埼玉西武山川の打撃フォームを分析 名スコアラーが重ね合わせた2人の強打者

Full-Count

2019.5.20(月) 20:11

埼玉西武・山川穂高※写真提供:Full-Count(写真:荒川祐史)
埼玉西武・山川穂高※写真提供:Full-Count(写真:荒川祐史)

元巨人、2009年WBC侍ジャパンチーフスコアラー三井氏が語る山川のすごさ

 埼玉西武の山川穂高内野手が好調を維持している。3.4月は打率.271、26安打、11本塁打、31打点で月間MVPを受賞。12日の北海道日本ハム戦では通算321試合目で100号アーチに到達した。秋山幸二(元埼玉西武)の351試合を抜き、日本選手では史上最速となった。元巨人で、2009年WBC日本代表のチーフスコアラーを務めた三井康浩氏が山川の打撃を分析。そのすごさを語った。

 三井氏は山川が1軍で出始めた頃から交流戦対策として、データや打撃フォームをチェックしていた。

「(1軍の枠に)入ってきた時からバットを振る力が強いイメージがありました。年を経ることによって、ボールもすごく飛ぶようになりました。ですが、変化球に弱いという印象もありました。なので、どのように対応をするかを見ていましたね」

 しかし、それはもう“昔の話”。近年は、変化球をマークしながら、あらゆる球種、コースに対応。打撃の幅は年々、広がっている。

「プロでも甘い球を一発で仕留めるのは難しいですが、山川選手は一発でとらえられる。それがホームランの数につながっていると思います」

 打率は.283、19本塁打、47打点(5月19日終了時)。三井氏は打率の高さに驚いている。

「本塁打は納得できますが、率は2割4分か5分のバッターという印象だったので、すごいですね」

 なぜ、本塁打だけでなく、率も残せるのか。打撃フォームのスタンスにポイントがあった。

「山川選手のスタンスは、他の打者より狭いです。そこからバッターボックスをフルに使うくらいの広いステップで打っていく。肩幅より狭いスタンスは、目線のズレが少なく、ボールに入っていきやすい。それがボールを一発でとらえられる率につながっていると思います」

巨人で長年にわたりスコアラーを務めた三井康浩氏※写真提供:Full-Count
巨人で長年にわたりスコアラーを務めた三井康浩氏※写真提供:Full-Count

柔らかく、強くなった下半身に注目、上半身の“ねじれ”にも…

 1軍に出始めた頃に“弱点”としていた変化球もしっかりととらえている。

「以前よりも柔らかく、強くなった下半身があるので、ある程度の変化球をマークしながら、対応ができるようになったと思います。頭に変化球があれば、自分の間ができます。右ひざが地面に着くか、着かないかという寸前くらいまで、ひざを落として右中間にホームラン、ああいうことは以前できなかったです。変化球を拾えることが高い打率にも反映されています」

 目を奪われたのは強化した下半身だけではない。フォームの観点から上半身のねじれも、すごさを物語っている。

「狭いスタンスから広いステップでいくまでに非常にトップの位置が“深く”なります。同時に上半身のねじれが大きくなって、そこで間が生まれる。人より長くボールが見られることができます。その間の中で、ストレートか変化球かを見極めて打てています。勘ではなく、見極めて、ボールを打てるところも強みだと思います」

 三井氏は打者を大きく2つのパターンに分けて、スコアラー時代は分析してきた。下半身の回転を使って打球を飛ばす「回転型」の打者と、前に壁を作り、打つ瞬間に腰を逆方向にひねる動きを入れて、ヘッドスピードを上げる「ツイスト型」の打者だ。

「巨人の岡本君、阪神の福留君らは下半身の回転使って打つ回転型。北海道日本ハムの西川君、エンゼルスの大谷君、巨人の阿部君などはツイスト型。主流というか、だいたい2つのパターンに分けられるのですが、山川君は両方当てはまらない。ボールに対して体重を一直線にぶつかって飛ばしていくタイプ。利き手の右手を使って、ヘッドスピードをあげていく。あまり多くはないタイプですね」

 普通に考えると、この打法は速く、力強い球を投げる1軍クラスの投手に対しては有効ではないし、習得するのも簡単ではない。しかし、この形は大きな力を生んで遠くに飛ばせるという。

 「大方の打者はボールの下にグリップを入れて、どちらかというとバットに立てながら打ちます。でも山川君の場合はボールにグリップをぶつけていくみたいな感じでどちらかというとバットが寝ている。だから、右手を思い切り、それも強く、早く返していかないとヘッドが走らない。そういう打ち方はなかなかいないですが、これまで見ていた中で近いのは近鉄でプレーしていた中村紀洋君に近い打ち方をしています」

 中村紀洋氏の場合もスタンスが狭く、ステップを大きくとって、遠くへ打球を飛ばしていた。通算400本を超えるスラッガーのような、なかなかいないタイプだという。山川はその上、変化球の対応もうまくなっているので、打率も安定して残せていくことができると分析する。

 さらにもう一人、日本を代表するスラッガーと重なる部分があるという。山川の持ち味でもある豪快なフォロースルー。あそこまで振り切れるのを見たのは、巨人、ヤンキースなどで活躍した松井秀喜氏以来だと話す。

「長距離打者はフォロースルー、フィニッシュでバットが背中を叩くのです。今まででは松井秀喜くんがそうでした。ホームランが出た時は、背中をたたいていました。あれだけスイングできるのは体の強さだけでなく、上下の体のバランスがいいから。山川選手も相当、下半身も鍛えていると思います。あの体重を支え、素晴らしいパフォーマンスが出せるのは、下半身を鍛えていないとできません」

 これから交流戦が始まる。もしも、セ・リーグの球団のスコアラーだったら、今の山川をどのように攻略するのか。

「非常に標準的になってしまいますが、インコースのボール球を振らせて、まずはそこに意識を持たせます。外からボールにする変化球がウイニングショットになるのでしょうが、今の山川選手なら、追い込まれてもその辺をマークしている。少々のボールでもバットに当たったらスタンドに運ばれてしまう怖さがありますね。高めのコースギリギリのボール球を狙い、目一杯投げるのも方法ですが、高めで抜け球になってしまうのが一番だめ。う~ん……打ち損じを待つしかないのかもしれないですね。それくらい状態がいいと思います」

 スコアラーの頭を悩ますほど、今の山川の打撃は好調だということだ。

プロフィール
三井康浩(みつい・やすひろ)1961年1月19日、島根県出身。出雲西高から78年ドラフト外で巨人に入団。85年に引退。86年に巨人2軍サブマネジャーを務め、87年にスコアラーに転身。02年にチーフスコアラー。08年から査定を担当。その後、編成統括ディレクターとしてスカウティングや外国人獲得なども行った。2009年にはWBC日本代表のスコアラーも務めた。松井秀喜氏、高橋由伸氏、二岡智宏氏、阿部慎之助選手らからの信頼も厚い。現在は野球解説者をしながら、少年野球の指導も行っている。

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