9月2日(土)と3日(日)の2日間、株式会社西武ライオンズが主催し、埼玉県さいたま市大宮区にある大宮第二公園多目的広場で「第3回ライオンズカップ車椅子ソフトボール大会」を開催。今年は日本初となるジュニア大会も同時に行われ、炎天下に負けないほどの熱い戦いが繰り広げられた。
車椅子ソフトボールは、アメリカが発祥の10人制車椅子競技。日本では、「障がいをもつ方々も野球やソフトボールが楽しめるように」というコンセプトで北海道を起点として広まり、現在では全国各地で普及活動が行われている。埼玉西武ライオンズはその活動に支援する形で、2015年からプロ野球球団初の主催となる「ライオンズカップ車椅子ソフトボール大会」を開催。
大会初日は、大会開始前に雨が上がったものの、あいにくの天気となった。2日目は初日と打って変わり晴天に恵まれた。両日とも大宮第二公園の西寄りに位置する多目的広場の二面を使用し、日本車椅子協会加盟の6チームによる本大会とジュニア大会が行われた。
正直な話、車椅子に乗りながら打球を追い掛けるのだから、そんな簡単にアウトにならないだろうし、簡単に打てないのではないだろうか…などと考えていた。しかし、実際に足を運んでみると、走・攻・守それぞれのレベルの高さに驚愕。そこで行われていたプレーは驚きの連続であった。
打者はバットで投球を打ち返し、すぐさま両腕で車椅子を懸命にこいで1塁へ向かう。一方の守備側は広いグラウンドで打球を追い掛け、安定しない車椅子上で上半身だけを駆使し、距離の離れた1塁に送球する。このプレーの一つ一つが想像以上に難しい。
競技用の車椅子に乗り、実際に体験をしてみると、その難しさがすぐに分かる。まず、打つ際に足を地面について固定してはいけないというルールの壁にぶち当たる。なぜなら、小回りが利く競技用車椅子のため、普通にスイングすればクルンと車椅子ごと回転してしまい、打球に力が伝わらないからである。それを阻止するためには、右足をステップとタイヤの間に挟んで回転を抑える必要がある。
やっとの思いで打球を前に飛ばすと、1塁に向かうというさらなる壁が立ちはだかる。これがまた難しい。両腕でバランスよく力を加えないと、思わぬ方向に曲がってしまい、真っ直ぐに進むことができないためだ。これらを難なくこなすプレーヤーの凄さを思い知らされた。
本大会に出場している各チームの選手たちもさることながら、日本初の開催となったジュニアメンバーのレベルの高さにも驚かされた。埼玉A.S.ライオンズに所属し、ジュニアメンバーのコーチを務めた野島弘氏は「レベルが高くてびっくりしたよ」と舌を巻く。それに加え、車椅子に乗ってプレーする子供たちの元気の良さと屈託のない笑顔に、見ているこちらが力をもらったほどだ。
ジュニア大会が終了し、もう一方のコートでは本大会の決勝戦として、埼玉A.S.ライオンズと横浜ガルスの一戦が行われた。序盤は埼玉A.S.ライオンズが大きくリードを奪うも、中盤に横浜ガルスが逆転。3点ビハインドで迎えた最終回に埼玉A.S.ライオンズが4得点でサヨナラ勝ちを収めた。
埼玉A.S.ライオンズを率い、見事3連覇を果たした堀江航氏は「3連覇を達成できてうれしいですし、いいチームになりました」とコメント。続けて「プロ野球の球団がこのような大会を開催してくれることで注目度も高くなりますし、この競技を知らない人とかも見に来てくれたりするので、埼玉西武ライオンズさんの支援活動は大変ありがたく思います」と感謝の言葉を口にする。
堀江氏は昨年、西武プリンスドーム(現メットライフドーム)で始球式を務めたこともあるように、車椅子競技の競技者として自ら率先して普及活動を行っている。「競技人口を増やすこともそうですが、競技が行える環境が増えていってほしいと思っています。それによってこの競技がもっと認知され、結果としてパラリンピックの競技になればいいなと思っています」と、さらに普及が進むことを切望する。
最終的にパラリンピックの正式種目を目指すにあたり、課題や改善すべき点はいくつも存在する。それはやはり、競技者人口を増やすこと、そして競技場所の確保という点だろう。
今大会の運営に携わった株式会社西武ライオンズ・事業部リーダーの別府学氏は「試合数を確保するために必要な二面のフィールドを取るのがなかなか難しかったり、こういう広いスペースはあっても下がボコボコであったり、傾斜がついていたりして平らなスペースの確保が難しいです。同様に選手の皆さまも練習場所の確保などに苦労されているとのことでした。なかなか課題の解消は簡単なことではありませんが、我々が主催として開催することで、少しでも機会が作れたらいいなと思っております」と、大会を主催する理由について説明する。
まず、広いスペースを探すことに苦労し、仮に見つかったとしても車椅子で競技ができるという条件をクリアしなければならない。そこら中にある土のグラウンドの球場ではなく、駐車場のような凹凸のない平らな広場が最適な場所であり、このような場所を増やすためには、知名度が高まり、競技者人口が増えていくことが必須条件と言える。
別府氏は今後について「プロ野球チームから発信することは、一般の方への影響力があるものだと考えていて、可能であれば埼玉西武ライオンズだけでなく、他の球団にもこの様な取り組みが広がっていってほしいです。そしてプロ野球だけでなく、野球、ソフトボールに関係する団体が一丸となり、誰でも楽しむことができる野球型スポーツというものを広げていきたいなと思います。支援する形はそれぞれだと思うので、それぞれができる形で、プロアマ関係なく一緒になって普及できたらいいなと思っております」と力説する。
今回のような活動自体は、メットライフドームの動員などに直接結びつくものではない。しかし、野球をはじめとする、ソフトボールやスポーツ界全体の活性化を本気で願うからこそ、埼玉西武ライオンズは様々な支援を行っている。あとは今大会のような活動が、他球団や他競技へと広まっていくことを願うばかりだ。
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