7月31日。シーズン中に育成選手が支配下登録を受けられる期限だ。この日が迫ると、各球団の育成選手たちは、より一層激しく首脳陣へのアピール合戦を繰り広げる。今季4年ぶりにAクラス入りを果たした楽天においては、まさにその7月31日に朗報を受けた若手選手がいる。高卒3年目の20歳、八百板卓丸(やおいた・たくまる)外野手だ。
福島県出身の八百板選手。「卓丸」という珍しい名前だが、「卓」は江川卓氏(元巨人)から、「丸」は野球ボールからきているらしい。「『球』という字を使ってしまうと『卓球』になるので」とのことで、実に覚えやすい名前からも、野球への熱い思いが感じられる。
小学1年から野球を始めると、中学時代は投手・内野手として全国大会を経験した。地元の強豪・聖光学院高校に進学し、3年夏に甲子園に出場。準々決勝で日本文理高校に敗れたが、相手エースの飯塚悟史投手(横浜DeNA)から唯一3安打を放っている。全4試合でリードオフマンを務めて打率.533、左翼手としても無失策と、攻守で母校の8強入りに貢献。2014年のドラフトで育成1巡目指名を受け、楽天に入団した。
「3年以内の支配下登録」を目標に掲げて、プロの世界に飛び込んだ八百板選手。1年目はファームで43試合に出場して打率.230だったが、出塁率.400を叩き出した。2年目の昨季は出場試合数を増やし、少しずつだが着実にステップアップを果たしていく。そして自身が「勝負の1年」と定めた3年目の今季、7月31日。ついに念願の支配下登録を勝ち取り、背番号は「122」から「95」に変更となった。
この時点におけるファーム成績は、72試合3本塁打30打点5盗塁、打率.249。しかし、背番号が軽くなったことが良いきっかけとなったのか、以降さらに成績を上げていく。最終的に105試合に出場し、102安打5本塁打40打点9盗塁、打率.281。102安打はイースタン・リーグトップの廣岡選手(東京ヤクルト)に次ぐ数だった。また、アマチュア時代から定評のある外野守備においてはわずか3失策と安定。リーグトップタイの補殺9も記録している。
今季の楽天は激しい2位争いを繰り広げ、クライマックスシリーズファイナルステージに進出したこともあり、一軍の試合出場は叶わなかった。しかし、10月に宮崎で行われた「第14回みやざきフェニックス・リーグ」では打率.412と打ちまくる。自身初の秋季キャンプにも参加し、持ち前のバットコントロールを披露して梨田監督から高評価を得た。
11月29日の契約更改では「守備と走塁を生かして来年は開幕一軍を目指します」と語った八百板選手。背番号も再び「95」から「57」へ変更となり、チームが八百板選手のさらなる成長に期待を寄せていることが窺える。しかし、楽天の外野は相変わらず激戦区だ。全試合出場を果たした島内選手や強打者のペゲーロ選手は不動のレギュラーであり、田中選手やオコエ選手など、八百板選手同様に機動力のある若手も台頭してきた。
つまり八百板選手は来季、「開幕一軍」の目標を達成するために、まずはチーム内の激しいポジション争いに勝ち抜かなければならない。思えばプロ野球の世界は、常に数少ない「枠」を巡る競争の連続だ。ごく一握りの選手だけがプロの世界に入ることを許されるが、その後もファームのスタメン、一軍の選手登録、レギュラー、スタメンなど、チーム内でさえどんどん「枠」は絞られ、競争は激化していく。
そして八百板選手は3年前、育成選手として指名を受けた。17歳の少年の前に伸びる道は、他の支配下選手よりもさらに長く、険しいものだったに違いない。それでも、最初に掲げた目標通りに支配下登録枠を勝ち取ってみせた。入寮の際には、左手に兄からの贈り物であるグラブをはめ、右手でくまのプーさんのぬいぐるみを抱きしめ、素朴な笑顔を浮かべていた八百板選手。穏やかな表情の下に、静かな闘志を秘めて。2桁の背番号で、4年目の来季はまた新たな一歩を踏み出す。
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