チームメイトも涙した退団から7年。球団の草創期を支えた渡辺選手が、杜の都に帰ってくる。今オフ、渡辺直人選手の楽天への復帰が決定した。「グラウンドの天然芝化など仙台の球場は色々と変わったようですが、東北のファンの皆さんの熱い応援は全く変わらないですね」と笑った渡辺選手の帰還を心待ちにしていたファンは、さぞ多かったことだろう。
牛久高校、城西大学を卒業後、三菱ふそう川崎で遊撃手として活躍した渡辺選手は、2006年の大学生・社会人ドラフトで、楽天から5巡目指名を受ける。当時、創設2年目を終えたばかりの球団は選手層の薄さに悩まされていたこともあって、26歳のオールドルーキーであった渡辺選手には、即戦力の証である1桁の背番号「2」が与えられた。
渡辺選手はその大きな期待に応える活躍を見せ、すぐにチームに欠かせない選手となっていく。両リーグの新人で唯一規定打席に到達し、打率.268、25盗塁と持ち味を発揮。翌年以降も高い出塁率を誇り、3年連続でチーム最多盗塁をマークした俊足などを武器に、高須洋介氏、山崎武司氏、鉄平氏らとともに草創期の楽天を支え続けた。その甲斐あって、専用のユニホームさえない中から出発したチームも徐々に上昇気流に乗っていき、2009年には球団史上初のクライマックスシリーズ進出を果たしている。
しかし、翌2010年、楽天は再び最下位に。そしてオフシーズンのチームには、それ以上の大きな激震が走る。その実力と人間性で、チーム内で確固たる地位を築いていた渡辺選手のトレードが決まったのだ。移籍会見で渡辺選手は、「来年も楽天でやりたいという気持ちがある中で、仙台を離れるのは寂しいです」と声を詰まらせたが、苦しい時代をともに戦ってきたチームメイトたちも、自らの契約更改で惜別の涙を流す異例の事態となった。
渡辺選手は、トレードで移籍した横浜DeNAで初年度こそ二塁手のレギュラーを確保したものの、翌年以降は若手の台頭もあって出番を減らしてしまう。2013年の7月には、自身二度目のトレードで埼玉西武へ移籍。ただここでは、走・攻・守全てでベテランらしいプレーを披露し、スーパーサブとして堅実な働きを見せ続けた。
今季は、ルーキーの源田選手が正遊撃手に収まったことに加えて、内野の守備固めをも若手選手が務めるケースが増え、バイプレーヤーとしての出場機会が激減。昨季は打率.309を記録した打撃でも不振に陥り、シーズン終了後に球団から戦力外通告を受けた。
今季限りの引退も視野に入れていたという渡辺選手に現役続行の道を用意したのは、その人間性をもっともよく知る古巣だった。11月21日、楽天は渡辺選手との契約合意を発表。安部井寛チーム統括本部長は「渡辺選手は、泥んこになりながらチームを引っ張ってくれる選手だと評価しています。これまでの豊富なプロでの経験と、その明るい人間的な魅力で、チーム内の模範になってくれることも期待しています」と、やはり渡辺選手の人間性を高く評価し、獲得に至ったことをコメントしている。
11月30日に行われた入団記者会見では、渡辺選手は「またこのユニホームを着てプレーできるということが、ゾクゾクするような気持ちで、本当に嬉しくて言葉になりませんでした」「楽天にいた頃とはひと味違ういろんな経験を積んでちょっと大きくなった自分でいると思っています。楽天の役に立てる、そういう気持ちでいます」と、変わらぬ笑顔を見せた。
この7年間で、楽天という若い球団は数々の経験を積んだ。渡辺選手が会見で「埼玉西武に所属していたときに(2013年の)リーグ優勝、胴上げの瞬間を目の前で見ていました。悔しいと思う反面、ここまで来たんだなという気持ちで見ていました」と語った通り、現在のチームは、かつて渡辺選手が在籍していた頃よりずっと頼もしくなっているはずだ。
今季の快進撃により、5年ぶりの「優勝」は現実味を帯びてきている。プレーだけでなく、精神的支柱としても大きな役割を果たしてくれるだろう渡辺選手の加入は、数字では推し量れないほどの好影響をチームにもたらすだろう。チームメイトとファンに深く愛されている渡辺選手は、7年目のトレードで涙を流した馴染み深い選手たち、そして新世代の若鷲とともに、来季こそ歓喜の涙を流すことができるだろうか。
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