抑えが固定されたチームは強い? 直近5年のパ・リーグ各球団のセーブ数をさかのぼる

パ・リーグ インサイト 望月遼太

2020.5.2(土) 18:26

福岡ソフトバンク・森唯斗投手【撮影:丹羽海凪】
福岡ソフトバンク・森唯斗投手【撮影:丹羽海凪】

1人の投手をクローザーに固定できれば理想的だが

 リードした試合の終盤を締めくくる「クローザー」という役目は、僅差の試合で白星を勝ち取るためには重要なものとなる。各チームにとっては、年間を通じてクローザーを固定するかたちが取れれば理想的だ。だが、長いシーズンを戦ううえでは、怪我や不振といった想定外の事態が往々にして起こるもの。それゆえ、1人のクローザーのみでシーズンを戦い抜けるチームは、ほんの一握りにすぎない。

 1人の投手をクローザーに固定できる状況を作り出せれば、チームの試合運びが安定することにもつながる。逆に言えば、クローザーを固定しきれない状況であれば、試合終盤のやり繰りは自然と苦しくなってくるだろう。しかしながら、実際のケースを見ていくと、クローザーを固定できなくとも好成績を残したチームや、年間を通して守護神が活躍しながらチームは不振だったという例も、過去には存在していた。

 今回は、直近5年間のパ・リーグ各球団において各シーズンでセーブを記録した選手と、該当年のチーム成績・順位をそれぞれ紹介。各チームの守護神の移り変わりを確認するとともに、クローザーを固定できたか否かによって、チーム成績に差異が生じていたのかどうかを確認していく。

直近5年間の北海道日本ハムでセーブを記録した選手とチーム成績(C)PLM
直近5年間の北海道日本ハムでセーブを記録した選手とチーム成績(C)PLM

北海道日本ハムファイターズ

 2014年途中からクローザーの座をつかんだ増井投手は、今回取り上げた直近5年間においても確かな存在感を発揮。2015年は1人で全てのセーブを稼ぐ大活躍を見せ、2017年にも全31セーブ中27セーブと大半を占めた。2017年にFAでチームを離れるまで、救援陣の軸として多くのセーブを記録していた。

 2016年はその増井投手が安定感を欠いたこともあり、シーズン途中に先発の一角だった吉川投手が一時期抑えに回るなど、流動的なシーズンに。2018年も石川直投手、トンキン投手、浦野投手、そして本来は先発の有原投手の4名が抑えに起用され、2019年は安定感のある投球を見せていた秋吉投手がシーズン途中に故障離脱したことが影響し、2年続けて抑え投手を固定しきれないシーズンとなった。

 しかし、チーム成績に目を向けると、最も抑えの座が流動的だった2016年にリーグ優勝を果たしているのが興味深い。その一方で、年間を通じて増井投手が抑えを務めた2015年にも2位に入っており、3人の投手が一定期間抑えを務めた2018年もAクラス入り。抑え投手の事情というよりも、救援陣全体でどれだけの安定感を見せられたかどうかが、チーム成績に直結したと言える。

直近5年間の東北楽天でセーブを記録した選手とチーム成績(C)PLM
直近5年間の東北楽天でセーブを記録した選手とチーム成績(C)PLM

東北楽天ゴールデンイーグルス

 直近5シーズンのうち4年間で30セーブを挙げた松井投手が、割合の大半を占める結果となった。2016年と2019年の2度にわたってチーム内の全セーブを記録し、2015年も36個中33個と盤石の結果を示した。2017年は福山投手が7セーブを挙げるなど、先述した3年間とはやや異なる傾向となったが、それでも十分な割合のセーブ数を記録していた。

 唯一2018年は大きく傾向が異なる1年に。松井投手が大きく調子を崩してハーマン投手と役割を入れ替えると、助っ人右腕は安定感抜群の投球でクローザーの役割を全うした。しかし、そのハーマン投手が故障離脱したことを受け、ブルペンは再び難しい状況に。最終的には一時期先発に転向していた松井投手が再び抑えに戻ったが、チーム全体のセーブ数が少なかったことにも、このシーズンの苦境ぶりが表れていた。

 楽天の場合は多くのシーズンにおいて松井投手が守護神として君臨していたこともあり、チーム成績の良し悪しをセーブ数の分散と結び付けて考えるのはやや難しい。2016年と2019年はそれぞれ松井投手一人でチーム内のセーブを独占したが、その結果はAクラスとBクラスで明暗が分かれているのも興味深いところ。松井投手が先発に転向し、ハーマン選手が千葉ロッテに移籍した2020年は、どのような傾向が表れるかにも注目だ。

直近5年間の埼玉西武でセーブを記録した選手とチーム成績(C)PLM
直近5年間の埼玉西武でセーブを記録した選手とチーム成績(C)PLM

埼玉西武ライオンズ

 2014年にクローザーの座をつかんだ高橋投手が2015年も引き続き抑えとして活躍を見せていたが、2016年にその高橋投手が故障で長期離脱を強いられたことを受けて、クローザーの座は増田選手にバトンタッチ。その増田投手は、その後の4シーズン中3シーズンでチーム内におけるセーブ数の大半を記録する活躍を見せており、クローザーとして一定以上の成功を収めていると言ってよさそうだ。

 先述した楽天のケースと同様、埼玉西武にとっても2018年は今回取り上げた期間内で唯一、抑えを固定しきれなかったシーズンとなった。増田投手が防御率5点台と不振に陥り、先発だったカスティーヨ投手を抑えに配置転換するも奏功せず。しかし、途中加入のヒース投手がシーズン途中から抑えに定着し、安定感のある投球でチームを救った。主に中継ぎとして活躍したマーティン投手とともに、シーズン途中の補強が成功を見せている。

 チーム成績としては、2015年と2016年がBクラス、2017年以降は全てAクラスと、明暗がはっきりと区別できる結果となっている。3年連続で打率と得点がそれぞれリーグ1位という強力打線が躍進の一因であることは確かだが、2017年と2019年の増田投手、2018年のヒース投手はともに一定以上の安定感を見せており、最終回を締めくくる確度の高さも、近年の好成績に寄与する要素だろう。

直近5年間の千葉ロッテでセーブを記録した選手とチーム成績(C)PLM
直近5年間の千葉ロッテでセーブを記録した選手とチーム成績(C)PLM

千葉ロッテマリーンズ

 2014年からクローザーとなった西野投手は2015年まで盤石の安定感を見せていたが、同年の終盤戦に故障で戦線離脱。翌2016年には安定感を欠く場面も目立ち、シーズン途中に益田投手へ守護神の座を譲った。その益田投手も2017年には不振に陥って内投手に守護神の座を渡し、続く2018年には内投手が終盤に調子を崩して再び益田投手がストッパーに。この通り、近年は毎年のようにシーズン中に抑え投手が入れ替わっていた。

 そんな中で、2019年は益田投手がシーズンを通して抑えの座を守り抜き、一定以上の安定感を見せてチームを支えた。シーズン後にはFA権を行使せずに残留を選択した頼れる右腕が来季以降も守護神の座を守るか、それとも再びクローザーの交代劇は起こるのか。2020年は、各投手にとってもチームにとっても、大いに重要な1年となってきそうだ。

 チーム成績としては、2015年からの2年間はAクラス、それ以降の3年間はBクラスと、埼玉西武とは真逆に近い結果となった。Aクラスに入った2年間は守護神の交代がありながらも防御率1点台の投手が試合を締めくくるシーンが多かったが、2019年こそ益田投手が安定感を発揮していたものの、2017年と2018年は最終回の締めくくりに苦慮するケースが少なくなかった。そういった要素が、チームの成績にも影響していた可能性はある。

直近5年間のオリックスでセーブを記録した選手とチーム成績(C)PLM
直近5年間のオリックスでセーブを記録した選手とチーム成績(C)PLM

オリックス・バファローズ

 2015年から2017年までは平野投手、2018年からは増井投手と、オリックスではクローザーとしての確かな実績を持つ2投手が活躍を見せてきた。2016年から2018年までの3年間は先述の2名のうちどちらかがシーズンの大半で抑えを務めているところも、ともにリーグを代表する抑え投手として鳴らした両雄の面目躍如といったところ。

 ただ、2015年は平野投手が調子を崩し、中継ぎとして活躍していた佐藤氏がクローザーとしてチームトップのセーブ数を記録。2019年には増井投手が不振に陥り、前年までは先発だったディクソン投手が、故障からの復帰直後に抑えへと配置転換された。この2シーズンはチーム全体の成績としても苦戦を強いられており、その苦闘がブルペンの数字からも見て取れるところだ。

 オリックスは2014年にシーズン最終盤まで激しい優勝争いを演じたが、2015年からの5年間はいずれもBクラスと厳しい戦いを強いられている。平野投手が防御率1点台と直近5年間ではクローザーが最も安定した投球を見せていた2016年にもチームはリーグ最下位に沈んだが、2019年はチーム防御率がリーグ5位、チーム打率が同最下位と、投打ともに苦しんだ。まずは試合終盤を締めくくるかたちを見いだし、低迷打破を目指してほしい。

直近5年間の福岡ソフトバンクでセーブを記録した選手とチーム成績(C)PLM
直近5年間の福岡ソフトバンクでセーブを記録した選手とチーム成績(C)PLM

福岡ソフトバンクホークス

 3年連続で40セーブ超えを果たしただけでなく、2017年にはNPB史上最多の54セーブを記録したサファテ投手の安定感は、日本球界の歴史を振り返ってみても際立つものだった。五十嵐投手や岩嵜投手といったその脇を固める投手たちも優秀な成績を残しており、2015年からの3年間で2度のリーグ優勝および日本一という快挙達成には、ブルペン、そして最終回の安定感が欠かせないものだった。

 2018年からはサファテ投手が故障で長期離脱を強いられることとなったが、中継ぎから配置転換された森投手が見事にその穴を埋め、クローザーとして瞬く間に独り立ちを果たした。森投手は2019年もシーズンの大半で抑えとして安定感のある投球を見せたが、その森投手が怪我での離脱を強いられた期間には、主に甲斐野投手が代役を務めた。クローザーの新陳代謝がうまく図れているチームなだけに、甲斐野投手の今後の活躍にも注目だ。

 福岡ソフトバンクは今回取り上げた5年間すべてで2位以内に入っており、上位を維持する安定感はずば抜けたものがある。その理由はいくつも考えられるが、サファテ投手、森投手の両名がクローザーとして安定した投球を見せていたという点も、その安定感に貢献する要素の一つであったことは間違いない。ブルペン全体の層の厚さも含め、強豪らしい戦いぶりの一端がうかがえる数字となっている。

クローザーが流動的ながら優勝を果たした2チームにはいくつもの共通点が

 シーズンを通して1人の選手がチーム内のセーブ数を独占した例は、2015年の増井投手(北海道日本ハム)、2016年と2019年の松井投手(ともに楽天)の3例のみとなった。2015年の北海道日本ハムは2位、2016年の楽天は5位、2019年の楽天は3位と各チームの順位にはばらつきが見られたが、Aクラスが2度、Bクラスが1度と、優勝こそなかったものの、一定の安定感は発揮していたと言えるか。

 その一方で、2016年の北海道日本ハムと2018年の埼玉西武は、クローザーが何度も入れ替わる苦しい台所事情の中で、見事にリーグ優勝を勝ち取っている。両チームともに前年までのクローザーが不振に陥り、テコ入れのために本来先発だった投手を急遽抑えに回すも奏功しなかった、という経緯も共通している。通常であればチームの成績も安定しないように思えるこういった状況で、両チームがリーグを制することができた理由とはなにか。

 要素の一つとしては、打線の力が挙げられるだろう。2016年の北海道日本ハムは、チーム打率がリーグ1位、チーム得点・本塁打・出塁率がそれぞれ同2位と打線が機能しており、2018年の埼玉西武は本塁打こそリーグ2位だったものの、打率・得点・出塁率では他を大きく引き離してリーグトップの数字を記録。そもそも4点差以上がつけばセーブ機会が生まれないということもあり、強力打線が台所事情をカバーしていた。

 加えて、最終的にクローザー問題を解決できる人材を見いだしたことも大きかっただろう。2016年の北海道日本ハムはマーティン投手、2018年の埼玉西武はヒース投手と、両チームともにシーズン途中から抑えに回った助っ人右腕が安定した投球を披露。優勝争いを演じる上で重要な終盤戦に、救援失敗で勝利を取りこぼすことが少なかったことも、ライバルに競り勝って優勝を果たせた要因の一つとなった。

 他方、復調した増田投手が抜群の安定感を見せて年間を通してクローザーの座を務めた2019年の埼玉西武や、大半のシーズンで守護神を固定して安定した成績を記録している福岡ソフトバンクの戦いぶりのように、クローザーを固定できたことが好成績につながたケースも少なくなかった。安定した戦いぶりを見せるためには、競った試合を確実に勝利に結び付けられる守護神の存在が重要となってくるのも、また事実。

一度の失敗が試合展開を変えてしまう役割だからこそ

「最多セーブ」が投手の主要タイトルの一つとして表彰対象となっていることからもわかる通り、クローザーという役職にかかる責任、重圧、そして栄誉は、リリーフ陣の中でもひときわ大きなものとなる。長年にわたってクローザーを務め続けた選手は球界全体を振り返ってもごくわずかであることからも、その難易度の高さがあらためて感じられるところだ。

 抑えという役割は、1度の失敗が試合展開自体を大きく変えてしまうもの。求められる安定感も相応に高い水準のものとなる。だからこそ、シーズン途中の配置転換が少なくないポジションにもなる。そんな苛酷な役割を任されながら、きっちりと僅差のリードを白星につなげてくれる投手たちの存在は、チームにとっても非情に大きなものになる。今季も各球団のクローザーの変遷や、守護神たちの奮闘に要注目だ。


文・望月遼太

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記事提供:

パ・リーグ インサイト 望月遼太

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