【春季キャンプ特別対談】快速球で行こう! 則本昂大投手×松井裕樹投手

パ・リーグ インサイト 藤原彬

2018.3.15(木) 19:48

東北楽天ゴールデンイーグルス・松井裕樹投手、則本昂大投手(C)PLM
東北楽天ゴールデンイーグルス・松井裕樹投手、則本昂大投手(C)PLM

3月上旬に行われた侍ジャパントップチーム強化試合2連戦、2試合目のまっさらなマウンドに則本昂大投手が立ち、最終回を松井裕樹投手が締めた。両投手は2015年のプレミア12と昨年のWBCでも日の丸を背負っている。杜の都では見慣れた光景を日本代表にも持ち込むまでのステータスに、2人は上り詰めた。

かたやアマチュア時代は無名も球団初の日本一を知る先発右腕で、こなた甲子園を沸かせてプロ入りしながら、まだ勝利の美酒に酔った経験のない救援左腕。だが、同じ「本格派」がマウンド上で発露する闘争心と、今季、欲しているものは共通だ。

勢いのある真っすぐと、高品質の真っすぐ

-まずは、お互いの持ち味である速球のすごさと魅力について教えてください。

(則本投手)松井の真っすぐはなかなか前に飛ばないし、トラックマンのデータ上でもプロ野球選手のなかで上位の数値を叩き出しています。その真っすぐがあるから変化球も生きると思うし「なぜ前に飛ばないのかな」と思いながら、いつも見ています。

(松井投手)則本投手の速球はまず速い。あと、スピンがすごいですね。1分あたりの数字が2600ぐらいで、メジャートップクラスの選手のファストボールと同じレベルの回転数なので。打とうとしたところよりもボールが上にあるから、なかなか打つのが難しいと思います。コンスタントに投げたいところに投げることもできるので、レベルが高い。

-よく言われるように、回転数が増えるとボールが伸びるイメージになるのでしょうか。

(松井投手)伸びることって、あるんですか。

(則本投手)実際に伸びるのは球速が160キロ以上出ていて、3000回転ぐらいが必要。

(松井投手)実際は無理なんですよね。

(則本投手)そう。160キロ以上で3000回転を超えないと。

(松井投手)なので、「ボールがより落ちずに来ている」という表現が、人の目には伸びているように見えるということなんですよね。

(則本投手)そう。

(松井投手)基本的に落ちるボールを見ているから、それより落ちていないボールが伸びて見える。

-トラックマンに表示される数字と自身の感覚は、どれほど一致しているものですか。

(松井投手)「いい球がいったな」と思って見たら、その試合で一番いいボールだったりということが結構、多いですね。

(則本投手)調子が悪い日は悪い数値が出るものです。数字と感覚が合わない時は、自分の投げる球はいいけど打たれたか、反対に球が悪かったけど抑えたか。そういうのも、トラックマンのデータを見れば分かります。特に先発ピッチャーは次の登板までの6日間に何をすればいいのかが決まるので、有効活用しています。

新たな取り組みへとかき立てる、進化を止めない心

-速球を生かすために大切な緩急の重要性については。

(則本投手)それはもう、松井さんの方が緩急を使うのは慣れているので(笑)

(松井投手)緩急をつける球種はチェンジアップしかないですけど。相手チームの選手からも、「真っすぐがいいからチェンジアップが打てない」と言われることが結構多い。真っすぐが良くない日はチェンジアップも打たれます。「変化球を生かすも殺すも真っすぐ次第」と僕自身も思っていたし、結果にも表れています。

-キャンプで取り組んでいる2段モーションに、打者のタイミングを外す狙いはありますか。

(松井投手) 緩急ではないですね。自分の間合い、ペースで投げるために一番、2段モーションがヒットしました。いいボールを投げるにはいいフォームということで、自分の身体を使って投げやすいフォームを探りながら、どうやって力を伝えるかを考えて。今はこの身体でそのフォームにすれば、一番強い球がいくのではないかというところにいたりました。その結果の2段モーションです。

-則本投手は今、リリースポイントに工夫を施しているようですが。

(則本投手)ん~、緩急と言われると違うような気がします。でも、真っすぐと変化球の緩急はもちろんですけれど、真っすぐの間にも緩急をつけられたら、投球の幅はもっと広がるという考えで常に野球をしています。

-そこで、新しい取り組みに着手している。

(則本投手)そうですね。リリースポイントや球速を真っすぐだけで操作できたら面白いかなという考えで、去年から少し試していました。それを、今年はこの時期から取り組めば完成度が高まるかなと思ってチャレンジはしています。だめだったら使わないですし。今は「もしかしたら使うかな」ぐらいですね。

(松井投手)マジですごいですね…。それはマジですごい。

チーム創設初の栄光の立役者・田中将大投手にも刺激を受けながら

-試合中はどれぐらい奪三振を意識しますか。

(則本投手)松井がよく「三振以外にアウトの取り方がよくわからない」と言っていて。

(松井投手)それは新人の頃に言っていたんですよ。

(則本投手)ははははは。

(松井投手)でも、基本的に全部三振を狙っていますけどね。バットに当てられたら、リスクが生まれるので。登板機会が多いのは9回なので、リスクが最大限に回避できるのは三振ですし。真っすぐ、チェンジアップと三振が取れるボールは持っているので狙って、打ち損ねてくれたら凡打になるという感じですね。

-その意識はリリーフに転向してから変わりましたか。

(松井投手)強まりましたね。投げる球数も少ないので、全力をつぎ込めば三振が取れる確率は高いと思います。

-ともに重要な役割を任されていますが、ピンチの場面ではどのようなことを心掛けていますか。

(則本投手)試合状況などいろいろありますけど、そのピンチを切り抜ければ相手は「しまったな」とマイナスのメンタルになると思います。それはこちらにとってチャンスですし、「ピンチの後にチャンスあり」という言葉があるように、そういうものは絶対にある。「このピンチを切り抜けて、いい方向に」と考えていますね。

(松井投手)とにかく点を取られたくないと思います。

-ピンチで勝負強さを発揮したのが田中将大投手(ヤンキース)ですが、現在も交流を続けるなかで、どのような刺激を受けていますか。

(則本投手)すごいなと思いながら、いつも試合を観ています。ホームでナイターの時は練習前に。

(松井投手)球場に来た時にやってますよね。

(則本投手)丁度、試合が始まるぐらいの時間なので、練習前に球場のロッカーやウエイトルームで観ています。成績も気にしながら、みんなで観ていますね。松井は一緒にプレーしていないですけど交流はあって、同じチームにいた選手が向こうでやっているのを意識しないわけがないと思います。

(松井投手)一緒にプレーしていないですけど、メジャーでも活躍されている田中さんがもっと高みを貪欲に目指す姿にすごく刺激を受けて、オフの時間をともにすることで自分の向上心もかき立てられます。「まだまだこんなものではない」と思えるので、大きな刺激をもらっています。

目指すのは、昨季届かなかった頂

-昨季はキャリアベストの成績を残しながら、それでも満足のいかない時期があったと思います。

(則本投手)1年間を通して常にいい状態ではないので、そこで結果を残すことが大事だと思います。それこそ2013年の田中さんはいい時も悪い時も常に試合を作って、チームを優勝に導きました。去年、僕が後半戦に勝てなかったのはだめですし、まだまだ足りないところだと思います。パフォーマンスを保つ練習も大切だと思いますけど、練習以外のところにも何かヒントがあるかもしれません。そこを考えて、今シーズンはできたらいいなと思います。

(松井投手)春季キャンプが好調ですね。例年に比べてボールも仕上がっていますし、いつになくいい感覚で投げられています。怪我さえなければ、今年は堂々とマウンドに立てると思っています。

2月中旬、場所は春の気配を漂わせ始めた沖縄県金武町ベースボールスタジアム。牛の鳴き声も聞こえる牧歌的な情景を背に、則本投手と松井投手は兄弟のような仲の良さを見せながらリラックスして取材の場に就いた。

しかし、投球哲学に触れるや一転、表情は急激に険しくなり、実戦さながらの緊張感を帯びた。プロ野球の長いシーズンは、気持ちを四六時中張り詰めるだけでは乗り越えられない。そのため、オンとオフの切り替えの速さが重要となる。先発ローテーションの頭とブルペンのしんがり。チームの行方を左右する者に課せられた責任の大きさが、垣間見られた。

また、トラックマンを用いたデータ活用の言及について、具体的な概念と数字がすらすらと挙がった。パワーピッチングで打者をねじ伏せる投手陣の大黒柱2人は、生粋の気骨精神だけでなく、野球脳を刺激させることでも自らを高めようとしている。

とはいえ、最後に尋ねた今季の目標に対する返答は、いかにも本格派らしい、真っすぐなものだった。

「優勝。それだけです。以上」(則本投手)

「同じく。それ以外は考えていないです」(松井投手)

則本投手プロフィール

則本 昂大(のりもと たかひろ)/先発投手
1990年12月17日生まれ。27歳。滋賀県出身。178センチ82キロ。右投左打。

向こう気の強いピッチングスタイルは少年時代から。中学軟式を経て八幡商業高校に進むが、全国大会の舞台とは無縁だった。三重中京大学に入学し、2012年の大学野球選手権では大阪体育大学から大会記録(10回延長参考)となる20奪三振をマーク。試合には敗れたが、プロ注目左腕の松葉貴大投手(現オリックス)と投げ合い注目を集めた。同年のドラフト2位で楽天に入団するまで、三重学生野球リーグでの通算成績は33勝0敗、防御率0.56。プロ1年目から4年連続で開幕投手を務め、昨季は8試合連続2桁奪三振の日本記録を樹立。4年連続奪三振王を継続中。

【昨季成績】25試合 15勝7敗 185.2回 奪三振率10.76 与四球率2.33 防御率2.57
【通算成績】138試合 65勝47敗 1HP 948回 奪三振率9.41 与四球率2.24 防御率2.94

松井投手プロフィール

松井 裕樹(まつい ゆうき)/救援投手
1995年10月30日生まれ。22歳。神奈川県出身。174センチ74キロ。左投左打。

小学6年時に12球団ジュニアトーナメントに横浜ジュニアで出場し、中学シニアでは全国大会優勝を達成。桐光学園高校では、2年夏に神奈川大会決勝で桐蔭学園高校の齋藤大将(現埼玉西武)に投げ勝った。夏の甲子園では大会史上最多の10連続奪三振&22奪三振を記録した初戦の今治西高校戦を皮切りに、以降の試合でも19、12、15と驚異的なペースで三振を量産。2013年のドラフトで5球団から1位指名を受け、交渉権を得た楽天に入団した。空振りを奪う能力はプロの世界でも高く、2年目からはクローザーに定着。昨季まで3年連続で30セーブをクリアしている。

【昨季成績】52試合 3勝3敗 33セーブ 8HP 52.2回 奪三振率10.60 与四球率4.44 防御率1.20
【通算成績】200試合 11勝17敗 96セーブ 38HP 303.1回 奪三振率10.86 与四球率4.78 防御率2.55

記事提供:

パ・リーグ インサイト 藤原彬

この記事をシェア

  • X
  • Facebook
  • LINE