俊足巧打の選手が多数。非常に貴重なスイッチヒッターという存在

パ・リーグ インサイト

2017.1.6(金) 00:00

東北楽天ゴールデンイーグルス・松井稼頭央選手(中央)(C)パーソル パ・リーグTV
東北楽天ゴールデンイーグルス・松井稼頭央選手(中央)(C)パーソル パ・リーグTV

マイアミ・マーリンズのイチロー選手、元巨人の松井秀喜氏の活躍以来、日本球界には左打者が増えたと言われている。今季のパ・リーグで、首位打者・最多安打の二冠に輝いた千葉ロッテの角中選手や、度重なる怪我に悩まされながらも最高出塁率のタイトルを獲得した、福岡ソフトバンクの柳田選手も左打者である。

そもそも打席の左右は、利き腕や指導者の方針などによって決まることが多いが、スーパースターへの憧れだけではない利点を追い求めて、打席を選ぶというケースもある。

まず、左打席を選択するメリットとしては、右打席よりも一塁への距離が近く、内野安打を狙いやすいという点が挙げられる。イチロー選手や、北海道日本ハムの西川選手などの俊足の選手は、その利点を最大限に生かしている。ただし、右利きの左打者の場合は、スイングの際に利き手とは逆の手でバットを押し込むため、打球の飛距離を伸ばすという意味では、右利きの右打者に比べて不利になることがある。事実、両リーグの通算本塁打ランキングを見てみると、上位20位までに名を連ねている右投左打の選手は、10位の金本知憲氏(現・阪神監督) 1人しかいない。

また、一般的に右打者は右投手、左打者は左投手を苦手とする傾向がある。打席では、背中の後ろからボールが来るように思えて、軌道が見えにくいためだ。これが全ての選手に該当する傾向とは言えないが、左の強打者に対して、左投手をワンポイントで登板させる作戦は実際によく目にしていることだろう。

そして、このような左右のメリット・デメリットを解消し、打撃の幅を広げる手段の一つとして、スイッチヒッターへの転向がある。スイッチヒッターは、左右どちらの打席にも立つことができるため、対戦投手や状況によって緻密なケースバッティングを可能にする。ここでは、特に偉大な成績を残したスイッチヒッターたちの成績を振り返ってみたい。

【松永浩美氏の通算成績】
1816試合6490打数1904安打203本塁打855打点 打率.293

【松永浩美氏の年度別 対左右打率】
1981年 対左打率.400 対右打率.312
1982年 対左打率.233 対右打率.238
1983年 対左打率.300 対右打率.277
1984年 対左打率.211 対右打率.330
1985年 対左打率.321 対右打率.320
1986年 対左打率.235 対右打率.322
1987年 対左打率.240 対右打率.308
1988年 対左打率.314 対右打率.329
1989年 対左打率.301 対右打率.311
1990年 対左打率.296 対右打率.280
1991年 対左打率.238 対右打率.335
1992年 対左打率.313 対右打率.294
1993年 対左打率.222 対右打率.316
1994年 対左打率.287 対右打率.326
1995年 対左打率.258 対右打率.229
1996年 対左打率.235 対右打率.214
1997年 対左打率.250 対右打率.100

まずは阪急、オリックス、ダイエーなどを渡り歩いた松永浩美氏である。1試合左右両打席での本塁打を通算で6度放ち、日本ハムやオリックスなどに在籍したフェルナンド・セギノール氏に次ぐ歴代2位の記録を持つ。その際には、例外こそあるものの、相手投手が右投手なら左打席、左投手なら右打席に立ち、スイッチヒッターの強みを遺憾なく発揮している。

左右投手別の打率を見てみても、左右両方で打率3割台を記録した年が実に4度。左右どちらの投手も苦にしない、これぞスイッチヒッターの真骨頂であると言えるだろう。

【平野謙氏の通算成績】
1683試合5676打数1551安打53本塁打479打点 打率.273

【平野謙氏の年度別 対左右打率】
1981年 対左打率.161 対右打率.266
1982年 対左打率.342 対右打率.277
1983年 対左打率.266 対右打率.242
1984年 対左打率.330 対右打率.280
1985年 対左打率.319 対右打率.294
1986年 対左打率.277 対右打率.268
1987年 対左打率.333 対右打率.257
1988年 対左打率.287 対右打率.308
1989年 対左打率.253 対右打率.273
1990年 対左打率.239 対右打率.277
1991年 対左打率.292 対右打率.278
1992年 対左打率.291 対右打率.277
1993年 対左打率.229 対右打率.243
1994年 対左打率.229 対右打率.227
1995年 対左打率.257 対右打率.212
1996年 対左打率.250 対右打率.308

平野謙氏は、1977年にドラフト外で中日に入団し、1987年のオフに西武に移籍。森監督のもと西武の第2次黄金時代を支え、中日時代も含め3度の日本一と4度のリーグ優勝を経験。「黄金時代の名脇役」と呼ばれ、通算犠打数は両リーグ歴代2位の記録となる451本。ゴールデングラブ賞を9度も受賞するなど、外野守備の名手としても知られている。

左右投手別の打率を見てみると、1987年までは、やや右投手を苦手としていたようだが、1988年からの3年間はそれが逆転しており、1991年と1992年は左右どちらも高い打率で安定している。やはり、どちらの投手を相手にしても“苦にしない”ということがスイッチヒッターとして成功する一つのポイントとなるのだろう。

【西村徳文氏の通算記録】
1433試合4777打数1298安打33本塁打326打点 打率.272

【西村徳文氏の年度別 対左右打率】
1983年 対左打率.313 対右打率.235
1984年 対左打率.364 対右打率.278
1985年 対左打率.275 対右打率.317
1986年 対左打率.333 対右打率.269
1987年 対左打率.206 対右打率.291
1988年 対左打率.291 対右打率.270
1989年 対左打率.255 対右打率.290
1990年 対左打率.401 対右打率.309
1991年 対左打率.296 対右打率.268
1992年 対左打率.186 対右打率.227
1993年 対左打率.243 対右打率.252
1994年 対左打率.327 対右打率.167
1995年 対左打率.154 対右打率.234
1996年 対左打率.000 対右打率.087
1997年 対左打率.000

西村徳文氏は1981年にロッテに入団し、その後30年以上に渡ってロッテ一筋を貫いた。俊足を生かすため、プロ入り後にスイッチヒッターに転向。1990年には打率.338をマークし、スイッチヒッターとしてはパ・リーグ史上初となる首位打者に輝く。同年、中堅手としてゴールデングラブ賞を受賞。2011年までは、内外野で同賞を獲得した唯一の選手だった。

その後、コーチでの指導歴を経て2010年に千葉ロッテの監督に就任。レギュラーシーズンは3位の成績だったが、ポストシーズンで下克上を果たして1年目からいきなり日本シリーズを制覇。この結果が認められ、見事正力松太郎賞を受賞した。昨季はオリックスの一軍ヘッドコーチとして福良監督を支えるなど、選手としてもコーチとしてもチームに必要とされる存在として活躍している。

【松井稼頭央選手の今季までの日本での通算成績】
1839試合7075打数2068安打199本塁打 打率.292

【松井稼頭央選手の年度別 対左右打率】
1995年 対左打率.290 対右打率.190
1996年 対左打率.291 対右打率.281
1997年 対左打率.314 対右打率.307
1998年 対左打率.337 対右打率.300
1999年 対左打率.376 対右打率.309
2000年 対左打率.333 対右打率.313
2001年 対左打率.293 対右打率.316
2002年 対左打率.313 対右打率.342
2003年 対左打率.314 対右打率.302
2011年 対左打率.249 対右打率.266
2012年 対左打率.281 対右打率.258
2013年 対左打率.229 対右打率.256
2014年 対左打率.295 対右打率.289
2015年 対左打率.289 対右打率.247
2016年 対左打率.281 対右打率.175

楽天の松井稼選手は、スイッチヒッターとしては1、2を争う知名度を誇る選手だろう。1993年に西武に入団。走攻守揃った選手として、盗塁、打撃、守備、すべての部門で名誉ある賞に幾度も輝いている。2015年に日本での通算2000本安打に到達し、スイッチヒッターとしては元巨人の柴田勲氏に続いて史上2人目の大記録達成となった。

1996年までは、やや右投手を苦手としている傾向があったが、1997年から2003年までの7年間で6度、左右どちらの投手に対しても打率3割超えを記録。スイッチヒッターらしく、高いレベルでバランスを保ち、強い西武ライオンズの中心選手として活躍した。

【西岡剛選手の今季までの日本での通算成績】
1068試合4008打数1165安打61本塁打377打点 打率.291

【西岡剛選手の年度別 対左右打率】
2004年 対左打率.286 対右打率.237
2005年 対左打率.241 対右打率.281
2006年 対左打率.238 対右打率.295
2007年 対左打率.380 対右打率.271
2008年 対左打率.311 対右打率.295
2009年 対左打率.242 対右打率.267
2010年 対左打率.387 対右打率.329
2013年 対左打率.315 対右打率.280
2014年 対左打率.235 対右打率.238
2015年 対左打率.233 対右打率.277
2016年 対左打率.250 対右打率.308

現・阪神の西岡選手は、2002年にドラフト1位で千葉ロッテに入団。2005年には両リーグ最年少記録タイとなる21歳で盗塁王に輝き、「幕張のスピードスター」の異名をとった。

2010年は西村監督のもと、対左投手・右投手両方で打率3割台を記録し、首位打者、最多安打のタイトルを獲得。チームの日本一に大きく貢献した。同年、プロ野球新記録となるシーズン27回の猛打賞と、スイッチヒッターとしては史上初の200安打を達成。現在は阪神の中心選手として活躍している。

以上、パ・リーグで突出した記録を残している5人のスイッチヒッターの成績を振り返ってみた。彼らに共通しているのは、ホームランバッターではなくコンスタントに安打を積み重ねるタイプだということと、高い走塁・守備技術を誇る、ということだ。

今回挙げた全員が、盗塁王、ゴールデングラブ賞を獲得した経験があり、平野謙氏は犠打のテクニックも卓越していた。彼らスイッチヒッターは、守備でチームの危機を救い、必要なときにきっちりと犠打を決め、俊足を生かして内野安打をもぎとるというケースが多い。刻一刻と変わる試合の状況、数字に基づいた複雑な戦略に対して、臨機応変に対応することが彼らにはできるのである。

左右両方の打席に立って、それに合わせた打撃をするということは、より多くの練習量や器用さが必要となる。それでも彼らはスイッチヒッターを選び、一振りで勝負をひっくり返すホームランバッターなどとは違う形で、チームの勝利に貢献してきた。現在、スイッチヒッターとして登録されている支配下選手はたったの20人ほどである。貴重な存在である彼らの働きが、緊迫した試合にどのような影響を与えるか、来季からも注目していきたい。

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