今季から倍増となる6000万円プラス出来高でサイン
長い長い交渉時間だった。午後4時に始まった福岡ソフトバンク石川柊太投手の契約更改交渉。時計の長い針が1回転しても、終わらない。ようやく右腕がハンコを押したのは、午後6時目前。交渉開始からまもなく2時間になろうとしているタイミングで、ようやく交渉がまとまった。
交渉日時が設定される前に下交渉が行われているのが、現在のプロ野球の契約更改交渉。そのため、通常は1時間以内で終わるのだが、異例の2時間近いロングラン交渉となった。交渉終了後、石川は「言いたいことを言っていった結果です。自分の立場は球団の方からも評価しづらいと思うので、話の中で擦り合わせていて、これだけの時間になった」と、交渉が長引いたワケを説明した。
今季の3000万円から倍増となる年俸6000万円プラス出来高払いで、契約を更改した石川。2時間にも及ぶ交渉で、球団にぶつけたのは“便利屋としての誇り”だった(金額は推定)。
今季、石川が任された役割は多岐に渡った。中継ぎとして開幕を迎えたが、故障者続出で4月半ばには先発へ配置転換となった。だが、8月にはチーム事情もあって再びリリーフへ。中継ぎでも時にはロングリリーフを任され、時にはセットアッパーの1人として勝ちパターンで投げることもあった。
その働きぶりは、成績にも表れている。今季は42試合に登板し、うち先発が16試合、中継ぎが26試合。チームトップタイの13勝のうち先発で7勝、中継ぎで6勝をマークし、さらにはホールドも6を記録し、防御率は3.60。チームが求める役割に応じて、その場その場で見事に対応してみせた。
とはいえ、先発でもあれば、中継ぎでもあり、更に言えば、ロングリリーバーでもあれば、セットアッパーでもあった石川の評価は確かに難しくなる。その中で石川は「前例のないこと。野球界で先発完投や規定投球回到達者が少なくなっている中で、自分のような投手はこれからもっと出てくる。先駆けのつもりで交渉に臨んで、価値がある」ということを伝えたという。
そして、交渉の中で、当初の提示にはなかった出来高が設定されることに。その内容は「先発と中で合わせても取れるし、先発だけ、中継ぎだけでも取れるような感じ」だという。「嬉しかったこと。両立してくれたからと出来高をつけてくれた。自分自身、納得したので、来年のモチベーションにもなる」と語り「便利屋としての前例の第1歩としてやったので」と胸を張った。
先発、中継ぎを遜色なく高いレベルでこなすことができることを「それが強みだと思っているので。自分の強み、隙間を埋められることを評価してもらったので、そこは誇りにもなりました」 と語った石川。来季に向けても「どの立場でも花を咲かせるつもりでやっている。先発、中継ぎどちらでも全力でやろうと思っています。まずはヨーイドンは先発で入って、そこからどうなるかはチーム状況によって、ですね」と、どちらでも問わない姿勢だ。
石川柊太、26歳。究極の“便利屋”として、これほど頼もしい存在はいないだろう。
(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)
記事提供: