スタートダッシュに成功するも、6月以降は成績低下

2024年ドラフト2位で埼玉西武に入団した渡部聖弥選手。開幕スタメンを勝ち取り、球団の新人では44年ぶりとなる5試合連続マルチ安打を記録するなど、3・4月は期待に違わぬ好スタートを切った。しかし、5月中旬に左足首を負傷して1カ月余り戦線を離脱。復帰した6月27日以降の打率は.185にとどまっている。今回は渡部選手が直面する「プロの壁」を分析し、打開のカギを探ってみたい。
得意と苦手がハッキリ分かれる球種別成績

まずは渡部選手のバッティングの特徴を確認しよう。表のように球種を3つのタイプに分類して打撃成績を見ると、スライダーやカーブといった曲がる系の変化球に対しては打率.283をマーク。直球系に対しては長打率が高く、特にストレートでは球種別で最多の4本塁打を記録するなど、プロの球威に負けないパンチ力を発揮している。一方、フォークやチェンジアップなどの落ちる変化球には苦しんでおり、打率はリーグ平均以下、長打率も平均と同程度にとどまっている。
平均よりも多いゴロ打球

落ちる系を苦手としていることは、打球の傾向からも見えてくる。渡部選手は比較的ゴロ打球が多いバッターだが、特に落ちる系では60%台と、リーグ平均より12ポイント以上も高くなっている。ゴロは安打(特に長打)になる確率が低くなることを考えると、フォークなど落ちる変化球へのアプローチは見直す必要があるかもしれない。
弱点を見逃さないプロの投手たち

このような打者としての特徴は、対戦相手もしっかりと頭に入れている。上の表は、渡部選手に対する球種タイプ別の投球割合を5月までと6月以降で算出したものだ。一軍に復帰した6月以降、曲がる系の割合が減り、苦手な落ちる系の割合が増えていることに注目したい。
象徴的な例として、北海道日本ハム・達孝太投手との対戦が挙げられる。5月4日の初顔合わせでは3打席で投じたのはストレートとスライダーのみ。3打席目にはストレートを捉え、二塁打を記録している。ところが6月29日の試合では、全22球のうちフォークが8球と弱点を突く配球に変化。2打席目ではそのフォークで三振に打ち取られている。この試合後、さらに7月14日、8月7日と2試合で対戦があったが、渡部選手への投球は3割近くがフォークやチェンジアップで、やはり配球に変化が見られた。結果として、6月以降の対戦は9打数無安打3三振に終わっており、序盤で大活躍を見せたルーキーに対するマークの厳しさがうかがえる。
今後のポイントは“打球にどれだけ角度をつけられるか”

先述の通りゴロを多く打たされるなど苦戦が続く渡部選手だが、芯で捉えた時の強烈な打球は大きな魅力だ。実際、フライやライナーに限った打撃成績は優れた数字をマークしており、特に長打率はリーグ平均を大きく上回っている。こういった打球をどれだけ増やせるかが今後のポイントとなるだろう。
8月13日の福岡ソフトバンク戦では、上沢直之投手のフォークに第1打席は空振り三振、第2打席では内野ゴロに打ち取られるなど、依然として他球団からの警戒は続いているが、対戦を重ねる中で相手バッテリーの対策を乗り越え、再び持ち味を発揮できれば成績は上向くはずだ。新人王の可能性も十分に残っており、受賞すればパ・リーグの大卒1年目野手としては56年ぶりの快挙となる。勝負の終盤戦で「獅子の若大将」は逆襲を見せられるか。
※文章、表中の数字はすべて2025年8月24日終了時点
文・データスタジアム
