8月21日、オリックス対楽天が行われる京セラドーム大阪では伊丹市民観戦デーが開催された。オリックスは阪神と同じ関西地区を本拠地としており、集客アップのために、工夫した取り組みを行っていく必要がある。このイベントはその一環とも言うべき取り組みの一つであった。
なぜ、大阪と神戸を本拠地としているオリックスが、どちらからもやや離れている伊丹市なのかと思うかもしれない。実は、オリックスには伊丹大使を務める山崎勝己選手、中島宏之選手、北川博敏打撃コーチが所属しており、チームと関係が深いからである。
この伊丹市民観戦デーを実現させるのに、中心となった伊丹アスリートクラブの新たな戦術が固まるきっかけを作ったのが、山崎選手のFA移籍による入団だった。2014年3月に関係者150名が参加して開催した山崎選手の地元激励会は今回と同じ手法で成功していたのだ。
今回の企画を実施することになったとき、スポンサーなしの成功事例を作ることを目標の一つとして掲げた。そして伊丹大使になったのは良いが、その役割を今一つ全うできていなかった選手たちと起用法に悩んでいた市をつなぐためのものでもあった。実際に、実現に向けて動き出したのは今年の3月からだった。
球団担当者と伊丹アスリートクラブが第1回目の打合せを行い、条件等の確認をした上で双方がやれると判断したのが3月末のことだった。伊丹アスリートクラブが培ってきた団体間ネットワークをフルに活用し、山崎選手の激励会で使ったBtoB形式での取り組みを活用することとなった。
4月には山崎選手の父が役員を務める伊丹市軟式少年野球連盟にまずは協力を求め、続いて公益財団法人伊丹スポーツセンターにも協力を依頼した。より多くの市民に京セラドーム大阪へ足を運んでもらうために、少年野球大会や伊丹市花火大会がない日を選択するなど日程の調整には丁寧に取り組んだ。この段階で400人超の参加者を確保。5月には伊丹市を拠点にダンススクールを展開するjackpotダンススタジオのキッズ120人が参加する話もまとまった。日頃は最大でも数百人の会場で成果を披露するダンサーたちにとってもその何倍もの規模でパフォーマンスをすることは絶好の機会である。そして球団にとっても、来場される親御さんが購入するチケットがそのまま売り上げへとつながることとなる。
ここまで整えたうえで、市の観光戦略課にも正式に連携を持ち掛けた。市へ依頼した理由の一つとしては、広報誌で伊丹市民応援デーについて告知掲載してもらうことだった。それは最初の球団担当者との打合せ段階で出された、唯一の条件といえるものだったのだ。
ここまでの取り組みでスポンサーや活動資金を探すことに労力を使わずに、事前申込だけで806枚のチケットが販売された。当日販売も行っており、伊丹市民価格でチケットを購入する人たちも多く見られた。同日に甲子園で高校野球の決勝が行われているなど、条件が揃っているとは言い難い日にこれだけのチケットが売れたのは、オリックスにとってはうれしい誤算だったかもしれない。だが伊丹アスリートクラブにとっては、これまで培ってきた地域スポーツや行政とのネットワークを考えれば予想通りの結果であったと言える。
伊丹アスリートクラブの池田智嘉理事は今回の伊丹市民観戦デー実現を終えて、「地域でスポーツビジネスを進めていくためには、仕事としてのスポーツと、教育・ボランティアが担うスポーツの着地点をうまく見つけることが必要です。限られた予算や時間の中でさまざまな要望を調整して、面白く魅力あるスポーツ活動を生み出すこと。今回は球団の柔軟な対応があってこそですが、プロ野球チームと企画に取り組めるなんて最高のプロジェクトです」と語っている。
今回のオリックスとの取り組みは、伊丹アスリートクラブにとっても団体として備えておくべき能力の、いわば性能実験の機会でもあった。その結果、行政を巻き込んだ取り組みがある程度の集客を確保できるということが実証された形となった。
この日大阪に足を運んだ私は試合前に伊丹アスリートクラブのメンバー、伊丹市観光戦略課の方々、そして、この企画を知って参加することになった元伊丹大使であり、元プロ野球選手の尾崎匡哉さんなどと一緒に時を過ごした。今後地域が中心となってどういった企画を生み出していこうかなど色々な話題が飛び交い、これからの新たな動きも予感させるものだった。
今回の伊丹市民観戦デーは、地域を大切にしている団体とタッグを組むことである一定の集客確保と新たなファン開拓につながる可能性があることを示した一つの形になった。こうしたイベントが今後、オリックスだけでなく、他球団に、そして他競技に広がっていくであろう今後の発展にも期待したい。
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