文字通りの「縁の下の力持ち」。パ・リーグTVの「裏側」を支える人々

パ・リーグ インサイト

2016.7.3(日) 00:00

(C)PLM
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パ・リーグ6球団のファンにはすっかり浸透しつつあり、さらに交流戦でもセ・リーグのファンにも名前が知れ渡り始めている「パ・リーグTV」。一般ファンだけでなく、メディアの人々、さらに選手たちも利用しているほど、野球ファン・関係者の間でその存在は大きくなりつつある。

そもそも「パ・リーグTV」とは何か、初めにおさらいしておきたい。「パ・リーグTV」とは、年間約450試合を超えるパ・リーグ主催試合がPC・スマホ・タブレットでライブ視聴できる、会員数は約7万人のサービス。ライブを見逃しても、あとから過去の試合を振り返ることもでき、ホームランやファインプレーといったワンシーンは無料で配信されていて誰でも「野球」をエンターテインメントとして楽しめる。さらには珍プレー集や好プレー集など、独自の視点でまとめた動画も、一部でカルト的な人気を誇るという。

「インターネットライブ」は昨今ではもはや当たり前のようなサービスとなってきた感があるものの、パ・リーグTVがスタートした2012年は珍しいサービスであった。同時に、サービスの開始に至るまでは、さまざまな困難が予期せぬものも含めてふってわくなど、苦難の道のりであったという。

「まさに『あゝ野麦峠』でしたね」。パ・リーグTVのシステムを構築した、株式会社富士通システムズ・ウエスト(FWEST)の堀内修一氏は感慨深げに当時を振り返る。堀内氏はパ・リーグTVのサービス開始前、2011年春の準備段階からこのプロジェクトに参加している古参メンバーだ。

今でこそ安定した配信を継続できているパ・リーグTVではあるが、当時は当然ながら取り組む施策は「初」のことばかり。「当時、偶然部署が代わって最初の仕事でした。立ち上げの頃、今となっては当然あるものもなかったりして、さてどうしようというところから始まりました。一から作って、違うのですぐに変えようとか、そういうことばかりでした」とサービス開始当時を振り返る。

「ライブ配信は障害が起きたら待ったなしなので、もちろんそこは当然大変ですが、オープン戦ではセ・リーグ、パ・リーグが入り乱れるので、配信するものとそうでないもののコントロールが難しかったですね」と、配信の難しさも語ってくれた。中でも最も印象深かった配信について尋ねると、「2012年の祝勝会(ビールかけ)ですね」と堀内氏。「祝勝会の配信は、基本的にいつ、何時に優勝するかスケジュールが刻々と変化するので、毎日勝敗を見て、何時にどうするというのを作っていました。流し方も当時は決まっていなかったので、どう流すかというのも、その時その時で決めていました」という。それだけに「全部流し終わって、これで一年終わった」という思いが強かったという。

パ・リーグTVのプロジェクトに関わるようになって今年で5年目。野球ファンの間で、「機運」が高まっていることを、堀内氏は感じるという。「私自身は広島出身なのでカープファンなんですが、ある選手のファンがいて、その選手がパ・リーグに行ったらパ・リーグTVに入るというファンがいるようです」。さらに堀内氏自身も、「広島から東京に出てきてから野球を見なくなっていました。ですが配信に関わるうちに、野球に対する熱が再び高まってきました」と、その熱に自身も影響されているようだ。

将来の「野望」を聞くと、「将来的には、やはり12球団でやりたいなと思います。CSパックで家で見る、外で見るときにはこっちでみるとか、そういうことができればファンと野球のタッチポイントがより増やせるので、野球ファンも増やせていけるのではないかと思っています」と心の内を明かしてくれた。さらに「2020年の東京オリンピックに向けていろいろ出てくることもあるので、新しい技術を作っていきたい」と、堀内氏は力強い眼差しとともに、期待に満ち溢れた笑顔で、今後について語ってくれた。

堀内氏らを中心に構成されたシステムを利用して配信業務を進めるのは、オペレーションチーム。パシフィックリーグマーケティング(PLM)が入居するビルの3F、「パ・リーグデジタルメディアセンター(PDM)」と名付けられたスタジオ式のフロアには、3つのモニターと面するように、多数のパソコンなどが配備され、そこで各スタッフが試合進行とともにリアルタイムで、さまざまな作業を行う。

最も前の前に陣取るのは、一球ごとに情報を入力する「データ入力チーム」だ。一球一球を正確かつ素早く、特別に用意されたアプリケーションへ、細分化された情報を入力していく。集中力と、些細なことも見逃さない余裕が求められるかなりタフな仕事ではあるが、こちらも研修を経て割り振られたスタッフが、慣れた手つきで事象を入力していく。

データ入力チームの後ろに位置するのは、「動画チーム」。有料サービスのイニングVODの作成、そして無料で視聴可能な「切り出し」動画の制作を管理スタッフの指示、あるいは各スタッフが切り出して最終的に管理スタッフに判断を仰いでから配信される。事象が起きてから早ければ5分、遅くとも15分程度。研修を経て担当を割り振られたスタッフが、有料サービス用のイニングVODアップロードなどの作業と同時並行で素早くツールへ登録し、ファンの下へそのシーンの動画が届けられる。さらにその動画はソーシャルメディア(SNS)やスポーツナビなどにも掲載され、一気に拡散されていく。

割と「静」な雰囲気のPDM前方とは対照的に、後方からは「なんだこれ!これ面白くない?あー、やっぱりこれいいね!よし、これでいこう」など、和やかな声が時折笑い声とともに聞こえてくる。声の主はPLMマーケティング室・上野友輔氏を中心とするSNS担当たちだ。シーンを見つけるとすかさず動画ファイルから該当シーンを抜き出し、SNSへ投稿する。早ければ1分以内には、SNS上にそのシーンが拡散されていく。時には動画編集担当と素早くやり取りを行い、迅速な作業で編集された動画をファンへ届けている。SNSは日本だけでなく、パ・リーグが積極的なプロモーションを行う台湾にもFacebookページが用意されており、台湾人選手の活躍を中心に投稿されていく。

SNS担当と連動する動画編集担当は、試合進行と同時に、さまざまな視点から見た動画などの多種多様なコンテンツも編集している。事前にSNS担当とすり合わることもあれば、動画編集担当が「これいきますか?」という声を皮切りに素早い作業で動画に彩りを与えていくことも。打撃シーンや好プレーを単純につなぐだけでなく、楽天・銀次選手のバット回しを「ライトセーバー」風にしたり、北海道日本ハム・西川遥輝選手のジャンピングキャッチを「エア・ジョーダン」風にしたりするのも、動画編集担当の所業だ。

また試合後に配信される、いわゆる「まとめ動画」も、基本的には試合中に状況を見ながら制作されていくという。見逃し三振だけをまとめたシーン、ダブルプレーだけをまとめたシーン、直近ではストッキングを上げた「オールドスタイル」の選手が活躍するシーンのまとめなど、割と玄人好みの動画となる傾向があるようだ。

ちなみにパ・リーグTVでは、現在プロ野球に興味がない、あるいは興味を持ち始めた方々に向けては有名人・芸能人等々による始球式の動画を、熱の入ったファンや既存のファンに向けてはプレーの動画、あるいは先述の玄人好みのような動画など、ターゲットに応じて切り分けて配信しているという。

これらのパ・リーグTVの動画は、国内だけでなく、台湾や時にはアメリカといった海外のメディアも、彼ら彼女らが配信している記事に紐づけて紹介されるケースが増えてきたという。「どっちの野球が優れているとかそういった観点ではなく、どんな形であれ、とにかく日本にある野球も面白そうだな、あるいはちょっと見てみようかなと思ってもらえるきっかけになってほしい」と前述の上野氏は語る。さらに「今後は今まで以上にプロ野球のファンを増やしていけるように、もっと多種多様なコンテンツを出していきたいですね。そのためにインターンなどのスタッフも増やしていて、現在では台湾からの留学生インターンも参加してくれています。またテキストメディアの『パ・リーグ インサイト』も今年2月に始まり、ここまで100本以上の記事を配信してきて、こちらもさまざまな書き手に記事を書いていただいています。海外含め、よりさまざまなファンの方々のニーズに応えられるようなコンテンツを随時出していけるようにしていきます」と、今後に向けての抱負を語っている。

またプロ野球に限らず、昨年はパ・リーグTVの配信システムを利用し、女子プロゴルフトーナメントの配信も実施した。今年もすでにゴルフイベントの配信が予定されているようで、横展開はさらに進んでいく見込みだという。「プロ野球の新しいファンを増やすこと」という明確なミッションの下、向かい風にも屈することなく、PLMの「裏方」たちはファンの喜び・楽しみのために、今日もせわしなく動いているに違いない。

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