「米国流」開幕前後の恒例行事が持つ意味とは?

パ・リーグ インサイト 新川諒

2016.3.27(日) 00:00

ほっともっと神戸(C)PLM
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日本の各球団はシーズン開幕前、必勝祈願のためチーム全員で神社を訪れ、出陣式をファン、メディアに向けて行い、それぞれが決起集会を行ったことなどをニュースや各選手のSNSなどで目にすることがある。

日本では毎年恒例となっている行事がいくつもあるが、米国では開幕前後にはどういった行事があるのかについて触れてみたい。


【キャンプ地から本拠地に帰るのは前日!?】

3月に入ればレギュラーシーズン中に使う球場を舞台にオープン戦を戦っていく日本のプロ野球とは異なり、メジャーリーグではスプリングトレーニングの試合は主にフロリダ・アリゾナのキャンプ地の球場で、開幕数日前まで試合を行う。

今年を例に挙げると、タンパベイ・レイズがキューバで、そしてテキサス・レンジャーズとカンザスシティ・ロイヤルズがテキサス州サンアントニオのアラモ・ドーム(以前のNBAサンアントニオ・スパーズ本拠地)でオープン戦を戦うなど「特例」イベントもあった。シカゴ・カブスも毎年のようにスプリングトレーニング中にラスベガスで2試合行っている。

今年も開幕日の4月3日に4試合が開催されるが、本拠地でオープン戦を戦うチームが現れるのは、3日前の3月31日からだ。

オープン戦の最終戦からシーズン開幕まで数日間空きがある日本とは違い、メジャーではスプリングトレーニングの最終戦から、開幕まで多くても1日程度しか間があかない。開幕前夜に本拠地へ入るということがほとんどだ。さらには最終の25枠ロースターに残る選手が開幕ギリギリまで決まらないため、日本のようにチームとしての開幕直前の行事を行うのはなかなか難しい。


【メジャーとマイナー、開幕前イベントの違い】

開幕をホームもしくはビジターで迎えるかにもよって差はあり、球団によっても違いはあるが、私が経験した一例を挙げると、ビジターの地で開幕を迎える時は選手、コーチ陣それぞれ決起集会のような食事会が行われている。レストランの地下にあるワインルームを貸し切って食事会が開催されたこともあった。

メジャーリーガー25人以上がテーブルに揃って食事をする「異様な」光景は今でも脳裏に焼き付いている。別の球団では、各ポジション別で食事会が開催されたこともあった。これはさほど日本と違いはないかもしれない。

一方マイナーでは、基本的にメジャーより開幕が数日遅いため、開幕がビジターであっても本拠地へ移動する余裕がある。そのため開幕前に日本の出陣式のようなイベントを開催することができる。これは私が経験した一例に過ぎないが、ある球団に在籍していた時には自治体の米国在郷軍人会主催で「ウェルカムホーム・ディナー」が地元ファンと選手・スタッフのために開催されたことがあった。

このイベントにはファンが事前に25ドル(約2800円)のチケットを購入し、テーブルに配置される。事前にリクエストしていれば、テーブルには選手がランダムで振り分けられる。開幕前にファンと選手が交流する地域密着型イベントだ。各テーブルで話し合う時間が与えられたあとに、会場では選手、コーチ陣が全員紹介される。毎年のように顔ぶれが変わるマイナー球団にとっては、新たなシーズンに向けて選手たちのお披露目の場となる。

ここにやってくる地元ファンは個々の選手のファンというよりは、自分の街に存在する球団のファンである。そのためシーズン前にイベントが行われることで、チームの存在だけではなく、選手を実際に知ってもらい応援してもらうというのは、地域密着を大切にするマイナー球団にとっては欠かせないことだ。


【チャリティー要素が強いメジャーのイベント】

一方、メジャーでこういったイベントはないのかというと、そういうわけではない。だが、どちらかと言えばチャリティー要素が強く、マイナーのディナーとは違った印象を受けた。

長い歴史を誇るシカゴ・カブスがシーズン開幕後に開催する「BRICKS AND IVY BALL」というチャリティーイベントがある。そこにはファンはもちろん、地元著名人、ビジネスリーダー、そして博愛主義者たちが参加費600ドル(約6万8千円)を払って参加する。このイベントは1986年に設立された「カブス・チャリティーズ」が主催となり 、設立当初から地元NPO団体や子供を支援する団体、そして環境に恵まれない家族への寄付を続けてきている

会場もシカゴの観光名所であるレクリエーション施設にある大踊踏室で、非常に華やかな場となる。参加者はドレスアップし、カクテルを片手にイベントを楽しむ。目的はマイナー球団のイベントと類似しているものの、サイレントオークションが行われるなど、参加者にとってもイベントに訪れることが一種のステータスであるような催しだ。

この両方を経験して感じたのは、明らかな場の雰囲気の違いだった。言うまでもないが、動く額も比べ物にならない。

日本ではシーズンに向けて決起集会をすることでチームが一つとなり、出陣式ではファン、そしてメディアに向けてお披露目をする。一方米国ではメジャーとマイナーでも開幕前後の行事はそれぞれ違った意味合いを持っている。メジャーでは地元企業であったり、ビジネスリーダーであったり、街の経済を支えるパートナーと交流を深めるチャリティーイベントの場となる。マイナーでは地域を大切にし、応援してもらうために地元の人々と選手との交流の場が光られる。

開幕前後の行事は、ファン、そして地域とのコミュニケーションを図るものとなる。私が経験したものはごく一部の球団だが、これが開幕前後ではメジャーリーグ球団が存在する30の都市、そしてマイナーリーグ球団が存在する都市の多くで開催されているだろう。

通訳として参加させて頂いたこれらのイベントは、仕事としては一番多忙を極める時間だった。なぜなら通訳の対象が1人ではなく、多数になり、それぞれが違った話題を投げかけてくるからだ。それでもシーズン前後にこういったイベントにスタッフとして参加することで、改めて球団が地域に存在する意義の大きさを感じることができた。

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パ・リーグ インサイト 新川諒

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