VRがもたらす日米野球界への多様性

パ・リーグ インサイト 新川諒

2017.9.7(木) 00:00

エンターテイメント施設などの誕生もあり、VR(バーチャルリアリティー)という言葉が広く浸透しつつある。様々な分野で活用されている技術だが、日米の野球界でも色々な形で現場をサポートし、ファンを楽しませている。

ファンを楽しませるために活用しているのが、中継でのVR利用だ。MLBはインテル社と3年契約を結び、6月初旬から毎週1試合をVR配信している。様々な実験を行いながら試行錯誤を続けているようだが、ダグアウトに設置されたカメラで多くのファンにこれまでにない視点を提供している。さらには独自の特徴を持つ各MLBスタジアムでは、その球場にしかない角度を視聴者に提供している。ボストン・レッドソックスの本拠地・フェンウェイパークではグリーンモンスターから、そしてアリゾナ・ダイヤモンドバックスの本拠地・チェイス・フィールドではプールの付近からなど、これまでとは違った選択肢も多く提供している。

さらに、MLBが提供する公式アプリMLB at BatのVR版も今年6月からサービスを開始した。ハイライト映像やデータをVR空間で楽しみながら観戦が可能となった。ファンとしては監督の采配の裏にあった数字などをライブで確認しながら試合をどこからでも観ることができる。

一方、日本のプロ野球では、パシフィックリーグマーケティング株式会社の試みによりライブストリーミング配信第2弾として、9月7日の埼玉西武ライオンズと千葉ロッテマリーンズの一戦でVR配信が行われる。メインとなる360度パノラマ映像で観戦しながらベンチ付近などの様々な角度の映像を、サブスクリーンを用いて楽しむことができる。さらには、離れた友人と音声で会話をしながら観戦するといった「ボイスチャット」という楽しみ方も提供される。

VRはファンを画面上で楽しませるだけではなく、球場でも新たなエンターテイメント要素として提供している。フェンウェイパークではコンコースで「VRダグアウト」を設置し、一流の選手たちの打撃練習やブルペンでの投球練習を体感できる場を提供。後にはVRを駆使したバッティングケージも設置され、メジャーリーガーと対戦できるようになった。オールスター期間に開催されたファンフェスタでは、開催地のマイアミでサンフランシスコ・ジャイアンツのオールスター捕手・バスター・ポージーが日々プレートの後でどういった球を受けているのかが体感できるようになっていた。

日本の球場でもZOZOマリンスタジアムで試合のVRライブ配信を実施。バックネット裏のネクストバッターズサークル付近にカメラを設置し、その様子をファンが体感できる機会を提供した。横浜スタジアムでもコンコースで360度映像を体験できるブースなどを設置する試みを行っている。

VRはファンだけでなく、現場でも技術向上、そして選手たちがイメージを明確に持ったまま試合に臨めるように活用されている。楽天の選手たちはNTTデータと共同開発した機器を使って対戦相手のシミュレーションを行っている。MLBでもタンパベイ・レイズがいち早くトレーニングに取り入れ、現在は活用している球団も多くなってきている。

VRを活用するのは、選手だけではなく今後は審判たちのトレーニングにも使用されることになりそうだ。すでにNFLやNBAの他リーグは若手審判の育成などにVRプログラムを導入しているが、その輪がいずれMLBにも広がっていくことになるだろう。

今ではカラオケボックスや様々なイベントでもVR野球体験ができる空間が設置されている場を見かけることが増えてきた。日本でも開催されているMLBロードショーのイベントでもVRでホームランダービーを体感できる機会が提供されていた。

VRのような技術が進化していく事で今後、多くの可能性が広がってくる。そのテクノロジーがもたらす多様性を日米の野球界がどんな形で活用して、楽しみ方を増やしてくれるのか。今後も試行錯誤が続いていくだろう。

記事提供:

パ・リーグ インサイト 新川諒

この記事をシェア

  • X
  • Facebook
  • LINE