2月20日(水)と21日(木)に、高知県立春野総合運動公園野球場で埼玉西武ライオンズと統一ライオンズ(台湾)の交流試合が開催される。社会人野球と独立リーグを経て統一の入団テストに合格し、今季で台湾球界2年目のシーズンを迎える日本人左腕の知念広弥投手は、日本人にとって馴染み深いとは言いがたい台湾リーグ、そして統一を肌で知る貴重な存在だ。今回はそんな知念投手に、今回の交流試合の見どころを現役台湾リーガーの立場から語ってもらった。
「日本の打ち方」な好打者・陳傑憲選手と、「米国的な打ち方」な2人の長距離砲
今回の遠征メンバーの中で、知念投手が特に注目すべき選手として挙げた選手は全部で4人。まずは、2018年の台湾リーグ最多安打受賞者の陳傑憲(チェン・ジェシェン)選手だ。埼玉西武の呉念庭(ウー・ネンティン)選手や廖任磊(リャオ・レンレイ)投手と同じく岡山共生高校での野球留学の経験を持ち、知念投手の通訳に近い役割をこなすほど日本語も堪能だ。
陳傑憲選手は日本でバッティングを習ったこともあり、知念投手いわく「日本の打ち方」をしているという。陳傑憲選手本人もNPB屈指の安打製造機である秋山翔吾選手の打撃フォームや、昨季ゴールデングラブ賞に輝いた源田壮亮選手の安心感のある守備を参考にしていると語っており、それを知念投手に伝えたところ「なるほど、似た感じです。そんなバッティングですね」と納得顔だった。埼玉西武の屋台骨を支える攻守の要のプレーに、統一ライオンズの切り込み隊長がどれだけ”似ている”のかも注目ポイントのひとつだ。
一方、高卒でアメリカに渡った経験を持つ郭阜林(グォ・フーリン)選手と、台湾で育ったものの、師事したコーチが米国式の教えをしていた蘇智傑(スー・ジージェ)選手は、打率と確実性の高い陳傑憲選手とは対照的な、「米国的な打ち方」をしているという。とりわけ、蘇智傑選手は意識的に高い打球を打ち上げて長打を狙うという”フライボール革命”に近い打ち方を、この理論が日本で話題になるよりも前に取り入れていたそうで、その打撃スタイルを知念投手は「下から思いっきり、空に向かって打っています」と形容している。
ちなみに、北海道日本ハムに入団した王柏融選手は「(日本と米国の)ちょうど中間、少し日本寄りな打ち方」をしているそうだ。その王柏融選手に続く、今後の日本行きが期待できる”ネクスト王柏融”の候補として、知念投手は「アベレージでいうと陳傑憲。長距離打者でいうと蘇智傑」と、先述の2人を推挙してくれた。陳傑憲選手に関しては日本の高校に在籍した経験を持っているため、ドラフトを経由して外国人枠から外れる形でのNPB挑戦も可能だ。そういった意味でも、この2人の名前を覚えておいて損はなさそうだ。
注目選手の最後の1人は、リリーフエースの陳韻文(チェン・ユンウェン)投手だ。2018年11月に日本代表と台湾代表が対戦した壮行試合で9回にマウンドに上ったが、そこで5失点を喫した投手でもある。しかし、知念投手は23歳の右腕について「本来持っている力はかなりある」と話し、155km/hの速球と、共に空振りが取れる球であるフォークと縦方向のスライダーを持ち、2018年オフのメジャー挑戦も噂されていたほどの逸材であると紹介してくれた。
また、知念投手は陳韻文投手以外の注目投手として、先述の壮行試合で揃って台湾代表に選出された江辰晏(ジィァン・チェンイェン)投手、施子謙(シー・ヅゥチェン)投手という2人の先発投手の名前も挙げてくれた。
「練習にかけている時間が違う」打撃力と、アグレッシブな走塁が多くの得点を生む
知念投手はチーム全体の打撃力についても高評価しており、「バッティング練習にかけている時間が違います」とその理由を明かした。練習時間のほとんどが打撃練習に費やされており、アップが終わってキャッチボールをしたらすぐに打撃練習に入るとのこと。また、台湾の選手はウエイトトレーニング好きでもあり、走り込みよりもそちらに重点が置かれているようだ。そのぶん守備力に関しては落ちるそうだが、鍛えに鍛えた打撃力には注目だ。
また、走塁面での「日本で言う『暴走』っていうのがオッケーで、チャンスがあればすぐ行く。そのぶん成功するとどんどん点が入りますし、かなりアグレッシブですね。タッチアウトも多いですが(笑)」という積極性も、知念投手にとって強く印象に残っているそうだ。
投球面では、小さなシュートやスプリットのような傾向のツーシームを使う投手が多いという。その動きの小ささゆえに「カメラ越しだとなかなかわからないと思います」とのことだが、今回の交流試合は様々な面で日本とは特色の異なる台湾野球を観察するチャンスにもなりそうだ。
日米の野球への憧れと探求心が、代表チームの強化にもつながっている
台湾リーグには全部で4つの球団があるが、王柏融選手の古巣でもあるLamigoモンキーズは千葉ロッテと頻繁に交流試合を行っていることもあってか、アップの方法なども日本のものに近いという。一方、統一は他の2球団と同じく、「ちょうど台湾らしい野球」をしているそうだ。日台の違いの一例として、知念投手は次のような話を聞かせてくれた。
「疲れていてもたくさん練習してその自信をプレーにぶつける、下手だから練習して技術を伸ばそうというのが日本の考えだと思います。一方、台湾では(体調面で)フレッシュな状態で、自分のベストが出る状況を作ろうというイメージがあります。そういう意味では(台湾は)米国的だと思います。特に統一はそうですね」
興味深い話題としては、阪神でも活躍した林威助(リン・ウェイツゥ)氏が、現在中信兄弟の二軍監督を務めていることが挙げられる。そのため、中信では二軍の練習は時間も長く日本的だが、一軍の首脳陣はほとんどが米国人であるため、一軍と二軍では方針が真逆なのだそうだ。それでもチームとしては着実に成長しており、「中信こそ(日本と米国が)融合してるような感じです」と、知念投手はそのグローバルな姿勢を高く評価していた。
陳傑憲選手が秋山選手と源田選手のプレーを参考にしているように、台湾では「日本の選手への憧れはかなりあると思います」と知念投手は語る。ロッカールームではNPBの試合が流されており、それを皆が常に観ているため、台湾人選手たちも「台湾読みでいいなら、ほとんどの(NPB)選手の名前はわかる」とのこと。また、日本の試合が行われていない時間帯にはMLBの試合が流されているため、「両方を見て、良いものだけを取り入れている」ようだ。
かつては国際試合でも日本が大きく優位に立っていたものの、先述の2018年11月の壮行試合では日本代表を相手に勝利を収めたということもあり、日米の良いものを取り入れていく姿勢が「成果に出てきていると思います」と知念投手は分析。「リーグの規模は全然違いますけど、国際大会で考えると、もしかしたら追いついてきてるのかな」と感じているという。
埼玉西武だけでなく、統一ライオンズにとっても今回の試合は貴重な経験に
統一が開幕前に日本のチームと試合を行うのは珍しいことであり、若手の多い遠征メンバーにとってこの経験は貴重な財産ともなりうる。同僚たちに今回の遠征で持ち帰ってきてほしいこととして、知念投手は次のように語っている。
「相手はパ・リーグ優勝チームですし、(同僚たちには埼玉西武の)丁寧さを見て欲しいですね。大雑把な部分も台湾のいいところだとは思いますが、ものすごく丁寧だと思うので。また、日本のピッチャーが投げるボールの質が(台湾とは)違うので、そこは体感してほしいですね。日本的に言うと『動かさない、伸ばす』感じなのですが、台湾のピッチャーは両方、沈めるピッチャーもいますから」
台湾は2019年11月に行われる「WBSCプレミア12」の開催地のひとつで、この大会では日本と同組に入るライバルでもある。近年目覚ましい進化を遂げつつある台湾野球に触れられる貴重な機会でもある今回の試合を、これまで挙げてきた観点から楽しんでみるのも一興ではないだろうか。
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