日米共通? 「母の日」が生み出す野球界への新たな価値

パ・リーグ インサイト 新川諒

2016.5.11(水) 00:00

プロ野球選手にとって、強靭な体を生み出してくれた母親への感謝は欠かせない。その思いは日米共通であり、選手たちは「母の日」をグラウンド上だけでなく、ソーシャルメディア(SNS)を含めてさまざまな形で表現するようになった。そして球団側も母親に家族と楽しめる特別な「プレゼント」企画を多く発案している。

最近は母の日に見られるピンク色の野球用具は恒例ともなっているが、それぞれの選手の思いを表現するために、各メーカーは毎年母の日仕様のピンク色のバットやスパイクを選手たちに提供している。今年、アンダーアーマー社はワシントン・ナショナルズのブライス・ハーパー選手をはじめ、非常にインパクトのある母の日仕様のスパイクを契約選手たちに用意した。またこれまではリストバンドやバット、スパイクにとどまっていたが、今シーズンから選手たちは初めて、ピンク色があしらわれた母の日仕様のユニフォームを身にまとうことになった。

ちなみに選手たちが当日使用したピンクバットや用具は、MLB公式サイトでオークションにかけられ、乳がん撲滅のために寄付されている。


【アメリカでの母の日の取り組みとは?】

グラウンド上だけでなく、メジャーリーグ、そしてマイナーリーグ各地では、母の日ならではのイベントや企画が開催された。アトランタ・ブレーブスでは、試合終了後にグラウンド上で母親が子供とキャッチボールができる特別チケットのパッケージを販売した。フィラデルフィア・フィリーズでは地元の病院と提携して、キャラクターのフィリー・ファナティックが白衣姿で、生まれてきた子供とその母親を「フィリーズ・ニューボーン・クラブ」に迎え入れる取り組みを行った。新生児はフィリーズロゴが入った出生証明書、フィリーズの本拠地シチズンズバンク・パークのビッグスクリーンに新生児の情報を記した特別な写真、さらには新生児用の靴、そして「ルーキー・オブ・ザ・イヤー(新人王)」と記されたよだれかけがプレゼントされる。そして生まれてくる新生児だけでなく、母親や病院スタッフへのプレゼントも含めた取り組みだ。

そして例年以上に目立ったのが、ソーシャルメディアで母の日メッセージを送った選手たちだ。その中にはニューヨーク・ヤンキースに所属する田中将大投手も含まれ、ツイッターで「Happy Mother_s Day!」というメッセージを発信していた。

マイナーリーグではより家族を巻き込んだイベントが多く、試合前に家族で一緒にブランチをするピクニック企画が多く開催されていた。野球好きの母たちにとってはうれしい、母の日プレゼントとなる野球観戦のパッケージを各球団が企画している。

ボストン・レッドソックス傘下のトリプルA、ポータケット・レッドソックスでは、昼前にグラウンドでお母さんとキャッチボールをして、その後食べ放題のバーベキューが用意された。そのまま試合観戦を楽しみ、試合後はグラウンドに降りて塁間を走るイベントが開催された。母の日特別チケットパッケージとして、大人約3,150円、12歳以下の子供対象には約2,170円で販売されていた。

ボストン・レッドソックスの傘下シングルA、グリーンビル・ドライブでも母の日ピクニックが開催された。こちらでは食べ放題のビュッフェとチケットを含めた約1,500円のチケットだ。ソーシャルメディアを活用した企画もおこなわれ、母親と一緒に写った写真をフェイスブックにアップし、グリーンビル・ドライブとヘイルズ・ジュエリーをタグ付けすれば、ヘイルズ・ジュエリーのアクセサリーがプレゼントされる抽選に申し込まれるという企画だ。


【明確なターゲットを絞ったスポンサーとの取り組みは?】

これらはターゲットを明確にしたスポンサーとの取り組みだ。それぞれのファンにソーシャルメディア上で企業名をアップしてもらうのは、効果的なプロモーションにもなり得る。アップした写真は試合中にビジョンでも流され、試合に来場した母親たちにはカーネーションとキャラクターからのハグ付きというおまけもある。

米国には劣らない独自の母の日企画を、パ・リーグ各球団も取り組んでいた。千葉ロッテマリーンズはロッテの製品である「Ghana(ガーナ)」とのタイアップで、母の日ガーナスペシャルデーを企画。特設された母の日ガーナスポットで写真を撮影し、ソーシャルメディアで写真をシェアしたファンには製品をプレゼントするという企画だ。そのエリアでは、選手たちの母の日メッセージも展示された。そしてキッズスペースではデコガーナ体験会を開くなど、親子向けにさまざまな企画を展開した。

埼玉西武ライオンズは継続的にがん検診啓発活動を支援するために「LIONS HAPPY MOTHER_s DAY」を開催。ベースやビジョンの配色、バルーンもピンク色となり、さらには入場時に当日限定フラッグも配布され、ファン参加型で球場が一体となってがん検診の啓発をおこなうイベントも行われた。

さらには選手たちが使用したキャップに直筆サインを加えたものや実際に試合で使用されたピンク色の塁ベースなどのアイテムがチャリティーオークションに出品される。5月9日からは直筆サイン入り応援団フラッグが含まれた第1弾の出品アイテム入札期間が設けられ、5月15日からは直筆サイン入りオリジナルキャップが中心となる第2弾のアイテム入札期間となっている。なおチャリティーオークションで入札されて得た資金は、母の日イベントに協力した公共財団の日本対ガン協会に寄付されることとなっている。


形はさまざまだが、日米では球場でいろいろな取り組みが母の日に開催されている。スポンサー企業とタイアップし、お互い新たな価値を生み出す取り組み。がん検診の啓発を促すことで人々の健康を考えた取り組み。母への感謝、家族との時間の大切さを再確認できる場と時間の提供。家族一緒に過ごせる場所や時間というのは近年減少傾向にあるような気がする。その貴重な場と時間を各球団が野球観戦というコンテンツを元に提供することができれば、野球そしてスポーツにまた新たな価値が生まれるのではないだろうか?

記事提供:

パ・リーグ インサイト 新川諒

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