MLBでは日没、降雨など試合が中断しても引き分け再試合で決着をつける
「引き分け」という考え方は、もともと野球にはなかったものだ。19世紀半ばにアメリカ東海岸で誕生した野球は、最後まで決着をつけるものだった。
1856年までは「21点先取したチームが勝ち」というルールであり、21点取るチームが出るまで延々と試合をしていた。しかし、時間がかかりすぎることから1857年「9イニングスを終了時点で得点が多かったチームを勝ちとする」とルールが改められた。しかし、同点の場合は決着がつくまで試合をするものとされた。
MLBでは、この伝統が原則として現在まで続いている。ただし、かつてのMLBでは同点のまま延長戦になった場合には「引き分け再試合」で決着をつけた時期もあった。延長に入ってから日没や降雨などで試合が中断すれば、別の日に改めて再試合を行って決着をつけたのだ。ただし審判の判断などで、次の対戦の機会に、中断した試合のスコアの続きを「サスペンデッドゲーム」として行うこともあった。
「引き分け再試合」の場合は試合数が増え、「サスペンデッドゲーム」の場合は試合数が増えない。19世紀から1970年代まで、こういう形式で試合が行われてきた。チーム成績や選手の個人成績では引き分け試合が加算されているが、リーグの順位表には「引き分け試合」は載っていない。
今季のメジャーリーグは史上初のタイブレークが導入、7月24日のエンゼルス対アスレチックス戦
最近も「サスペンデッドゲーム」はあるが、「引き分け再試合」はない。過密なスケジュールに「再試合」を組みこむのが難しいからだ。最近は、延長戦になった場合、決着がつくまで試合を続行している。
ただし、まれにペナントレースに関係のない消化試合などで「引き分け」となるケースもある。2016年9月29日のパイレーツ-カブス戦は1-1で6回途中降雨引き分けとなった。シーズン終了3日前であり「サスペンデッドゲーム」を組みなおすことが難しかったことからこの措置が取られた。
MLBではポストシーズンやオールスター戦も引き分けはなく、決着がつくまで戦うが、オールスター戦では降雨や、ベンチに選手がいなくなって引き分けになったケースが1961年、2002年の2回ある。2020年のMLBは、新型コロナウイルスで開幕が遅れ、公式戦が60試合と激減。試合消化を促進し試合時間を短縮するためにMLB史上初めて「タイブレーク」が導入された。
7月24日のエンゼルス対アスレチックス戦はMLB史上初のタイブレークとなり、10回は無死二塁からスタートしたが、最初の二塁走者になったのは大谷翔平だった。「タイブレーク」は決着がつくまで戦うので引き分けは出ない。
日本には1872年頃にアメリカの「お雇い外国人」ホーレス・ウィルソンによってもたらされたとされるが、到来した当時の野球も決着がつくまで延々と行うものだった。明治末期から大学野球が盛んになるが、東京六大学は「勝ち点制」を導入。先に2勝したチームが「勝ち点」を得る。延長戦で同点の場合は引き分けとなった(延長戦の規定はたびたび変更された)。その場合は、どちらかが2勝するまで試合を続けた。
高校野球での最長記録は1933年の中京商対明石中の延長25回
大正期に始まった中等学校野球(のちの高校野球)は一戦必勝のトーナメント戦だったために引き分けはなく、決着がつくまで行った。1933年8月19日に甲子園で行われた中京商-明石中の対戦は0-0のまま延長戦となり、延長25回裏に1点が入って決着がついた。これが高校野球全国大会の最長記録だ。
1958年には徳島商の板東英二が春季四国大会で延長25回を一人で投げ切り話題となった。日本高野連はこれを問題視し、急遽「延長18回引き分け再試合」というルールを導入。板東英二はこの夏の甲子園に出たが魚津高校と延長18回引き分け再試合を演じ、新ルールの適用第1号となった。
以後、高校野球は「延長18回引き分け再試合」となったが、1998年の甲子園で横浜の松坂大輔が延長17回を一人で投げ切ったことが問題視され、2000年から「延長15回引き分け再試合」となった。さらに2018年春からは延長13回以降「タイブレーク」となった。高校野球の公式戦での「引き分け」は原則としてなくなっている。
プロ野球では、夜間照明がなかった戦前は、日没引き分けとなっていた。つまり日没までは何イニングでも延長戦をした。1942年5月24日の大洋軍-名古屋軍は延長28回4-4日没引き分けとなった。MLBでは1920年5月1日のブルックリン・ロビンス-アトランタ・ブレーブスの延長26回が最長だから、それを抜く世界最長試合だった。
戦後のプロ野球では引き分けの規定が作られた。これも何度も改定を繰り返し、2019年の時点では「延長12回で決着がつかない場合は引き分け」となっていた。しかし、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大によって、試合数が143試合から120試合になるとともに、「延長10回で決着がつかない場合は引き分け」となった。このために今季は引き分け試合が増加している。
新型コロナ禍は、MLBやNPBの野球も変えようとしているのだ。
(広尾晃 / Koh Hiroo)
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