ドラフト会場には独特の雰囲気が漂っていた。
会場であるグランドプリンスホテル新高輪のロビーでは、多くの宿泊客や来場客がソワソワした様子を見せていた。関係者となった元プロ野球選手たちのサインを求めて待ち構えるファンの姿が、何かいつもとは違う雰囲気を作り出す。
実際のドラフト会場には限られた人達しか足を運ぶことが許されない。応募した多くの観覧希望者の中から見事抽選で当選した人々のみが訪れることができる場だ。平日の夕方という開催時間からかユニホーム姿のファンは少なく、ドラフトの受付列とすぐには分からないほどであった。受付を終えた後に、“勝負着”に着替えるのか、荷物は心なしか大きく見える。
受付を終えた観覧者は、DRAFT2017と明記された冠スポンサーのリポビタンDが3本、クリアファイル、抽選箱の形をしたティッシュボックス、そして週刊ベースボールとタイアップで発行されたプログラムが記念品として提供された。
取材に訪れたメディア関係者に混じって、ファンたちは階を上がっていく。そしてドラフト会場となるフロアに出ると、そこには12球団のフラッグがセ・パそれぞれに分かれてファンたちを出迎える。そのまま荷物検査を経て、すぐさま会場内に入ることができるが、その前にファンが向かうのは冠スポンサーリポビタンDが展開する「リポビタンD ZONE」。
入り口でサンプルのリポビタンDを1本飲むところから始まるこのエリア。冠スポンサーの権利を得たからには、その価値を最大限に活用してこそ意味がある。写真コーナーも多く設け、記憶にも記録にも残りやすいリポビタンDの仕掛けが多数存在した。長蛇の列の先には、「指名体験フォトコーナー」。パネルの前で好きな球団のユニホームを身にまとって、指名を受けることができる。MCがマイクで本番さながらに自分の名前をドラフト指名風に読み上げてくれる。
その先には指名を受けた学生の気持ちになって、胴上げシーンを写真に収めることができるコーナーまでも用意されていた。学ラン姿に着替えることもでき、号外新聞のような写真にも加工できる。
笑顔やワクワクが溢れるこのスペースからパーテーションを挟んだ隣に位置するのが、メディア関係者が集まる控え室だ。用意されているリポビタンDをグビっと飲み干して、これからやってくる嵐に備えている。担当球団が誰を指名するかによって、予定が大きく変わる。関東圏内の選手を指名すれば、そのまま関係者挨拶を取材するスケジュールが急に発生する可能性もある。パソコンを開いて指名を待ち構える200人以上の記者たちがぎっしりと埋め尽くすその会場は異様な雰囲気に包まれていた。
午後17時、ドラフト本番は静かに幕を開けた。いきなりの7球団競合。抽選の行方をみんなが見守る。そして北海道日本ハムファイターズが指名権を獲得した瞬間にどよめきが一瞬起こる。だが次の瞬間、カタカタとパソコンのキーボードをたたく音も響き渡る。各球団の1位指名が終わり、休憩に入るとメディアの大移動が始まる。12球団の監督がメディアに対し、最初の指名についての感想などを述べる囲み取材が行われるためだ。
そして運営側から各球団の指名選手のプロフィールが綴られた1枚の用紙がメディアに配布される。この用紙には選手のプロフィールだけでなく、在籍高・大学などの連絡先、そして担当スカウトまでが綴られている。記事を書き上げるために必要最低限の情報を球団が提供している。
取材するメディアの間では、「忙しくなるな」と揶揄される者もいるなど笑顔と苦笑いが入り乱れる。1球団の指名、そして抽選の勝ち負けによって多くのメディア関係者の仕事が大きく変わってくる。米国ではシーズン真っ最中の6月にドラフトが3日間行われ、40人の選手を各球団が指名する。即戦力として考えられる選手がほとんどないため、取り上げられ方もそこまで大きくはない。だが日本でドラフトされる選手達は来シーズンから戦力として計算される者も多くいる。そのため、取材する側も大忙しだ。
ドラフトの表では、応援するチームが誰を指名するのかと、一喜一憂するファンたちの姿がある。一方、その裏では担当する球団の指名によって仕事が大きく変わり、その対応に追われえる関係者が数多くいる。パーテーション一枚を挟んだドラフト会場の表と裏、それぞれ異なる空気を感じた、そんな一日となった。
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