緊迫した場面でクライマックスシリーズ初登板を果たした際の驚きは、投球を終えたときには納得に変わっていた。楽天の育成選手としてプロ生活をスタートさせた宋投手は、今季後半に支配下登録されると、ポストシーズンで圧巻の投球。中継ぎとして、プロ初勝利よりも先にポストシーズン2勝をマークした。台湾出身、25歳の宋投手にとって、この経験と自信は何物にも代え難い大きな財産となったはずだ。
台湾の国立体育大学出身の宋投手は、2015年、台湾プロ野球のドラフトで統一ライオンズから2位指名を受けたものの、日本球界に挑戦するためにこれを拒否。同年10月に楽天と育成契約を結び、日本でプロ野球選手としてのキャリアをスタートさせた。
初年度の2016年は、ファームで15試合に登板してチームトップタイの6勝、防御率2.44という好成績を残す。登録名をカタカナ表記の「ソン・チャーホウ」から本名の「宋家豪」へと変更して臨んだ今季は、ファームで33試合に登板して防御率は4.28だったが、昨季に続いてチームトップタイの8勝に加えて5セーブを挙げた。7月31日には支配下選手登録を勝ち取り、8月11日のオリックス戦で一軍デビューを飾る。
デビュー戦では1回2失点と結果を残せず、その後は再びファーム調整が続いたものの、シーズン終盤に再昇格を果たすと、4試合全てで無失点リリーフ。10月10日の千葉ロッテ戦では4者連続三振を奪って首脳陣にインパクトを与える。シーズン通算は5試合に登板して3ホールド、防御率3.86。そしてシーズン閉幕後、登板数がかさんでいたブルペン陣の秘密兵器として、クライマックスシリーズのメンバー入りを果たす。
クライマックスシリーズの宋投手の出番は、埼玉西武とのファーストステージ最終戦。この試合に敗れれば終わり、という運命の一戦で巡ってきた。5回に1点差に詰め寄られ、6回の先頭打者が四球で出塁。流れが埼玉西武に傾きかねない場面で、梨田監督は宋投手をマウンドに送る。宋投手はその期待に応えて代打のメヒア選手から見逃し三振を奪うと、後続の打者2人を打ち取って、見事厳しい場面を無失点に抑えた。
この投球でリードを保った楽天は8回に3点を追加し、5対2で埼玉西武を下してファイナルステージに進出。レギュラーシーズンでは未勝利だった宋投手はこの試合の勝ち投手となり、公式記録には残らないものの、うれしいプロ初白星を飾った。
パ・リーグ王者・福岡ソフトバンクとのファイナルステージでも、同点で迎えた第2戦の6回裏、1死2塁という重要な局面でマウンドを任されると、内川選手と松田選手から三振を奪って無失点で切り抜ける。直後に1点を勝ち越してそのまま逃げ切ったため、この試合でも宋投手が勝ち星を手にした。第4戦では2本塁打を浴びて敗戦投手となったが、クライマックスシリーズでの2勝はチーム最多。7月末まで3桁の背番号を背負っていた台湾の若き右腕が、大舞台でその実力を証明してみせた。
入団時に自身の特徴について「マックス151キロの直球とチェンジアップです」と語っていた宋投手だが、この2年で球速は153キロまで伸びた。まだ手にしていないシーズン初勝利と、勝ちパターン入りをつかみ取るために。台湾のシンデレラボーイは来季もその剛球と強心臓を武器にマウンドで勇躍する。
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