熱き“パ・リーグ魂”を胸に、日々是育成。田口壮二軍監督兼打撃コーチインタビュー(後編)

パ・リーグ インサイト 藤原彬

2017.11.29(水) 14:30

オリックス・バファローズ 田口壮二軍監督兼打撃コーチ(C)PLM
オリックス・バファローズ 田口壮二軍監督兼打撃コーチ(C)PLM

オリックスの田口二軍監督兼打撃コーチへのインタビュー前編では、指導法にとどまらない選手との接し方を中心に語ってもらった。この後編では、二軍を率いる指導者としての醍醐味と、パ・リーグならではの魅力についても触れてもらっている。

手塩にかけた選手が一軍で活躍する喜び

-目の前の「勝利」と「育成」のバランスについてはどのように考えますか。

(田口監督)育成と勝利のバランスとよく言われますけど、勝たないことには覚えられないですよ。負けているゲームではなかなかプレッシャーもかかってこないので、勝たないと。勝ち切るプレッシャーというのは凄いので、そこを味わわせてあげたいですね。それで初めてプレーヤーとして成長していきます。育成の一環としても勝たないといけないと、僕は思いますね。

-今季は一軍に故障者が続出しましたが、二軍の選手にとってチャンスだったのでは。

(田口監督)確かに「怪我人が出ました、だからチームの成績が落ちました」という見方はできます。じゃあ、それに代わる選手がいなかったのかというと、そうだった。そこは、やっぱり僕たちの仕事ですよね。下から一軍に上げられる選手をもっと作らなければいけないし、吉田正尚やロメロのような選手をこちらからドーンと送り込むのは難しいですが、違った形で代わる選手をなんとかして送り込まないといけないし、それが我々の仕事ですから。その点では5月、6月ぐらいに一軍の順位が落ちてしまったのは、悔しいです。

-ただ、今季は春先に二軍で投げていた若い投手が一軍で戦力になっています。

(田口監督)春先にこっちで頑張っていた選手が上で活躍してくれるのはうれしいですし、ちょっとは一軍の助けになったかもしれないですけど、それは本人の努力ですからね。活躍している姿を見ると戻ってくるなよと思っています。

-二軍にいた選手が一軍で活躍した時の喜びはどれほどのものですか。

(田口監督)かなりですよ! 凄くうれしいですよ。常にうれしいですよ。二軍を少しでも通過した人間であれば、誰が活躍しても凄くうれしいです。現役時代に別の選手が活躍してうれしいと思ったのは、日本シリーズやポストシーズンのように、チームとして勝ちにいく時だけでしたね。それ以外ではライバルなので「あぁ、打ったね、凄いね」ぐらい。チームが勝ったら喜びますけど、選手の時は基本的に自分本位でしたね。立場が変わると喜びの度合いも違うと実感しています。

-その意味でも勝利が重要になる。

(田口監督) 「自分がどうやって生き残るか」という思考もありますが、ポストシーズンに入ると「チームで勝ちたい」となる。強いチームになってくると、やはり「チームのために」と考えるので、周りが打っても活躍してもうれしい気持ちが出てきました。弱いチームだと、そんなことはまったく考えなくなります。現役の時は、チームと自分という相反することに折り合いをつけないといけなかった。指導者になると、全員を一軍に送り込んであげたいし、チームも勝ってもらわないと困るという状況になります。

-プレッシャーのかかる場面で、選手に成長が見られたら感慨もひとしおでしょうか。

(田口監督)コーチ同士で食事に行って、パ・リーグTVなどでプレーを観ながら、二軍から一軍へ行った選手が活躍すると「よし、俺らが育てた!」と言っていますからね。選手が努力をして、一軍の監督、コーチにうまく使ってもらっているということを横に置いて自分たちの手柄にしているという(笑)。僕たちは、そういう楽しみ方もしています。

ファームの面白さと、今も持ち続けているパ・リーグへの愛情

-ファームならではの楽しみ方があるのですね。

(田口監督)どの選手がどう成長するのかが一番面白いところだと思います。若い子たちは日に日に進歩しますから。1カ月経つと全然違う選手になっていることもあるので、それを見るのは楽しい。一軍から調整で来る選手もいるので、そういう選手が今、何をやっているのかを見るのも、ここでしか分からないことですよね。二軍の試合に来てもらえれば、応援している選手をじっくり観察できると思います。試合前と試合後には練習が観られますし、スタンドが小さいからグラウンドの声が聞こえます。コーチや選手が何を言っているか聞こえるぐらい、距離が近い。その近さが僕は面白いと思いますね。

-「野球の音」もよく通ります。

(田口監督)トランペットや太鼓がありません。その意味では純粋に野球を観ながら、ボールがバットやグラブに当たる音や、選手の息遣いがよく聞こえるのも面白い。無音でやる野球が、僕は結構好きですね。また、スタンドを大きくしてもっとお客さんに来てほしい、もっと観てほしい思いはありますけど、これだけコンパクトだと、いつも満員になっているような感覚があります。

-最後に、パ・リーグの魅力も教えてください。

(田口監督)魅力満載ですよね。パ・リーグは日本全国、綺麗に分かれています。地域性が必ずありますし、チームの応援の特色もある。バランスの良さが僕は面白いと思っています。パ・リーグを追いかけていただくと、日本全国の旅ができますからね。パ・リーグファンになって日本全国をまわっていただければ、北海道から九州まで行けますし、どこにでもおいしいものがある(笑)。力を持っている選手ももちろん多いですし、「この選手を見てくれ」という存在が必ず全チームにいる。セ・リーグもそうですが、パ・リーグには日本を代表する選手も多いですから。昔から言われる「人気のセ、実力のパ」というところは、パ・リーグの人間としては実力の部分を維持したい。パ・リーグの良さは、そういうひがみ根性(野球では負けないという)を皆が持っているところです。

-現役を退いた田口監督も。

(田口監督)僕は今も持っていますね。セ・リーグに対してひがみ、うらやましさみたいなものがあります。それに対して負けたくない気持ちは、今の選手も持っているんじゃないかな。それをエネルギーに変えるのは歴史的なもので、遺伝子としてこのパ・リーグにずっと残ると思います。セ・リーグが嫌いなわけではなくて、うらやましいなという思い。いわゆる“パ・リーグ魂”というのは皆が持っていると思いますよ。その気持ちは熱さにも変わりますし、それがパ・リーグの良さではないでしょうか。


真剣な眼差しから一転、対戦相手の監督やコーチらとの挨拶に応じる際、相好を崩して見せる田口監督の柔和な表情も印象的だ。試合後に行われたインタビュー時も同様で、質問に深く考え込むシリアスさと、織り交ぜるユーモアの使い分けが絶妙だった。撮影時には、こちらの意図をすかさず汲み取り、迅速に行動へ移す。機を見るに敏。現役を退いて6年を経た今も、そのイメージは首脳陣の起用に幅広く応え続けた現役時代と変わりがない。そして、選手の自主性を重んじ、大きく育てようとする姿勢は、球団最後の日本一を演出した、今は亡き仰木彬氏の育成方針と重なるものがある。

田口監督は二軍で研鑽を積む選手の成長について、手応えを口にした。チームは1996年以来となる来季のパ・リーグ制覇、そして、その先にある頂へ向けて動き始めている。当時の栄光を知る指揮官の下、改革元年を経たファーム組織から、次はどのような新戦力が巣立っていくだろうか。

記事提供:

パ・リーグ インサイト 藤原彬

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