かつてドラフト1位で指名され、将来を嘱望された若手捕手が、酸いも甘いもかみ分けたベテランとして北の大地に帰ってくる。12月4日、巨人を退団した實松一成選手が、12年ぶりに北海道日本ハムへ復帰することが決まった。肩書きは、育成コーチ兼捕手。プロ入り当時とは異なる立場でプレーすることになるが、それもまた、長いキャリアで培った捕手としての経験が高く評価されているからこそだろう。
實松選手は地元・佐賀学園高校出身。高校通算39発の打棒を誇り、強打の捕手として注目を集めた。1998年のドラフト会議で、日本ハムから1位指名を受けて入団。3年目となる2001年には、62試合に出場して打率.195ながら6本塁打を放つ長打力を見せ付け、正捕手への足がかりをつかんだかに思われた。しかし、翌年以降も打率が2割台に届かず、チーム内で絶対的な存在にはなりきれなかった。
2006年の開幕直前、トレードで巨人へ移籍。同時に移籍した古城茂幸氏が、度々印象的な活躍を見せる一方、4シーズンにわたって一軍定着もままならず。古巣の北海道日本ハムが、長い低迷期を脱して強豪の仲間入りを果たすきっかけとなった44年ぶりの日本一は、皮肉にも實松選手がチームを去った、まさにその年の出来事だった。
しかし、2011年に長く一軍に帯同すると、20試合の出場ながら2本塁打、打率.273を記録し、「控え捕手」として自身の立場を確立するシーズンとした。翌年も、2番手捕手として58試合に出場、チームの日本一に貢献。ただ、2014年からは後に正捕手となる小林選手の入団もあり、再び出場機会を減らすことに。それでも不測の事態が訪れればベテランらしい落ち着いたプレーで投手陣をサポートし、野球に対する真摯な姿勢も含め、周囲から信頼を寄せられる存在となっていた。
今季は不動の正捕手となった小林選手に加え、宇佐見選手の台頭もあって、7年ぶりに一軍無安打でシーズンを終えた。そしてオフ、巨人から来季の契約を結ばないことを通達される。そんな實松選手に獲得を打診したのは、2006年以来遠ざかっていた古巣だった。選手兼任コーチという立場での入団が発表された實松選手にとって、来季は実に12年ぶりとなるパ・リーグでのプレーが待っていることになる。
将来の正捕手候補として期待されていた實松選手は、12年という歳月を経て、堅実なリードと気配りで献身的にチームを支える縁の下の力持ちとなった。コーチ兼任という立場ゆえに、選手として以外の貢献も求められる形となるが、北海道日本ハムでは中嶋聡氏が同じく兼任選手として、9年間にわたって活躍した事例もある。
セ・リーグの常勝軍団を陰ながら支えた控え捕手は、大きな重圧のかかる環境で培ってきた経験を、選手とコーチの両面からチームに還元してくれることだろう。かつてドラフト1位で自身を指名した古巣への、實松選手の「恩返し」が見られるのはこれからだ。
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