メジャーリーグでは、2016年シーズンのドラフトが6月9日から11日までの3日間開催されている。日本では一日で終わるドラフトが、なぜ米国では3日もかけて行われるのだろうか?
その答えは、プロ野球12球団が最大で指名できる選手が120人であるのに対し、メジャーでは30球団が40巡目まで指名権を持っており、合計1200人がプロ入りする可能性を秘めているからだ。
各球団将来のメジャーリーガーとなるべき逸材40人を指名するために、広大なスカウト陣を擁し、全米中のタレントを見定めている。ドラフト前には各地でスカウト活動を続けていた者たちが集結し、それぞれが見てきた選手たちをプレゼンする。私もメジャー球団でインターンをしていた際にこの会議に居合わせたことがあるが、選手の育ちや両親の職業など至るところまで話し合う。そのプレゼン内容を受けて、定められた指名順位で誰を選択するのかという、ボードを作成する。他球団あってのドラフトであるため、さまざまなシナリオを予想して何通りの可能性も考えていく。
さらに球団側が意中の選手を選択しても、それが相思相愛になるかはまだ別の話だ。事前にスカウトたちは選手自身が大学進学ではなく、プロ入りを希望しているのかということも調査しておく必要がある。
上位指名であれば多額な契約金が約束されているため入団することが多いが、下位指名の選手にとっては大学進学を優先するなどして自らの価値を高め、再び数年後に上位ドラフト指名されることを目指すためにプロ入りを断る場合もある。
日本では希望球団への入団が実現しなかった場合、ドラフト指名を受けても入団を拒否するという例がこれまでにもあったが、米国ではどちらかと言えば指名を受けた後の契約金交渉がまとまらずに入団に至らなかったケースが多い。
2014年のドラフトでは、ブレイディ・エイケン投手がヒューストン・アストロスから全体1位指名を受けたにも関わらず、身体検査で右肘の炎症が見つかったため契約金の交渉で折り合いが付かなかった。入団することなく1年間IMGアカデミーのプログラムでトレーニングを続けるが、肘の違和感を訴えて結局トミー・ジョン手術を受けることとなった。そして翌年ドラフト全体17位指名を受けて、クリーブランド・インディアンスに入団する。怪我が見つかったとはいえ、契約金の交渉で折り合いが付かずに入団をしないという選択は吉と出るか凶と出るかはさまざまだ。
一方日本では、上位指名を受けた選手は即戦力として見られる場合が多い。今年もルーキーで開幕一軍を決めたのが、パ・リーグでは北海道日本ハムファイターズの2位・加藤貴之投手、3位・井口和朋投手、6位の横尾俊建選手、東北楽天ゴールデンイーグルスの1位・オコエ瑠偉選手、3位・茂木栄五郎選手、5位・石橋良太投手、オリックス・バファローズの1位・吉田正尚選手、7位・鈴木昂平選手、9位・赤間謙投手だ。もちろん開幕のチーム事情もあり、数試合で二軍降格となる選手もいるが、開幕戦の舞台にはこれほどの人数がドラフト1年目で一軍に名を連ねた。
一方でメジャーではドラフトされた年に、いきなりメジャーの舞台でプレーする選手というのは非常に珍しい。それでも1965年以降では、これまで21人の選手がマイナーリーグを経験せずにメジャーでプレーしている。
最近では2009年ドラフト全体8位指名を受け、シンシナティ・レッズに入団したマイク・リーク投手だ。2006年には高卒で全体218位指名を受けたが、大学進学を選択した。そして3年後のドラフトで上位指名を勝ち取り、その年秋季リーグで活躍。メジャーリーグキャンプに招待選手として参加し、見事ローテーションの5番手をつかみ取った。マイナーリーグを経験せずに開幕メジャーを勝ち取ったのは、2000年のゼイビア・ネイディ選手以来11年ぶりだった。
メジャーでは日本のプロ野球、そして米国四大スポーツのNBAやNFLに比べても、ドラフトされた選手が即戦力として起用される割合は極めて少ない。2014年のワールドシリーズでは、その年全米大学選手権の決勝でも投げたカンザスシティ・ロイヤルズのブランドン・フィネガン投手が史上初、同年で大学・プロ両方の最終シリーズで投げた投手となった。こういったストーリーは稀であり、選手たちは即戦力としてではなく、長期的な視点でチームの将来を担う存在としてドラフトされている。
そのためメジャーリーガーたちはドラフト当日を客観的に見ている選手も多いようだ。もちろん同じチームの主力選手が若手であって、同じポジションの選手が上位で指名されれば気持ちがいいものではない。だがメジャーまでの道のりは簡単ではないと理解していて、自身も経験しているからこそ、すぐに危機感が生まれることは少ないだろう。
一方でマイナーリーグでは、その危機感の度合いは変わってくる。私がこのドラフト当日をマイナーのロッカーで迎えた時、在籍していた選手たちはテレビに釘付けで自らの球団が誰を、と言うよりはどのポジションの選手を指名するのかを気にしていた。
例えば球団がキャッチャーを指名した場合は、チームメートたちが同チームのキャッチャーにブラックジョークを投げかけるというのが恒例だ。正直笑えるようで全く笑えないジョークではある。
なぜならドラフトされた選手が契約に合意して、いきなりメジャーやその1つ下のレベルであるトリプルAで出場しないにしても、組織内のマイナーでプレーすることによって1人キャッチャーが余分に存在することとなってしまう。そのため将来の見切りをつけられた選手は解雇される可能性もある。ドラフトが終わり、指名を受けた選手たちが次々に契約をしていくと、実は大きなニュースとはなっていないが、マイナーでは解雇の通達を受ける選手も少なくない。
米国のドラフトでは指名された選手の喜びの声や飛び交う多額な金額で華やかな世界を思い浮かべる人もいるかもしれないが、一方では迫りくる新たな戦力と戦いながら気を引き締め直す、マイナーリーグの世界もある。ドラフト指名を受けても契約に至らない選手は存在するかもしれないが、それでも2015年MLBドラフトでは指名された最初の315人中、入団をしなかったのはたったの6人だった。
日米ではあまりにも規模が違うドラフト。それでもドラフトで新たな戦力が球団に加わることによって生まれるし烈な競争社会は、そう大きく変わらないかもしれない。
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