「プロ野球界を代表している」という意識を胸に
「LEADS TO THE OCEAN(以下LTO活動)」という活動をご存じだろうか。「日本財団」と「NPO法人海さくら」を中心に、Jリーグの湘南ベルマーレと共に2015年7月から始まったこの活動は、スポーツと清掃活動を軸にしたアプローチで環境問題へと取り組むことをコンセプトとしている。現在は、Jリーグの9つのクラブとBリーグの1チーム、そして千葉ロッテの全11チームで活動を行っている。
LTO活動へ参加した理由について、千葉ロッテで当活動を担当する営業部の大石賢央氏は「『海にゴミを行かせない』というテーマに共感しました」ということに加え、「本拠地のZOZOマリンスタジアムの横には海がありますので、海が見える野球場を持つ我々が取り組むことに意義がある」と説明してくれた。
プロ野球で唯一活動している立場として、大石氏は「プロ野球界を代表しているということは意識をしなければならないと思っています」と話し、活動の意義について次のように語った。
「海のゴミの8割は川から、川のゴミは街からやってきます。そして、街のゴミは人々の心が出しています。その結果、海にゴミがたまって、海洋資源や鳥などが影響を受けています。ゴミを減らすには心がけ次第だと思っていますので、それを理解していただくという、この取り組み自体の意義というものを大事にしています」
29歳の若さで引退した、元千葉ロッテの投手もスタッフとして参加
LTO活動に従事するスタッフの中には、元プロ選手も存在している。現役時代に千葉ロッテで投手として活躍し、現在は古巣の球団職員を努めている上野大樹氏だ。
上野氏は2011年7月17日に先発として完封勝利を収め、2013年からの2シーズンで中継ぎとして73試合に登板した実績を持つ。しかし、わずか2試合の登板にとどまった2015年のオフに戦力外通告を受け引退。当時29歳と余力を残しての幕引きにも思えたが、上野氏自身は「やりきった」という感覚を持っていたようだ。
「トライアウトまで受けさせていただいて、球団の方に拾っていただいて……。自分の中では、やりきったという気持ちは本当にありました。現役時代からいつかは終わりが来ることで、その時に悔いなく終われるように、と思ってずっとやっていました」
営業という立場から見た、「元プロ野球選手」という経験のメリットとは
引退後は2年間にわたってマリーンズ・ベースボール・アカデミーのテクニカルコーチとして小学生たちを指導し、18年からは球団職員に転身。現在は「おもてなし担当」と名乗り、先述のLTO活動や球団のおもてなしプロジェクトに取り組んでいる。上野氏と同様に千葉ロッテ一筋の現役生活を送り、2017年限りで現役を引退した古谷拓哉氏と黒沢翔太氏も昨年から球団職員へと転身しており、上野氏とは形を変えて再び”同僚”となった。
「元選手が球団職員になるっていうのは(千葉ロッテでは)ずっとなかったことで、山室社長が初めてセカンドキャリアの道を開いてくださいました。(古谷氏、黒沢氏は)球団職員としては同期なので、『今後、僕たちのような元選手からの道を閉ざさないようにもっと頑張っていかないといけないよね』と3人でよく話しています」
こういった転身のメリットについて、大石氏は「元選手だからこそ持っている武器」について、営業の立場から次のように語っている。
「例えば、営業でお客様の元に行ったときに、『元選手』という肩書きは非常に強い武器だと思います。ひとつのことを徹底的にやり抜いた経験はビジネスにも通じる部分があるので、どこの企業も欲しいと思います。そんな方々が去年、3人も入ってくださったのはすごい力になりますよね」
マリーンズのために投げ続けた経験は、職員となった今も大きな武器に
上野氏が持つその「武器」は、既に球団職員としての活動にも活かされているようだ。
「ZOZOマリンでプレーしていたので、嬉しいことに僕のことを知っている方がすごく多いんです。『あの上野かな?』と思ってくださっている方もいるので、僕のほうから声をかけて距離を縮めて、LTO活動やイベントに参加してもらいたいと思っています。もっと僕からお客様に寄り添っていき、身近な存在でありたいです」
12月9日に湘南で行われたLTO活動の合同イベント「LTO WINTER EVENT2018」では上野氏がキャッチボールを行う機会もあり、「直前に言われたのでとてもびっくりしたのと、現役を離れて数年経っていたので、ちょっと不安はありました」と当時の心境を振り返りながらも、次のように話してくれた。
「子どもたちも多かったので、軽く投げただけでもみんな『おおっ』っていう反応をしてくれました。数分間だけでしたが、少しは楽しんでもらえたのかなと。サッカーやバスケットボールのファンの方もいましたので、少しでも野球の魅力が伝えられたと思います。そのような、野球振興もどんどんしていければなと感じました」
活動の知名度を増やし、「10年以上続けていけるようなイベント」に
LTO活動の今後の課題として、大石氏は「告知が足りなかった」という点を挙げ、ほぼ上野氏のTwitterに頼っていた部分があると分析。「1年間実施してある程度課題が見えたので、1つ1つつぶしながら参加する人を増やしていきたいです」とした。
大石氏は「この活動を通じて参加した皆さんの意識が変わり、スタジアムだけではなく街の中でもゴミを出さなくなれば、よりよい社会になっていくと思います」と話し、「2年、3年、10年以上と続けていけるようなイベントにしたい」という今後の展望を語っていた。
最後に、上野氏に今季の目標について尋ねてみると、次のような答えが返ってきた。
「勝ち負けに関係なく全試合観戦に来られる方もいれば、この試合しか見に来られない人もいるかもしれません。どんなに点差が離れた、負けている試合であっても、そういうことを常に考えてマウンドに立っていたので、その気持ちは球団職員になってからも持ち続けようと心に決めています。その時のチームの雰囲気にかかわらず、お客様の心に何かを残す1日にできるように、LTO活動も含めて、今年もひとりでも多くのお客様に楽しい思い出を作っていただけるような活動、仕事をしていきたいなと思っております」
海と関わりの深い球団として、「海にゴミは行かせない」という活動理念を胸に、社会貢献活動に加わっている千葉ロッテ。その一翼を担う上野氏は、新たな立場となった今も、マリーンズのために現役時代と変わらぬ”全力投球”を続けている。
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