埼玉西武ライオンズが取り組む車椅子ソフトボールの普及・支援活動

パ・リーグ インサイト 武山智史

2016.9.8(木) 00:00

9月3日(土)、4日(日)の2日間、埼玉・大宮第二公園の多目的広場では車椅子ソフトボールの選手たちが生き生きとしたプレーを繰り広げた。この大会「ライオンズカップ」を主催したのは埼玉西武ライオンズ。昨年、NPBの球団では初めて車椅子ソフトボールの大会を立ち上げた。

車椅子ソフトボールは文字通り、競技用の車椅子に乗って行うソフトボール。アメリカが発祥であり、日本では「障がいを持つ方々も野球・ソフトボールを楽しめるように」というコンセプトで北海道を拠点に普及活動が始まった。

車椅子ソフトボールの大きな特徴は以下の通り。
・通常のソフトボールよりも柔らかく大きいボールを使い、グラブは使わない。
・10人制で、9人に加えてフェア地域はどこでも守ることができる「SF(ショートフィルダー)が存在する。
・投球時には地面から1.8mから3.6mの空間でアーチを描くように投げる。
・男女の違いなどの様々な条件によって持ち点があり、1チームで参加する選手の合計持ち点が21点を超えてはならない。
など、独自のルールが存在する。

この車椅子ソフトボールの魅力は何といっても障がいを持つ方と健常者、老若男女関係なく一緒に楽しめる点だ。実際、ライオンズカップでも女性や小学生がプレーする光景が見られた。「青空の下で白球を追い掛ける、ベースボール型競技の面白さは失われていないですよ」と日本車椅子ソフトボール協会の山田憲治事務局長は笑顔を見せる。

埼玉西武と車椅子ソフトボールはどんな経緯で接点を持ったのか。大会を取り仕切る埼玉西武ライオンズ事業部コミュニティーグループの市川徹氏は「2013年、事業部の中に野球振興を目的としたコミュニティーグループが立ち上がりました。そして色々と調べていく中で、車椅子ソフトボールと出会ったのです。ちょうど日本車椅子ソフトボール協会も同じ年に発足し、協会の方と話していく中で『ぜひ支援をお願いしたい』という依頼を受け球団がスペシャルサポーターになりました」と説明する。

埼玉西武はその活動の一環として、ファン感謝デーで車椅子ソフトボールの体験会を実施。ファンに向けて車椅子ソフトボールの普及活動を行っている。その流れで昨年、第1回ライオンズカップ車椅子ソフトボール大会が開催された。「元々協会は北海道にあったため、全国大会も北海道で開催されていました。でも全国的に普及していくには競技者の多い関東で大会を開催しようという話になって、『ウチがやります』と手を上げたのです」と市川氏が続ける。

大会開催と同時に、球団は車椅子ソフトボールチーム「埼玉A.S.ライオンズ」を結成。このチームは埼玉西武と同じ帽子、ユニホームを着て試合に出場し、記念すべき第1回で優勝する。

ライオンズカップを開催した影響は大きかった。大会をきっかけに車椅子ソフトボールに興味を持ち、A.S.ライオンズに加入した人までもが増加した。埼玉西武の選手たちもファン感謝デーでの体験会に参加したりするなど車椅子ソフトボールの認知度も高まってきている。「選手会として、または選手個人として車椅子ソフトボールを支援するのも時間の問題だと思います」と市川氏は言う。

第2回となった今回は、昨年よりも2チーム増え6チームが出場。昨年はTOKYO LEGEND FELLOWSで出場した鷲谷修也氏は、上智ホイールイーグルスを結成して大会に挑んだ。「健常者、障がい者、女性がいる中でどう戦略を組んでいくか考えるのは面白いです。例えば投げにくい体勢だったら投げやすい選手を探して、その選手にパスして送球する。そんな連係プレーは奥深さを感じます。昨年と違うチームで参加して改めて魅力的なスポーツだと思いますし、少しずつ輪が広がっていければ良いですよね」。車椅子ソフトボールの魅力について鷲谷氏はこう答える。

大会の方は埼玉A.S.ライオンズがTOKYO LEGEND FELLOWSを下し2連覇を達成した。優勝したA.S.ライオンズは元横浜、オリックスの古木克明氏がチームの一員として出場。現役時代をほうふつとさせる豪快なバッティングを見せていた。また、本大会が行われる一方では、一般の方を対象にした体験会も開催。競技用の車椅子を操るところから始まり、キャッチボールやミニゲームを行い、参加者は笑顔で車椅子ソフトボールを楽しんでいた。

4年後の2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催される。目指すのは車椅子ソフトボールがパラリンピックの正式種目となることだ。市川氏は埼玉西武の果たすべき役割について語る。

「球団として取り組みたいのは、障がい者でも野球・ソフトボールができるきっかけを作っていきたい。2020年の東京オリンピックだけでなく、パラリンピックにも目を向けていることをプロ野球チームとして強く意識していきたいですね。現在、埼玉西武の他に北海道日本ハムが車椅子ソフトボールの支援活動を行っています。現在は埼玉西武だけですが、将来的にはNPBの12球団がそれぞれ車椅子ソフトボールチームを持って、大会が行われるのが理想です」。

プロ野球チームが社会に果たすべき役割とは。埼玉西武が取り組む野球振興活動はその一翼を担っている。今後の車椅子ソフトボールへの普及・支援活動にこれからも注目していきたい。

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パ・リーグ インサイト 武山智史

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