北海道、仙台、福岡など、パ・リーグには本拠地を置く球団が北から南まで存在し、ファンであれば自チームを応援するついでに各地への旅を計画するのも楽しみ方の一つだ。
俗に「スポーツ・ツーリズム」と言われるが、スポーツをきっかけに旅行感覚で遠征地を訪れる。試合観戦のためにスタジアムへ足を運び、その空間でそれぞれの地域の風土を感じることができたら、ビジターファンにとってはなおさら楽しいはずだ。
日本では地域それぞれに名産があり、特性を生かした売りで、遠征してくるファンを楽しませることができる。地域の特性を生かしたスポーツ・ツーリズムは、30もの球団を各地に誇るメジャーリーグにも劣らないはずだ。
日本の各球場では、ビジターファンも一体となることができる空間が確保され、「ビジターシート」としてチケットも販売されている。だがメジャーリーグの球場では、「暗黙の了解」でビジター側ベンチ上をビジターファンの集うエリアとはされているが、多くの場合ビジターシートとうたってのチケット販売はしていない。
メジャーリーグではホームチームのベンチが1塁側、ビジターチームのベンチが3塁側とは決められていない。30球団中ホームチームが1塁側にベンチを構えるのは18球団、そして3塁側にベンチを構えるのは12球団存在する。メジャーリーグで古くから存在するボストン・レッドソックスのフェンウェイパークと、シカゴ・カブスのリグレー・フィールドでも、ホームのベンチが1塁側と3塁側で異なる。そのためひいきのチームを応援しにメジャーの球場へ足を運ばれる方は、どちら側にベンチを構えているかを確認して上でチケットを購入する必要がある。
日本ではホームチームが必ずしも1塁側なのかと言えば、実はそうではない。パ・リーグに所属する北海道日本ハムファイターズ、東北楽天ゴールデンイーグルス、そして埼玉西武ライオンズは3塁側にホームのベンチを設けている。プロ野球の規定としてはっきりとした決まりはなく、球場の特性を考えた上でホームチームが有利となる方を選んでいるのではないだろうか。
私がメジャーリーグの現場で仕事をしていた頃は、多くの時間を各球場のクラブハウスで過ごしてきた。ホーム側とビジター側で「差」を作ることでホームチームに有利な環境を作り出す球場も少なくなかった。ホームチームの一員として過ごしていた居心地の良い空間が、同じ球場にビジターチームの一員として訪れれば、一気に居心地の悪い空間となるところも経験した。
今、メジャーリーグでホームとビジターのロッカー格差が一番大きいのがシカゴ・カブスのリグレー・フィールドだろう。私がこの球団で仕事をしていた頃は、充実したスペースを誇るクラブハウスとは言えない空間だった。それが大規模な改修工事により、ホーム側のクラブハウスは見違えるようなスペースとなった。だが一方でビジター側のクラブハウスの改修にはまだ着手しておらず、工事が行われるのも2018年シーズン終了後と先延ばしにされている模様だ。ただでさえ古い球場であり、メジャーリーグで一番狭いといっても過言ではないクラブハウスなのだが、ホーム側が改修したことでその格差はさらに大きなものとなった。
米国ではメジャーリーグだけに限らず、ホームで戦うことを有利にする「仕掛け」が多い。選手紹介のときにはホームチームの選手たちは華やかに盛り上げて紹介するが、ビジターチームの選手紹介は気が付いたら終わっていることが多々ある。さらにプレーオフに進めばよく目にするのが、「ブラックアウト」や「ホワイトアウト」と呼ばれ、来場者全員にTシャツ配布される試みだ。会場が一食に染まり、ホームチームを後押しする応援として今では主流となっている。
試合中の演出でも、ビッグスクリーンでは時にビジターチームのユニフォームを身にまとった人をあえて映し出し、ホームの応援の士気を高めるなどユーモアも含めた仕掛けをする。ビジターファンもそんな攻撃に怯むことなく、声を大にして応援を送るなど相乗効果を生み出す。
それに比べると日本ではビジター席が設けられ、ビジターチームの応援団も外野に配置されている。千葉ロッテマリーンズはパ・リーグ各球団との共同企画でビジター応援企画チケットを販売している。QVCマリンフィールド主催試合で対戦球団を迎え入れる時には、相手球団のユニフォーム付きチケットを販売。逆に千葉ロッテが敵地へ遠征に行く際には、本来ホームゲームでしか手に入らない限定グッズが付いたチケットをビジター球場で販売している。
さらには旅行会社と共同で航空券や宿泊費を選択できるビジター観戦ツアーも組まれており、パッケージには試合前練習見学会の実施、QVCマリンフィールドで使える商品券、選手の直筆サインボールやグッズが当たる抽選会が含まれている。
メジャーリーグではビジターチームに厳しい印象を与えたかもしれないが、千葉ロッテが力を入れるような敵地への遠征企画を実施している球団もいる。ボストン・レッドソックスが取り組みを続けている「レッドソックス・デスティネーションズ」という企画がその1つだ。航空券、宿泊費、観戦チケット代が含まれたツアーで、野球観戦の旅ならではの特典も含まれている。敵地の球場ツアーやチームグッズの配布、そして試合前にはレッドソックスの現役選手によるサイン&写真会なども実施されている。これはフェンウェイパークへ遠征に来るファンにも同様の企画が行われている。
「レッドソックスファンは全米どこでも現れる」という印象はあるが、こういった地道な取り組みが形となっているのだろう。印象的だったのは、ボルチモア・オリオールズとの遠征でカムデンヤーズを訪れれば、赤い服を身にまとった人のほうが多かったことだ。なかなかチケットが取れないフェンウェイパークでの試合に比べ、簡単にチケットが入手でき、直行便では1時間半程度で行ける距離なども要因としても挙げられるだろう。ファンがチームと共に遠征をしたいと思わせる企画を打ち出すのも、ファンを増やしていくには欠かせない。
各球場ビジターファンに対しても居心地良い環境を作り出すのか、それともホームアドバンテージを前面に打ち出すのか。スポーツ・ツーリズムがうたわれる中、それぞれが空間をどう彩っていくのかも今後楽しみだ。
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