去る10月29日、北海道日本ハムが12球団の頂点に立ち、今年もストーブリーグの季節がやってきた。FA権を取得し、その行使を希望する選手は日本シリーズ終了後にその意思を表明しなければならない。今年も複数名がFA権を行使し、現在も各球団による交渉は行われているが、ここでは過去10年間でパ・リーグの球団に移籍し、心機一転成績を上げた選手の移籍前後の成績を比較してみたい。
対象となる2006年から2015年の間に、FA権を行使しパ・リーグ球団に移籍した選手は、全部で17人(投手6人、野手11人)である。移籍前より成績が落ち込んだ選手がいる一方で、出場機会に恵まれ、または起用法を再考され、成績を伸ばした選手も少なくない。
2010年に横浜から福岡ソフトバンクに移籍した内川選手は、その決断が功を奏した野手の代表格である。
【内川選手の移籍前後の成績】
移籍前: 144試合577打数182安打9本塁打66打点 打率.315
移籍後: 114試合429打数145安打12本塁打74打点 打率.338
内川選手は出場試合数と安打数こそ減っているが、本塁打数と打点数はいずれも前年を上回った。打率.338はキャリア2番目の好成績であり、自身2度目の首位打者(両リーグでの首位打者は史上2人目)とパ・リーグMVPのタイトルを獲得し、この年のチームの日本一にも大きく貢献。移籍から6シーズンが経過した現在も、毎年のように打率3割以上をマークし、チームをけん引している。
投手の中では、2013年に埼玉西武から千葉ロッテに移籍した涌井投手と、同じ時期に中日から福岡ソフトバンクに移籍した中田投手の成績比較が興味深い。
【涌井投手の移籍前後の成績】
移籍前: 45試合 5勝7敗7S 13H 92.1回 79奪三振 防御率3.90
移籍後: 26試合 8勝12敗 164.2回 116奪三振 防御率4.21
【中田投手の移籍前後の成績】
移籍前: 40試合 4勝6敗15H 98回 83奪三振 防御率3.40
移籍後: 25試合 11勝7敗 145回 116奪三振 防御率4.34
涌井投手と中田投手は、移籍直前は主にリリーフ投手として起用されていた。涌井投手は全45登板のうち34試合でリリーフ登板、中田投手は全40登板のうち29試合でリリーフ登板であった。しかし、移籍後の成績を見ると、両投手とも先発ローテーションの一角を担い、先発投手として成功。中田投手は自身7年ぶり2度目の2桁勝利を達成し、涌井投手は移籍2年目の2015年には15勝を挙げて、最多勝のタイトルを獲得する活躍を見せた。
それ以外にも2007年に東京ヤクルトから埼玉西武に移った石井一久投手も移籍後に活躍した選手のうちの一人だ。登板数、投球回ともに移籍前より減っているが、移籍初年度に自身7度目の2桁勝利を達成。さらに正捕手として細川選手が固定されていたことも良い効果をもたらしたか、移籍前は8つだった暴投が、移籍後は1つに減少し、投球が安定。なお、この年の埼玉西武は4年ぶりのリーグ優勝を果たし、その勢いで日本シリーズ制覇、アジアシリーズをも制してみせた。これは石井一投手の活躍が大きく影響したことは間違いない。
そもそもFA権というのは、長い期間チームに貢献した選手が取得する権利である。移籍を決断する理由は選手によって様々だが、一流選手といえども、新しい環境に飛び込むときにはあらゆるリスクがついて回る。特に異なるリーグのチームへ移籍すれば、球場の特徴や対戦相手の傾向も全く別のものになり、生活圏も試合ごとの移動距離も変わる。それまで積み上げてきた経験や感覚は、大幅な修正を余儀なくされるだろう。
数年もがいて新しい環境に適応し、本来の力を発揮する選手もいれば、移籍によって新たな才能を開花させる選手もいる。多大なリスクがつきまとうとしても、慣れ親しんだ場所から離れ、新たな勝負をかける全ての選手たちの今後の活躍に期待したい。
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