日米キャンプの違い

パ・リーグ インサイト 新川諒

2016.2.10(水) 00:00

「キャンプイン」。「リポート・デー」。日米両国の春季キャンプの到来を感じさせる言葉だ。

その言葉を聞く限り、対照的な響きに聞こえる。キャンプインと言えば、2月1日に12球団が一斉にスタートをする日本のプロ野球。それに比べて、メジャーリーグのリポート・デー(日本でいうキャンプイン前日)では練習参加は強制されておらず、キャンプ地に到着していることをチームに伝える日として設けられている。

実際に、この日は施設に顔を出してすぐに家族の元へ戻る選手もいる。そして数人の外国人選手を除いて一斉に同日キャンプインする日本とは異なり、メジャーでは野手陣、投手陣それぞれスタートする日が違う。30球団統一された日もなく、バラバラに各球団スタートするのである。

それでも勘違いしてはいけないのは、米国はいわゆる「適当」で「緩い」わけではない。し烈な戦い前の一瞬の静けさに過ぎないのだ。むしろすでに戦いは始まっているのである。


【すでに始まっている過酷な競争】

多ければ70人を超える選手をメジャーキャンプに招待する球団もいるメジャーリーグ。日本のように最初から1軍、2軍に振り分けるのではなく、開幕メジャー25人枠に入る見込みのない選手は、キャンプが進むにつれ、どんどん振り落とされていく形式である。

25人枠入りを目指し、全員が同じスタートラインに立っているかと言えばそうでもない。それは各選手が付ける背番号、ロッカーの位置でもそれぞれの立場を見ることができる。

開幕メジャーが濃厚な選手の背番号は、比較的若い数字。それに比べて、キャンプ招待やメジャー選手とのプレー経験を得るために呼ばれた選手の背番号は、70番台や80番台をつけていることが多い。キャンプ招待でも若い番号を与えられる選手はチャンスがあると考えて良いかもしれない。

ロッカーの配置を見ても、契約社会の有り様が見えてくる。必ずとは言えないが、主力選手の両隣には、比較的早い段階でメジャーキャンプから落とされると予想される選手が置かれている。クラブハウスのスタッフも、主力にはよりスペースを使ってもらい、気持ち良くフィールド外の時間を過ごしてもらうことを望むのである。最終的に多額のチップを払ってくれる選手の環境を整えることを優先するのである(注:チップとはサービスに対して感謝の気持ちを現金で払うもの)。

もちろん、物理的な要因も存在する。主力選手や注目選手にはキャンプ中からメディアが集まり、インタビューの依頼も多い。メジャーでは、選手たちの空間であるクラブハウスに時間制限はあるものの、メディアも出入り自由なのである。

日本のキャンプに参加した時に「ぶら下がり」という用語を初めて聞いたが、アメリカのキャンプに慣れている身としては非常に新鮮だった。よくニュースでも見受けられる、選手が練習場から宿舎へ戻るときにメディアを引き連れるシーンは、メジャーのキャンプでは見ることはないだろう。


【共通点もあるが、さまざまな点で大きく異なる】

日本のキャンプでは、かつてのOBがキャンプ地を訪れ、若手を指導するシーンなどが多く見受けられるが、この点においてはメジャーのキャンプでも同じようなシーンは多い。

メジャーキャンプ期間中、特別コーチとしてOBや歴代監督などが訪れることも多く、現役選手がレジェンドから指導を受ける場面はよく見られる。実力社会の要素が強く、先輩の教えを受けるという文化はアメリカでは少ないと思われるかもしれないが、意外にも日米で共通している。

では、日米のキャンプで一番差があると思われているのは何か。それはおそらく、練習量だろう。確かに日本に比べ、メジャーのキャンプは早く終わる。しかし、その分朝はとても早い。練習の2時間前以上には施設入りして、準備を怠らない。トレーニングルームは人で溢れかえっている。

さらに各ポジションに合わせてトレーニングメニューも決められており、練習前にそれをこなす選手もいれば、ストレッチやメンテナンスに時間を費やす者などさまざま。そのため、選手の体のケアをするトレーナー陣の一日は陽が昇る前から始まる。その後シーズンが開幕してから夜型生活が始まるときには、少々時差ぼけ状態に陥ってしまうぐらいだ。

また、日本では2月1日からキャンプイン、紅白戦を経て、3月からのオープン戦に備えていく。一方、メジャーでは今年のニューヨーク・ヤンキースを例に挙げてみると、投手と捕手は2月19日から日本で言う「キャンプイン」で、野手にいたってはそれが2月25日からだ。そこから1週間も経たない3月2日からオープン戦が始まっていく。

投手陣は肩を作ることを考慮されて野手よりは早めに集まるが、打者にとっては実戦を通して準備していくという考え方だ。実戦までの期間が少ない分、それぞれに責任ある準備が求められる。

さらに、日本ではキャンプ中は1つの宿舎にチーム全体が泊まり、夕食後にミーティングをおこない綿密にシーズンに向けてチーム一丸となり準備をする。対照的に、メジャーのキャンプはそれぞれが自由に住まいを設けて、家族揃ってのキャンプを過ごす選手、スタッフが多い。これも文化の違いと言えばそれまでだが、米国では移動も多い長いシーズンに向けてオンとオフをしっかり定めた上でシーズンの戦いに向けて準備する。

「日米のスタイルどちらが良いのか?」という質問に答えはなく、文化に合った準備の仕方をそれぞれ取っている。しかしその違いは大きく、日本に来る外国人選手、そしてメジャーに挑戦する日本人選手が違いに戸惑うのも理解できる。

今年は北海道日本ハムファイターズが29年ぶりに米国でのキャンプを開催している。米国の地で日本流のキャンプを行った北海道日本ハムが何を持ち帰り、今後の日本流キャンプにどんな新しい風を吹かせてくれるのか楽しみだ。

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パ・リーグ インサイト 新川諒

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