今シーズンより、パ・リーグ6球団とパシフィックリーグマーケティング株式会社(6球団共同出資会社/PLM)は、「国民みんなの健康を実現すること」をビジョンに掲げ、歩数計スマホアプリ「パ・リーグウォーク」をスタートした。「パ・リーグウォーク」とは、球場で試合観戦することがファンの皆さまの健康につながることをメッセージとしている。
日常生活では歩数計アプリとして機能し、日々の歩数に応じて多く歩いた人をMVPとして表彰したりしている。また試合日では、自らが応援する球団対抗でファンの合計歩数を争うなどのゲーミフィケーション機能を設けている。
なぜ球場で試合観戦することが健康に繋がるのか、企画者の一人であるPLMマーケティング室リーダーの荒井勇気氏に聞いてみた。
「人によって生活行動は異なりますが、基本的には球場で試合観戦する行動は、日常生活よりも多く歩くと考えています。理由は、自宅から最寄り駅までや乗り換え時、また球場へ到着してからの座席へ着くまでや飲食やグッズの購入時など、移動の機会が非常に多いからです。そして歩くことが健康につながる、という点については、共同企画者であるハーバード公衆衛生大学院のラボで研究する鎌田氏によると、歩くという行動は最も万人に共通する運動であり、運動することは病気予防の観点で重要なファクターである、とされているからです」
アイデアや考え方は十分に理解できるが、それらのことを実際の形にするのは物理的困難が生じたり、時間がかかったりするのではないか。そのような推測を解決したのが、PLMがサンフランシスコで出会ったベンチャー企業KiNE創設者の平山太朗氏だった。
「日本でできないことを米国でやる。法律の問題などもあり、スタートアップ企業に対して国内のベンチャーキャピタルは機能していない。でも、スマホアプリなどのソフトウェア投資は少額でできる。例えば500万円でもワークすることができる。不動産などと比較しても、こんなに容易に参画できる投資分野は他にはない。国内のソフトウェア投資市場は活性化していなかったので、サンフランシスコやシリコンバレーに興味があった。実際に現地へ行くと、ハッカソンやミートアップを日本とは比較にはならないくらいに圧倒的な数で行っていた。でもフェイスブックなどの大企業がいきなり出てくるかはよく分からなかった。現地で気付いた最大の問題点は、ベンチャーキャピタルや個人投資家がどこに投資すればよいのかが分からないこと。なぜなら、既にユーザーが大勢ついているビジネスはあまりないから」
そのように考えていた平山氏は、PLMと出会って「パ・リーグウォーク」構想の会話をした際にこう感じたと言う。
「パ・リーグは、既に1,000万人規模のファンマーケットが存在している。この大勢のファン(ユーザー)に対して何かできないかを考えたほうが、やみくもに新規事業をスタートさせるよりも建設的である。そもそもPLMが抱えている課題、新しいプロ野球ファンを増やすことを、新たな切り口で課題解決できるのではないか。毎日継続的にやっている行動を、健康を切り口として野球観戦と結び付けられるのではないか。ここが出発点だった」
昨年夏に「パ・リーグウォーク」構想がスタートし、2016年開幕に合わせた開発プロジェクトが動き出した。平山氏は、PLMやハーバードの方々と何度も電話会議を行い、時にはハーバード大学院があるボストンへ渡米した。その結果、短期間でスマホアプリの骨子をまとめて、何とか開幕に合わせてサービスをローンチすることができた。
「プロ野球ファンが求めるエンターテインメントのレベルは高く、それに対して応えようとする途上に現在ある。歩くことで、地元地域やソーシャルメディアでつながった友達同士が協力したり競い合ったりする。そのことにより、ファンは健康を特に意識すること無く、自然に健康になることができる。そして、システムのバックグラウンドで取った歩数データを、学術的な研究につなげることができ、そのことが仕組み化されて『国民みんなが健康になること』ができれば、開発者としてこんなにうれしいことはない。そして、最終的には1人1人の動きの分析、さまざまな切り口で分析を通じて、社会で総合的なコミュニケーションが取れるような仕組みにしていきたい」
平山氏は笑顔で語ってくれた。
健康を意識することなく、結果として自然と健康につながる行動となる。現在の市場を見回すと、このような取組は少ないことに気づく。企業側が、いくら「歩こう」とか「健康になろう」とメッセージを出しても、大半の国民は自分が健康的だと思っているので響かない。むしろこの「パ・リーグウォーク」の取組のように、「球場へ試合観戦に行こう」とか「自分の好きな球団を応援しよう」というメッセージが本当に健康につながるのであれば、社会として継続的なムーブメントになっていくであろう。そして、パ・リーグのみならず、他競技や他の日常生活でもこの考え方や行動が広まっていくことに期待したい。
▼「パ・リーグウォーク」
http://app.pacificleague.jp/walk/
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