外国人選手が日本に「帰ってくる」理由 限られた椅子を巡る戦い

パ・リーグ インサイト 新川諒

2016.4.13(水) 00:00

ほっともっと神戸(C)PLM
ほっともっと神戸(C)PLM

今シーズンも多くの外国人選手がプロ野球での経験を積んで、米国に「仕事場」を戻さずに再び日本の別球団でのプレーを選択した。彼らは日本で実績を積んだにも関わらず、なぜ再び日本に戻ってくるのだろうか?

外国人選手は日本へお金を求めてやってくる選手も多い。だが球団側も日本の野球に適応できるか分からない存在に、はじめから多くの金額や複数年契約で保証するほどお金があふれているわけではない。

そのため1、2年、日本の野球に適応できることをアピールし、より良い状況を求めてチームを歩き渡るのは、外国人選手にとっては当たり前のことかもしれない。


【マイナーにあるさまざまな移籍の仕組み】

日本をプレーする場に選ぶのは、一度メジャーリーグという舞台が閉ざされてしまったから、という選手が多い。アメリカではマイナーリーグでもFA制度があり、「40人枠」に入れなかった期間が1032日間(メジャー在籍期間の6年に相当する)に達した選手には他球団と契約をする権利が得られるが、それまでは球団の保有権がある。その期間でメジャーリーグに定着する道筋を作ることができなければ、環境の変化を一番に考えるはずだ。

保有されている期間、一つのチームでチャンスを与えられずに終わるという選手は少ない。メジャーでは多くの選手にチャンスを与えるようと、さまざまな制度がある。40人枠外の選手には、18歳以下でプロ入りした選手は4年間、19歳以上でプロ入りした選手であれば3年間プレーした選手は「ルール5ドラフト」の対象となり、保有権が切れる前に違った環境でチャンスを得られる可能性を持った制度がある。さらには選手の異動が活発におこなわれるため、マイナーリーガーであってもトレードの対象となるケースは多くある。

そのためマイナーでの保有期間を終えて、全くメジャー定着への道筋が作れなかった選手は、一度日本など海外で活躍の場を求めるか、マイナーリーグでも野球を続けていくと割り切るかの選択に迫られる場合もある。

ただ野球選手も私たちと変わらず、プロ生活6年目を迎える頃には高卒であれば24歳、大卒であれば27、28歳。結婚を考えはじめたり、すでに子供が生まれたりしていることもある年代だ。メジャーに一度も近づくことなくプロ生活を続けている者にとっては、セカンドキャリア(現役後の人生)が頭をよぎる時期だろう。


【海外か、とどまるか。人生を左右する二択】

最後にチャンスがあれば、日本を舞台に一花咲かせて、うまく行けばメジャーに帰ってこようと考える選手がいても不思議ではない。おそらくそういう考えを持った選手が海を渡り、日本へやってくるのだろう。

舞台を日本に移し、プロ野球で数年活躍をしたとしよう。それでも再びメジャーに戻るには年齢が高すぎる場合が多い。すでに日本にやってくるときは30歳手前。そして日本で数年活躍をしても、米国に戻るのが30代半ばに迫ってくると、メジャー球団も複数年契約を保証しにくい。

またメジャーリーグの舞台に立てなかった選手たちが多い。あくまで、弱点だった部分を日本で改善することができ、さらにチームもその時即戦力として考えることができる場合のみ、メジャー契約に至るだろう。

これまでの例を見ても、日本へやってきた選手の数を考えると、再びメジャーの舞台に戻り定着した選手はさほど多くない。私もこれまで日本でのプレーを経て、米国に戻った選手と多く一緒になったことがある。そして彼らの多くが口を揃えて言うのは、「日本は良かった。また機会があれば戻りたい」という言葉だった。そう話す選手の多くは米国に戻ったものの、マイナーで奮闘を続ける現状だった。

そう考えると、富、安定を目指す外国人選手にとっては、日本国内でより良い環境を目指してチームを移る方が理想的ではないだろうか?

そして球団側にとっても、日本を経験した外国人選手を再び獲得する利点はある。外国人枠は各球団に1軍では4枠しか設けられておらず、チームに足りない要素を外国人選手で補おうとする場合が多い。そのため長打力のある選手、速球派のリリーフ投手、そして球数少なく試合を組み立てることができる先発投手を獲得するチームが多いように感じる。

各チームこの「助っ人」と呼ばれる存在でライバル球団に差をつけようと、年中スカウトが各地を巡っている。だが実際のところ獲得への条件をクリアして、日本で戦力になれる選手には限りがある。メジャーには30球団あり、それぞれがマイナーの下部組織を持ち、さらには独立リーグがある。メジャー昇格に向けて少しでもチャンスがあると感じる選手であれば、環境を大きく変えて日本に行こうというのは妻子がいれば、なおさら難しくなる。

そして今ではマイナーリーガーにとっては「お金を稼ぐ」場として、韓国も選択肢の一つとなってきている。他のアジア諸国でもプロリーグが発展していけば、お金を稼ぐことを目的とする選手たちの行き先は日本だけではなくなってしまう。


【日本へ「出戻り」が多かったが、今年は違う?】

外国人選手の候補が減っていく一方で、日本球団にとっても別球団に在籍していた選手を獲得することにはメリットがあるだろう。人間誰しも他国で仕事をするのは、イメージが湧かない要素が多い。グラウンド上の野球の部分だけならまだしも、生活面、食事面、コミュニケーション面などいろいろな壁に当たる可能性がある。

だが一度日本を経験している外国人選手にとっては、ある程度日本での生活が予想できる範囲となる。その安心感は選手だけでなく、球団側にとっても大きい。むしろ1年間日本での生活を経験したことで、プレー面にもプラスになると予想しても不思議ではない。

限られた候補の中で新たな外国人選手をスカウトし、再び未知の戦力に期待するよりも計算できる安心感を求めることが、変わらない外国人選手の顔ぶれに繋がるのではないだろうか。

数年前の話になるが、私にとって思い出深かったのがボビー・スケールズという選手だ。2011年シーズン途中に北海道日本ハムファイターズへ加入し、80試合に出場。翌シーズンは米国に戻り、ニューヨーク・メッツの傘下トリプルAバッファローに所属しており、対戦時に話をする機会があった。米国に戻ってきたものの、日本での経験について好意的に話していたことを思い出す。そして数週間も経たないうちにオリックスとの契約合意のニュースが流れた。32試合で打率.339と好成績を残していたが、再び日本の地に戻っていった。

今年もパ・リーグには他球団から移ってきた選手には、千葉ロッテのスタンリッジ投手がいる。そしてセ・リーグへ移った選手の中には元千葉ロッテのクルーズ選手。セ・リーグ間では広島のルナなどが別チームから加入した。さらには韓国リーグを経て日本にやってきた選手も、昨年は福岡ソフトバンクのバンデンハーク投手、今年は千葉ロッテのナバーロ選手がいる。

日本国内だけでなく、韓国や台湾を巻き込んで選手が入れ替わるようになった。そのアジア内を巡る外国人選手の「輪」に加わろうとその枠を目指す、外国人選手は数多く存在する。

数年前までは毎年同じ外国人選手がチームを移り変わっていたように思うが、最近はスカウティングも強化され、リスクを負ってでも新戦力獲得に励んでいるチームが徐々に多くなってきた。安心感、そして計算できる外国人選手を獲得したチーム、それとも新たに輪に加わることを目指す新戦力を獲得したチーム。どちらに軍配が上がるのか注目したい。

記事提供:

パ・リーグ インサイト 新川諒

この記事をシェア

  • X
  • Facebook
  • LINE