして夏の選手権と、これまで数々のドラマを生み出し、感動を呼ぶ舞台となってきた。「聖地」に立った感触は、そして、その甲子園で戦う感覚というのは、果たしてどんなものなのだろう。

 2015年の夏の甲子園で、大きな脚光を浴びた1人が早実の清宮幸太郎(現北海道日本ハム)だった。幼少期から注目を集め、1年生にして名門・早実のクリーンナップを担った天才スラッガーだ。そして、この年の清宮の姿に憧れて早実に進学したのが、こちらも1年生から中軸を担うことになる野村大樹(現福岡ソフトバンク)であった。

 中学時代は小園海斗(現広島)や中川卓也(現早大)らと共に全国大会で8強入りし、侍ジャパンU-15に選ばれるなど、その名を知られた存在だった。早実入学後は1年生ながら4番に抜擢され、3番に入った清宮とともにクリーンナップを形成した。

 清宮&野村のコンビは高校球界でも屈指の強力コンビとして知られ、大きな注目を集めた。2016年の秋季東京都大会を制し、明治神宮大会に出場。そこで準優勝し、2017年の選抜で甲子園の土を踏んだ。

 だが、野村にとって、甲子園出場はこの1回きり。全国制覇を掲げた2017年の夏は都大会決勝で東海大菅生に敗れた。清宮が抜け、キャプテンとして臨んだ秋は都大会3回戦で国士舘に敗れて選抜出場ならず。最後の夏は西東京大会4回戦で八王子に敗れ、高校野球生活は幕を下ろした。

一度だけの甲子園出場、それでも強烈だった甲子園の“力”

 野村にとって一度だけの甲子園出場。それでも、その時の感覚は強烈、鮮烈だった。

 あの時から2年が経過した。福岡ソフトバンクに入団し、プロ野球選手として歩みを進めている野村は甲子園の持つ“不思議な力”について、ハッキリと覚えていた。「自分にとっては持っている力以上のものが出る場所でしたね。今まで感じたことのない集中力が出てきた場所でした」。今でも忘れない感覚。今までに感じたことのない、そう、“ゾーン”に入ったような感覚だったという。

 初戦の明徳義塾戦。野村は4番に入り、清宮の後を打った。4打数2安打1打点。9回には土壇場で同点に追いつく四球を選んだ。続く東海大福岡戦でも野村は5打数3安打1打点と活躍。チームは8-11で惜敗したものの、野村はバットで十分にその存在感を示した。

 特に、2回戦は大の苦手だったというサイドスローの安田投手を苦にすることなく攻略できた。「凄くサイドスローの投手が苦手だったんです。安田投手と当たって、嫌だなと思っていたんですけど、全く苦になりませんでした。集中していたのか、何も音が聞こえなかったですね」。大声援が飛び交う甲子園でプレーしていながら、音を感じることなくプレーしていたのだという。

 甲子園という場所について野村は「自分の持っている以上のものを出せる場所だと思います」と、その力を語る。その一方で怖さも目の当たりにしている。「今までめちゃくちゃ打っていた打者が急に打てなくなったりもする。緊張し過ぎると、固くなって自分の力以上のものが出なくなってしまう場所でもある。どっちか両極端に分かれると思います」。

 時として“女神”が微笑み、実力以上のものを引き出してくれるのが甲子園であり、時として“魔物”が姿を表し、全く力を発揮できなくなるのも甲子園なのだろう。6日から始まる、新たな夏の歴史。甲子園の“女神”に見初められ、信じられないような力を発揮する星は誰になるのだろうか。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

記事提供:Full-Count

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