近年、大物外国人選手が日本にやってくることが増えた。主に楽天の動きは目を見張るものがあり、2014年のボストン・レッドソックス優勝の立役者の一人でもあったジョニー・ゴームズ選手が、今年日本へやってくる。また楽天には、メジャーで10年連続ゴールドグラブ賞を受賞するなど、メジャーを代表する外野手の1人だったアンドリュー・ジョーンズ選手や、結果は残せなかったものの、メジャーのオールスター選出経験もあるケビン・ユーキリス選手も在籍していた。
外国人選手が球団にやってくることで、私のような通訳というポジションが初めて生まれる。その現象は日本でもアメリカでも同じである。
私は幸運にもインターン時代を含め7年間、米国の野球界で通訳の仕事をする機会をもらった。多くの日本人選手がメジャーという舞台に新たな挑戦をし続けるからこそ得られた、私にとって貴重な経験だ。
多くの日本人選手が海外移籍をするのは、国内では得ることのできない、新たな刺激や挑戦を求めていたことが主な理由だろう。では、誰もが目指す「メジャーリーグ」という舞台の一員になった選手や、あと一歩までたどり着いた選手たちが、あえて日本でのプレーを選択するのは何故だろうか?
【日本でのプレーを選ぶ外国人選手たちの目的は?】
これまで多くの外国人選手とも触れ合う機会があり、個人的にも彼らと日本について話をする機会は何度もあった。
おそらく彼らのほとんどは覚えていないかもしれないが、今日本でプレーする外国人選手とも、米国の地で同じチームに在籍していたこともある。千葉ロッテでプレーするイ・デウン投手、ナバーロ選手、埼玉西武のバスケス投手。セ・リーグでは広島のジョンソン投手、そして今年阪神で1年目を迎えるマテオ投手とドリス投手だ。
メジャーでのプレー経験もある選手が日本へプレーの場を移している理由の一つとして挙げられるのが、より多くの給与を求めてのものだと思われる。私たちも仕事を選ぶ上ではそれぞれの価値観があり、給料の高さが優先順位として一番に来る人も少なくないだろう。ましてや中南米出身の選手にとって、野球は貧困から脱出するための手段だった選手も少なくない。現役時代に「金を稼ぐ」というのが優先順位の上に来るのもうなずける。
一般的に、メジャーでは日本のプロ野球の何倍もの給料を得ることができると思われるかもしれない。しかし、それはある程度メジャーリーグに定着した選手に限った話である。それまでは「契約社会」の中で多くの理不尽と戦いながら、結果をひたすら残していかなくてはならない。私自身も、露骨に契約社会の要素が見られた選手の異動や起用を、これまで目の当たりにしてきた。
日本移籍が増えつつあるもう一つの理由としては、その契約社会の要素が絡む。より自分の価値を高めるためだ。契約社会の中では不当な扱いを受け、納得のいかない起用を受けることもある。そんな状況を打破するために、一度日本で十分な出場機会を得て自らの価値を高め、再びメジャーの舞台に戻るための過程と捉える選手もいる。
これまでも多くの「出戻りメジャーリーガー」はいるが、現に日本での経験が生きた例となっている。そして日本での経験は何も選手としてだけではなく、引退後のセカンドキャリアにも生きる場合がある。
同じ球団で仕事をさせてもらったスタッフでも、現役時代に日本でプレーしていたというも人もいた。例えば、ミネソタ・ツインズ専属のラジオ解説者を務めるのは、元巨人のダン・グラッデン氏。そして私がボストン・レッドソックスにいた時には、元中日のアレックス・オチョア氏がコーチとして在籍していた。彼らのように日本でプレー経験のある元選手は、私が日本人ということでよく声を掛けてくれ、その思い出を話してくれたりする。それぞれが日本でのプレー経験を経て、次のキャリアにもつなげている。
【「ジャパニーズ・ドリーム」を夢見て】
日本への移籍が増えている理由、最後は個人的な見解ではあるが、過去の外国人選手の日本での成功例が増え、さらに多くの日本人選手が米国の地でプレーすることで、「日本」 への壁がなくなったのが理由として挙げられる。
中南米出身の選手と話をしていると、元埼玉西武のカブレラ氏、現横浜DeNAのラミレス監督、そして東京ヤクルト・バレンティン選手など、日本で活躍をして富を得た選手の名前が出てくる。彼らの日本での活躍は、同じ中南米の選手にすれば「ジャパニーズ・ドリーム」を手中に収めた選手として語り継がれているのである。
そして多くの日本人選手が米国に渡ったことも影響し、外国人選手にとって日本という国・文化がより身近な存在になった。メジャーの舞台で実績ある選手も、日本人選手とプレーした経験からその文化やスタイルに興味を持ち、引退前には日本でプレーしてみたいと語る選手も増えてきている。
ただし、最初から日本を目指す外国人選手はそう多くない。多くの場合、メジャーに定着する戦いの過程で、日本挑戦という現実的な目標が上がってくるのではないかと思う。100億円を超えるメジャーでの契約を手にする夢を一度諦め、日本でプレーし、金、経験、そして評価につながる自信を得て、再びメジャーの舞台を目指そうという現実的なプロセス思い描くのである。
メジャー40人枠に入っていれば、メジャーでプレーする可能性は大いにある 。だが一度40人枠から外れてしまうと、そこに戻るためには実力以外の要素も絡んできてしまう。球団側としては出来るだけ若い選手を保有したい意向もあり、メジャーのチームで戦力となっていない限り、40人枠に残り続けるのは容易なことではない。そのため各球団が新たなシーズンに向けて25人枠、40人枠を整え、そこから外れた選手は日本へ活躍の場を求める場合もある。
日本の球団は、メジャー球団が保有権を持たなくなり、FAとなった選手をトレードマネーなしで獲得できる。今やプロ野球も外国人選手の「買い手」市場となったのは言うまでもない。私も、これまで日本に行きたいと語っていた選手と多く出会ってきた。特にマイナーリーグに在籍する選手は日本行きを熱望する選手も多く、日本人スカウトが試合にやってくると目を光らせている選手も少なくない。
【「助っ人」から「架け橋」に】
「助っ人」と呼ばれる外国人選手に求められるのは結果、ただ一つだろう。しかしそれぞれ日本でのプレーを決断するまでに米国に残ってメジャーを目指すのか、一度その道を諦め日本で活躍の場を求めるのかという葛藤や苦悩がある。それを球団側、そしてファンたちも理解し、迎え入れることでまた新たな感動が得られるかもしれない。
いずれ彼らは日米の野球界の架け橋となる。今やプロ野球各球団には、かつて日本球界に在籍した選手たちがスカウトとして働いているケースも多い。そして最近ではメジャーの球団も、元選手だった日本人をフロントやコーチとして採用しはじめている。先日、サンディエゴ・パドレスが野茂英雄氏をアドバイザーとして迎え入れたニュースは皆さんの記憶に新しいだろう。
もちろん「助っ人」としてプレーする期間に求められるのは、グラウンド上でどれだけインパクトを残すかだ。だが彼らは、日米での経験を経て、引退後も新たな架け橋となってフィールド外で大きなインパクトを残してくれる可能性を持っている。
どんな理由であれ、違う国でのプレーを経験した選手は、今後日米の野球界が共に発展していくのに大きな財産となる。その中心には「元」外国人選手たちが立ってくるのではないだろうか。
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