強打のツートップがもたらす脅威。茂木選手とペゲーロ選手のタッグ再結成で楽天打線は息を吹き返すか。

パ・リーグ インサイト 藤原彬

「優れたピッチングは優れたバッティングに勝る」。絶好調の投手を前に、打線の勢いがぱたりと止まるのはよく見られる光景だ。ピッチャーはバッターの打てないスポットにボールを投げ込むことができるし、投球を始めなければ試合は動かないのだから、その前提からして守る側のバッテリーがゲームの主導権の大半を握っている。打てるボールが来るまで、基本的にバッターは受け身の姿勢で待たなければならない。

今季前半戦のパ・リーグをリードした楽天の快進撃の象徴となったのは、長打を打てる茂木選手とペゲーロ選手の1、2番だった。バッテリーとバッターの間にある能動と受動の関係を崩せる可能性が高まる点に、長打力のある打者をツートップに据える最大のメリットがある。その感想を求められたプロ野球OB解説者の「嫌ですね」は常套句。初回の攻撃から2人をバッターボックスに送り出した時点で、指揮官の梨田監督は先制のジャブを放ち続けていたことになる。

繰り出したジャブが先制パンチになることもあった。今季、茂木選手は6本の初回先頭打者弾を放ち、ペゲーロ選手も4度、初回にアーチをかけている。2人のうちいずれかが初回に長打を記録した試合での楽天は、16勝5敗で勝率.762。生え抜きとしては球団初の2桁本塁打に到達した茂木選手と、7月12日の福岡ソフトバンク戦での156.4メートル弾を筆頭に特大弾を叩き込むペゲーロ選手を、大事な試合の入りから迎えなければならない相手バッテリーの心理は推して知るべしだ。

今季の楽天を含め、スタメンの1番と2番が両方とも「2桁本塁打」を記録したチームは歴代で延べ113を数えるが、条件を「15本塁打以上」にすると、その数は24にまで絞られる(いずれも打順別成績の公式データが存在する1958年以降)。ここでは、テーブルセッターがともに15本塁打以上の猛威を振るった打線を振り返ってみたい。

※()内は当該打順での最多本塁打者で、同数の場合は起用の多い選手

【1966年・中日】
1番 打率.304 18本塁打 25盗塁 出塁率.357(中暁生氏 打率.323 18本塁打 22盗塁 出塁率.376)
2番 打率.267 16本塁打 13盗塁 出塁率.319(髙木守道氏 打率.310 13本塁打 10盗塁 出塁率.350)

【1970年・ロッテ】
1番 打率.273 21本塁打 10盗塁 出塁率.373(山崎裕之氏 打率.226 7本塁打 3盗塁 出塁率.293)
2番 打率.269 21本塁打 12盗塁 出塁率.309(池辺巌氏 打率.275 21本塁打 11盗塁 出塁率.312)

【1971年・ロッテ】
1番 打率.294 22本塁打 12盗塁 出塁率.364(山崎裕之氏 打率.298 14本塁打 11盗塁 出塁率.378)
2番 打率.280 22本塁打 11盗塁 出塁率.340(池辺巌氏 打率.298 18本塁打 10盗塁 出塁率.355)

【1971年・阪急】
1番 打率.290 18本塁打 66盗塁 出塁率.373(福本豊氏 打率.275 10本塁打 65盗塁 出塁率.355)
2番 打率.274 15本塁打 37盗塁 出塁率.331(阪本敏三氏 打率.285 13本塁打 35盗塁 出塁率.343)

【1972年・阪急】
1番 打率.297 16本塁打 106盗塁 出塁率.388(福本豊氏 打率.304 14本塁打 104盗塁 出塁率.389)
2番 打率.269 19本塁打 8盗塁 出塁率.335(ソーレル氏 打率.312 10本塁打 4盗塁 出塁率.348)

【1976年・阪神】
1番 打率.272 15本塁打 15盗塁 出塁率.371(中村勝広氏 打率.265 11本塁打 14盗塁 出塁率.370)
2番 打率.281 20本塁打 11盗塁 出塁率.335(掛布雅之氏 打率.350 9本塁打 2盗塁 出塁率.398)

【1976年・広島】
1番 打率.279 19本塁打 24盗塁 出塁率.338(衣笠祥雄氏 打率.313 15本塁打 13盗塁 出塁率.372)
2番 打率.254 17本塁打 11盗塁 出塁率.293(三村敏之氏 打率.254 7本塁打 1盗塁 出塁率.310)

【1977年・巨人】
1番 打率.290 19本塁打 33盗塁 出塁率.357(柴田勲氏 打率.292 15本塁打 31盗塁 出塁率.365)
2番 打率.290 19本塁打 11盗塁 出塁率.353(高田繁氏 打率.284 12本塁打 8盗塁 出塁率.356)

【1977年・大洋】
1番 打率.242 21本塁打 6盗塁 出塁率.320(山下大輔氏 打率.254 16本塁打 5盗塁 出塁率.338)
2番 打率.275 19本塁打 17盗塁 出塁率.374(長崎慶一氏 打率.244 10本塁打 9盗塁 出塁率.382)

【1977年・中日】
1番 打率.292 22本塁打 15盗塁 出塁率.354(髙木守道氏 打率.302 11本塁打 8盗塁 出塁率.346)
2番 打率.291 16本塁打 13盗塁 出塁率.328(髙木守道氏 打率.263 7本塁打 2盗塁 出塁率.276)

【1977年・広島】
1番 打率.271 19本塁打 29盗塁 出塁率.346(衣笠祥雄氏 打率.256 13本塁打 13盗塁 出塁率.349)
2番 打率.244 16本塁打 24盗塁 出塁率.297(ライトル氏 打率.318 8本塁打 4盗塁 出塁率.365)

【1980年・西武】
1番 打率.277 34本塁打 8盗塁 出塁率.336(タイロン氏 打率.279 27本塁打 5盗塁 出塁率.317)
2番 打率.299 19本塁打 5盗塁 出塁率.384(山崎裕之氏 打率.289 14本塁打 3盗塁 出塁率.404)

【1980年・近鉄】
1番 打率.289 24本塁打 14盗塁 出塁率.373(平野光泰氏 打率.286 23本塁打 13盗塁 出塁率.373)
2番 打率.274 18本塁打 5盗塁 出塁率.351(小川亨氏 打率.316 12本塁打 1盗塁 出塁率.397)

【1980年・阪急】
1番 打率.318 22本塁打 54盗塁 出塁率.407(福本豊氏 打率.321 21本塁打 54盗塁 出塁率.411)
2番 打率.259 30本塁打 38盗塁 出塁率.341(簑田浩二氏 打率.271 30本塁打 36盗塁 出塁率.353)

【1981年・西武】
1番 打率.250 23本塁打 11盗塁 出塁率.346(山崎裕之氏 打率.251 13本塁打 3盗塁 出塁率.365)
2番 打率.295 16本塁打 21盗塁 出塁率.370(石毛宏典氏 打率.313 14本塁打 19盗塁 出塁率.385)

【1982年・阪急】
1番 打率.305 15本塁打 54盗塁 出塁率.416(福本豊氏 打率.303 15本塁打 54盗塁 出塁率.413)
2番 打率.267 17本塁打 23盗塁 出塁率.351(簑田浩二氏 打率.287 15本塁打 19盗塁 出塁率.382)

【1985年・近鉄】
1番 打率.281 17本塁打 23盗塁 出塁率.345(大石大二郎氏 打率.300 9本塁打 16盗塁 出塁率.373)
2番 打率.261 15本塁打 14盗塁 出塁率.340(栗橋茂氏 打率.267 13本塁打 10盗塁 出塁率.344)

【1985年・広島】
1番 打率.330 15本塁打 39盗塁 出塁率.406(髙橋慶彦氏 打率.288 9本塁打 21盗塁 出塁率.350)
2番 打率.282 19本塁打 53盗塁 出塁率.358(髙橋慶彦氏 打率.287 6本塁打 31盗塁 出塁率.361)

【2003年・大阪近鉄】
1番 打率.282 15本塁打 28盗塁 出塁率.347(大村直之氏 打率.292 15本塁打 27盗塁 出塁率.346)
2番 打率.274 15本塁打 6盗塁 出塁率.335(星野おさむ氏 打率.328 9本塁打 5盗塁 出塁率.396)

【2003年・巨人】
1番 打率.255 25本塁打 8盗塁 出塁率.281(清水隆行氏 打率.236 12本塁打 0盗塁 出塁率.256)
2番 打率.269 22本塁打 15盗塁 出塁率.298(二岡智宏氏 打率.299 18本塁打 10盗塁 出塁率.336)

【2004年・北海道日本ハム】
1番 打率.299 19本塁打 12盗塁 出塁率.355(SHINJO氏 打率.349 11本塁打 0盗塁 出塁率.372)
2番 打率.277 18本塁打 2盗塁 出塁率.328(SHINJO氏 打率.277 13本塁打 1盗塁 出塁率.309)

【2004年・巨人】
1番 打率.291 28本塁打 3盗塁 出塁率.330(仁志敏久氏 打率.289 28本塁打 3盗塁 出塁率.329)
2番 打率.294 16本塁打 6盗塁 出塁率.321(清水隆行氏 打率.312 16本塁打 3盗塁 出塁率.340)

【2004年・広島】
1番 打率.278 21本塁打 8盗塁 出塁率.351(緒方孝市氏 打率.311 19本塁打 4盗塁 出塁率.386)
2番 打率.276 23本塁打 8盗塁 出塁率.316(嶋重宣氏 打率.331 13本塁打 2盗塁 出塁率.387)

【2017年・楽天】
1番 打率.283 18本塁打 2盗塁 出塁率.370(茂木栄五郎選手 打率.303 15本塁打 2盗塁 出塁率.382)
2番 打率.299 21本塁打 3盗塁 出塁率.373(ペゲーロ選手 打率.306 21本塁打 3盗塁 出塁率.379)

楽天は今季、1番と2番が合計39本塁打を記録しており、その本数はチーム全体の35.8%にのぼる。合計本数は1980年の西武が記録した53本、打線全体における割合では1966年の中日がマークした27.6%がトップの数字だ。ともに故障で戦線を一時離脱したが、8月の折り返しから再びコンビを組む茂木選手とペゲーロ選手ならば、どちらも最高記録更新は夢ではない。何より、1、2番が「15&15本塁打」をクリアした24の打線のうち、それぞれ単独の打者が達成したケースが4度しかない点が、2人の存在の希少性を際立たせている。

茂木選手とペゲーロ選手は強打だけではなく出塁率の高さも光り、1982年の福本氏と簑田氏が残した数字と大差ない。ただし、1980年には1番から7番までが20ホーマー以上を放った阪急打線を牽引した2人は、合計51本塁打、90盗塁と別次元の攻撃力を誇っていた。「20&20本塁打」と「20&20盗塁」を同時に上回った1、2番など、長い球史において後にも先にも他に例がなく、福本氏と簑田氏をテーブルセッターコンビとして「ベスト」と位置づけるに差し支えはない。

盗塁や犠打など小技も絡めて貢献するのがオーソドックスなタイプなら、茂木選手とペゲーロ選手のような強打のテーブルセッターは異質と言える。だが、1、2番のバッターに課せられた最も重要な使命は「出塁してホームを踏むこと」だ。走者を進める打撃や優れたベースランニングは有効な「手段」ではあるが、策を弄するにもリスクはあるし、それらは決して「目的」ではない。チャンスメイクの方法として、ほぼノーリスクの二塁打を数多く放ってチャンスを演出できるのも、リードオフを張る茂木選手の持ち味のひとつだ。

要求されるタスクのひとつである「後続になるべく多くの球筋を見せる」ことを鑑みると、楽天の打者2人の粘り強さはどれほどだろうか。今季の1打席あたりの平均被投球数は茂木選手が3.87で、ペゲーロ選手は4.04となっている。パ・リーグで200打席に到達している53人中、多い方から数えて前者は39位、後者は21位だから、この点でチームに大きく貢献しているわけではない。それでもほぼ水準ではあるし、先述したように、長打のプレッシャーを植え付けることで相手バッテリーの消耗を誘うのが、2人に備わる無形の力だ。

強打者を1、2番に据える用兵の優位性をここまでに示したが、実際は戦術を本格的に採用するチームは歴史的に見ても少ない。魅力が詰まった打線である一方、そこにあるデメリットもいくつか挙げた。だが、その収支を議論する以前に、球界における強打者と巧打者の供給バランスが障壁となっているのが実情だろう。

単純に比較しても、強打者が居並ぶMLBには2桁本塁打を放っているバッターは今季の1チーム平均で6.6人いるが、巧打者の比率が高いNPBはおよそ半数の3.5人となっている。1、2番を強化できても、得点を叩き出す役割を求められる中軸の打力が薄まってしまえば、元も子もないと考えるのが自然だ。

今季の楽天が実践に踏み切った理由にしても、チーム事情で当初のプランが崩れたがゆえの「苦肉の策」が「怪我の功名」に転じたのが実際のところだ。それでも、経緯はどうであれ、チームを勢いづけた事実に加えて、打線の組み方に一石を投じた点には意義がある。温故知新。70、80年代にはしばしば見られた強打の1、2番を試すチームが、今年は他にもしばしば見られた。どのチームにも応用が利くとは限らないが、試す価値があることは今年の楽天が証明している。

いつの時代も「妙案」は結果を伴って「好手」とたたえられ、折り重なると「セオリー」として一般にも浸透する。先に紹介した24のチームでリーグ優勝を果たしたのは4チームだけで、日本シリーズを制したチームは皆無だ。楽天が4年ぶり球団2度目の日本一に輝いたとき、茂木選手とペゲーロ選手は、人知れずしてチームに「史上初」の冠をもたらすことになる。

記事提供:

パ・リーグ インサイト 藤原彬

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