【大学野球】美声が話題の法大・上中咲葵マネジャー 場内アナウンスの原点は西武ドームでの「栗山選手、頑張れ~」
スポーツ報知
- ニュース
2024.2.9(金) 11:00
いつもなら心が弾むプレーボールの瞬間なのに。この日だけは、胸の鼓動が止まらなかった。
小学5年生の頃の話だ。2013年5月6日、西武ドームで行われた西武・日本ハム戦。西武ファンクラブのジュニア会員を対象に、試合中のアナウンス体験ができるという企画があった。
「母が勝手に応募したんですよ。私は人見知りで小心者だったので、『そんなのできない!』と思ったんですが、当たったからにはやるしかないって。キャンセルもできないので…」
ブースからグラウンドに目をやると、2万7000人を超える大観衆の熱気が伝わってきた。目前の一塁側ネクストバッターズサークルでは、「1番・右翼」で先発出場した日本ハムのルーキー・大谷翔平が、素振りを繰り返していた。
自らの声がドーム内に響き、溶けて、次の瞬間は歓声に変わっていく。
試合は進んでいった。隣で指導してくれたスタジアムDJのリスケさんから、こう聞かれた。
「選手は誰が好きなの?」
「栗山選手です」
「じゃあ、栗山選手の時、何かアドリブを入れようよ。そうだなあ。コールした後に、『栗山選手、頑張れ~』って言ってみよう」
場内は沸きに沸いた。大成功だった。誰もが笑顔だった。
当の本人を除いては。
「後から聞き返してみたら、その声がすごく無愛想で…。もっと明るい感じで言えればよかったのになあって、後悔したんです。でも、それがきっかけで場内アナウンスがもっとやりたいなと思うようになって」
昨年から東京六大学野球の場内アナウンスでその美声が話題になっている、法大の上中咲葵マネジャー。その原点である。
父は元西武外野手の上中吉成さん。現在は若獅子寮の副寮長を務める。その影響で物心ついた頃からずっと、熱心な西武ファンだ。
「アルバムを開くと、幼稚園の頃から外野席で応援している写真があるんですよ」
翌2014年のことだ。「埼玉VS千葉ライバルシリーズ」の一環として、マリーンズスタジアムアナウンサーの谷保恵美さんが敵地の西武ドームを訪れ、スタメン発表や打者の呼び出しを行った。聴き惚れた。
「初めて谷保さんの声を生で聴いて、きれいで柔らかくて、芯があって…私もこういう声になりたいなあと思ったんです」
西武文理高校では迷わず野球部に入部し、マネジャーを務めた。2020年、最後の夏はコロナ禍に見舞われ、甲子園大会が中止になった。夏の埼玉大会の代替大会。通常なら県営大宮公園で行われる準決勝、決勝が、西武球団の粋な計らいで西武ドームで行われることになった。上中マネは準決勝のアナウンスを任された。「栗山選手、頑張れ~」の声にへこんだ、あの日以来の“リベンジマッチ”だった。
「まさか西武ドームで、2回もアナウンスを体験させていただけるだなんて」
東京六大学では2年秋のフレッシュリーグで神宮デビュー。3年からリーグ戦で大役を担うと、観客の間で「谷保さんに似ている」とSNSでの投稿が相次いだ。
「いろんな方に『似ているね』と言って頂けて、大変おこがましいです。ずっと昔から憧れて、聴いていたものですから」
大学ラストイヤー。ブースに座る際のときめきと不安は、西武ドームで迎えたあの時と変わらない。神宮の杜に美声が溶ける春の日が、もうすぐやってくる。(編集委員・加藤 弘士)
関連ニュース
・「ないかもしれない」という西武ベテラン右腕の初体験
・【西武】守護神候補の新外国人が初ブルペン 気に入った日本食は
・【西武】新外国人コルデロが7本のサク越え
・【西武】佐藤龍世の背番号変更で喜んでくれた“兄貴分”は
・【西武】外野にチャレンジする21歳・4年目野手に松井監督「いい挑戦」チーム内競争にも期待