日本ハム・杉谷拳士内野手（３１）が２８日、札幌市内の球団事務所で会見に臨み、今季限りで現役を引退することを表明。「引退会見という言葉は使いたくありません」と「前進会見」で約４５分、語り尽くした。何度も言葉を詰まらせていた中、栗山英樹前監督（６１）＝現侍ジャパン監督＝がサプライズ登場し、号泣。今後は起業なども含め、スポーツに携わる意向を示した。

　＊　＊　＊

　一度だけ杉谷に怒られたことがある。私は同学年で和気あいあいと普段から冗談を言い合う仲だが、数年たった今でもあの張り詰めた空気を体が覚えている。１０月の秋季練習。千葉・鎌ケ谷の２軍施設で汗を流す杉谷を勇翔寮の前で待ち、終わりがけに「来年の正月もとんねるずさんの野球盤に出る？」と声を掛けた。

　すると、いつもひょうきんな男の表情がみるみるうちに変わっていく。直後にこう言われた。「俺は野球選手だからな。来年のために練習してるから。開口一番その質問はなしだろ」。返す言葉が見つからなかった。その後に謝ると、今度は笑顔で言われた。「全然まだ出るか決まってないけど、楽しみにしとけよ！」

　こんなことを書けば「営業妨害だ」とまた怒られるかもしれないが、誰よりも練習熱心で真摯に野球と向き合う選手だった。バラエティー番組で大暴れする杉谷も好きだが、ただ一心不乱に野球に打ち込む杉谷も好きだ。“前進会見”の前、久々に電話すると２０回以上も「前進」というワードを使って現在の心境を明かしてくれた。

　カラオケでどんちゃん騒ぎしたり、自宅に招いてもらって鍋を食べたり、米アリゾナキャンプ中にステーキを食べに行ったり…。グラウンドの外での思い出も尽きないが、やっぱり印象に残っているのは、あの日の鎌ケ谷での出来事。毎日毎日、己と戦い続けてきたプロ１４年間だった。底抜けに明るく、強い選手だった。（中野　雄太）

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