【6の背中】千葉ロッテ・平沢大河編

パ・リーグ インサイト マリーンズ球団広報 梶原紀章

2017.9.13(水) 00:00

千葉ロッテマリーンズ・井口資仁選手、平沢大河選手 ※球団提供
千葉ロッテマリーンズ・井口資仁選手、平沢大河選手 ※球団提供

二軍での練習日。平沢大河内野手は、いつもより早めに目が覚めたため、午前7時に球場入りをして先にウェートを行うことを決めた。誰もいないと思い、ウェートルームのドアを開けると引退試合に向けて二軍調整を行っていた井口資仁内野手が汗を流している姿があった。

「あれだけのベテランの人がこんなに早く来てウェートをしているとは思わなかった。ビックリした。2人きりだったので緊張しました」

これまで大ベテランと二人だけの空間を過ごしたことがなかった。プロ2年目の若者にとって井口とはテレビで見ていた大リーガーだった。小学生の頃、大リーグ中継を見ているとシカゴホワイトソックスの背番号「15」を背負った日本人大リーガーが躍動をしていた。その思い出が強烈にある。そんな大先輩からウェートルームで声をかけてもらった。「二軍に落ちてどれくらい経つの?そろそろ上がらないといけないなあ」。たわいもない会話だった。それでも、なんとなく嬉しかった。

「朝早くからみっちりとウェートをした後も、アップ、打撃練習、守備練習とボクたちと同じメニューを同じようにこなしている。凄いなあと思いました」

ベテラン選手は別メニューでの調整を行う事も多い中で、背番号「6」が午前7時のウェートに始まり、練習日のすべての通常メニューすべてを抜くことなく全力でこなす背中になんともいえないカッコよさを感じた。調整のため二軍合流してからは特にその背中をいつも以上に注視してきた。

「あの年であんなにボールを飛ばせる。右方向にも飛ばせる。見ていて楽しいし、音も凄い。なんといってもリストの強さを感じました」

一軍で忘れられないのはスタメンを外れ代打待機していた時の事。同じく代打待ちをしていた井口とベンチ裏のスイングルームで一緒になった。入念にバットを振る姿は鬼気迫るものがあった。何物も寄せ付けないほど集中をしているように見えた。

「代打は一回勝負。準備と集中力の大事さを、井口さんを見て感じた」

1打席という限られた状況で打つ球は1球。それを仕留めるためには入念な備えが必要となる。そのひと振りのために大ベテランは初回から、指示が飛ぶまで鏡の前で気持ちを徐々に高めていた。プロの凄さをまざまざと感じた。

23歳差。平沢が生まれた時にはすでに井口はプロ入りをしていた。高校3年生の娘とたったの2歳違い。そんな年の差だから、なかなか会話は発生しない。井口もあまり話しかけることはしなかった。それにはベテランなりの配慮があった。

「今、彼には話しかけるタイミングではないと思っていた。彼は今、自分でいろいろと考えながら頑張っている。いろいろな事を試しながら自分のいいものを見つけようとしている。その作業はとても大事な事で、自分が口を挟むべきではないし、安易にアドバイスをすべきでもない。でも彼の動きはずっと見ている」

大ベテランは仙台育英高校から昨年、大きな期待をかけられ入団をしてきた若者を確かにずっと見ていた。二軍では、自身の打撃終了後も平沢のバッティングを微動だにせず凝視し続けていた。平沢本人は「気が付いていなかった」というが、第3者からすれば明らかに期待をかけている目をしていた。打撃練習、マシン打撃、ティー打撃。そのすべてを見ていた。

「頑張っているよね。時間を見つけてはティー打撃をしたり、朝早くからウェートをしたり、いろいろと自分の時間をうまく利用して、もがいている。そういう時間の使い方は大切。必ず報われる」

後日、背番号「6」の想いを伝え聞いた平沢は頭を掻きながら照れ笑いを浮かべた。それは、なんとも嬉しそうな笑みだった。

「言葉ではなくて行動で示せる選手は本当にカッコいいと思います。誰もが出来ることではない。憧れますし、目指したい。これからのマリーンズはボクも含めた若い選手の底上げが絶対に必要。ボクも試合で結果を出して、井口さんも満足するようないいチームにしたい」

平沢は9月8日に一軍に再昇格をした。来季に向けてスタメンで出る機会も増えた。まだまだ結果が伴わない事も多く、ミスもあるが必死に懸命に生きている。そしてそんなガムシャラな姿を今季限りで21年間にも及ぶ現役生活に別れを告げる大ベテランは優しい目で見つめている。背番号「6」から「13」へ。言葉ではなく、背中で受け継ぐ想いがある。未来は確かに広がっている。

記事提供:

パ・リーグ インサイト マリーンズ球団広報 梶原紀章

この記事をシェア

  • X
  • Facebook
  • LINE