2016年にドラフト3位で楽天に入団した田中和基選手。ルーキーイヤーの今季は51試合に出場し、値千金のプロ初本塁打も放った。一軍定着とまではいかなかったものの、持ち味の俊足と堅実な守備、愛されるキャラクターで存在感を発揮したシーズンだったと言える。
田中選手は福岡県出身。中学を卒業する頃にはプロ野球選手になる未来を現実的には想像しておらず、大学進学を目指して県内トップクラスの進学校を受験した。第1志望は、東京大学の合格者を多数輩出している修猷館高校だったというのだから驚きだ。結局西南学院高校に進学しているが、こちらも県内有数の名門校。ただ、野球においては無名だった。
高校では理系に在籍し、指定校推薦で立教大学へ進学するため文系に転部。3年時に左足を負傷、そのリハビリ期間に猛勉強したと言い、非常に優秀な成績を収めて大学進学を決めた。東京六大学リーグでは走・攻・守においていずれも高い潜在能力を見せ、中高からエリート街道を歩んできた他の選手を抜き去ってドラフト候補に挙げられるようになる。4年時から本格的にスイッチヒッターに挑戦し、春には両打席本塁打も放った。同期には澤田投手(現・オリックス)、田村伊知郎投手(現・埼玉西武)らがいた。
担当スカウトから「強肩、俊足、そして何より右でも左でも本塁打が打てることが彼の最大の魅力です。トリプルスリーを目指せる選手」と評価され、2016年ドラフト3位で楽天に入団。5月17日の北海道日本ハム戦で一軍デビューを果たす。5月19日の千葉ロッテ戦では代走起用され、50メートル5秒9の快足を飛ばしてプロ初盗塁を決めた。さらに、相手投手の暴投の隙に進塁し、藤田選手の一ゴロの間に好走塁で同点のホームを踏む。
その試合では結果的にチームは敗れたが、翌日の同じく千葉ロッテ戦で、田中選手の名前は一躍知れ渡った。両チーム無得点で迎えた延長12回表、2死1塁の場面で右打席に立つと、フルカウントから土肥投手の直球を力強く引っ張る。打球はぐんぐん伸びて楽天ファンの待つ左翼席中段に飛び込む勝ち越し2ラン。プロ初本塁打が値千金の決勝弾となり、引き分けゲームセットも見えてきた長い試合に終止符を打った。
試合後、少し緊張した面持ちで初めてヒーローインタビューを受けた田中選手は、この日がプロ初のスタメン起用。三振に倒れた最初の3打席はスタンドの応援も耳に入らないほど緊張していたと言い、「4打席目でようやくヒットが出て、(本塁打を打った)5打席目は今日1番落ち着いて入れた。ボールもよく見えて打てると思った」「いつも厳しい先輩方がベンチでとても喜んでくれて僕もうれしかった」と、プロ初アーチの喜びを初々しく語った。
田中選手はその後も一軍とファームで試合経験を重ねる。最終的な成績は、51試合54打数6安打1本塁打2打点、打率.111。課題は明確だが、起動力不足と言われるチームの中で、トップタイの7盗塁。出場試合数が少ないため、限られたチャンスで積極的にスタートを切っていること、代走として出場し、警戒される中で盗塁を決めていることが分かる。
楽天は今季4年ぶりにAクラスに入り、クライマックスシリーズファイナルステージにも進出し、チームとして大きな躍進を遂げた。それを期間限定の「勢い」で終わらせないために、来季のチームを担う若手の台頭は重要になる。秋季キャンプのインタビューにおいて、梨田監督も田中選手へ大きな期待をかけていることを明言した。
しかし楽天の外野には、田中選手自身が師匠と仰ぐ島内選手や、ペゲーロ選手、岡島選手、聖澤選手をはじめ、田中選手と同じく走攻守に定評のあるオコエ選手などがおり、わずか3枠をめぐるポジション争いは激しいものとなるだろう。田中選手は、まず今季打率1割台に終わった打力向上を第一として、チーム内競争に食い込んでいきたい。
田中選手は11月25日から台湾で始まる「2017アジアウインターベースボールリーグ(AWB)」に、イースタン・リーグ選抜として参加する。この大会には各球団の有望な若手が多数出場。チームの勝利に貢献する中で、同世代の選手から学ぶことは多いだろう。日本に帰国してきた後、そして来季、一回り成長した田中選手の姿を楽しみにしている。
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