【侍ジャパン】小久保裕紀元監督が“脱スモールベースボール”のススメ 国際大会は「意外に盗塁できない」

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2023.3.1(水) 06:00

侍ジャパン・栗山英樹監督(右)と談笑する侍ジャパン元監督のソフトバンク・小久保裕紀2軍監督

 2017年の第4回WBCで侍ジャパンの監督を務めたソフトバンク・小久保裕紀2軍監督(51)が28日、前回大会の振り返りから栗山ジャパンへの教訓を伝授した。大谷翔平(日本ハム、現エンゼルス)の辞退で作戦面の再考もあったが、日本伝統の機動力ではなく、長打力を遺憾なく発揮。世界で戦うためのヒントとエールを送った。(取材・構成=中村 晃大)

 小久保ジャパンは大会前からアクシデントに襲われていた。メジャー組の参加は青木宣親(アストロズ、現ヤクルト)だけ。負傷者、辞退者も続出し、構想の練り直しが迫られた。

 「直前で嶋(基宏)が出られなくなったり、大谷翔平が故障だったということもあって波乱ばっかりでしたよ。初戦の先発を翔平で考えてたんですけど、(2月に各球団の)キャンプ巡りをしている時の車で(辞退するという)ニュースが入ってきて。中心で考えていた選手がいなくなるのは、計算外でしたね」

 だが、“けがの功名”と言えることもあった。大谷の不在で「第3捕手」と見られていた小林誠司(巨人)が正捕手に“昇格”。大会打率4割5分と暴れ回った。

 「翔平の時は大野(奨太)、智之(菅野)の時は小林と正捕手を1人に決めず、投手で使い分ける戦術だったんですけど、村田(善則バッテリーコーチ)から『大谷がいないなら、初戦から小林で良くないですか?』と。それで決めたことは(9番打者・小林には)走者が一塁にいたら無死だろうが1死だろうが犠打をさせる。1番の山田につなぐということに徹しました。そしたら思わぬところでタイムリーを打ったり、大活躍してくれて。同点で(小林に)代打・内川(聖一)と勝負【注1】をかけた時は野村(克也)さんに『俺はこんなことできない』とハッキリ言われたくらいですから」

 1次ラウンド(R)を代表史上初の3連勝で1位突破。2次Rでも初戦でオランダとの激闘を制し、6戦全勝で米国に乗り込んだ。

 「プレミア12の反省【注2】が紙一重の戦いを切り抜けられた要因だったかなと思います。負けてから2年半、『史上最弱JAPAN』とか、バッシング続きだったんですけど、負けない限りは最後の1イニングを勝ち切る難しさは学ばなかったんで。WBC前の最後に日本のチームとの練習試合で負けたりして、選手たちも不安がっていたんですけど、言いたいやつには言わせとけと。本番はこれからだと話してました。東京(ラウンド)で負けてたら、野球の世界には戻らなかったと思います。そのぐらい覚悟は決めてたんで」

 準決勝の米国戦は6回に菊池(涼介=広島)の同点ソロで一度は追いついたが、1―2で敗退。惜しくも頂点に手は届かなかった。その中で見えてきたのは日本らしい機動力は使えず、逆に長打力では負けない―。そんな意外な発見もあった。

 「(大会が)始まる前はスモールベースボール(をするのか)みたいな、そういう質問が多かったんですよね。僕は代表監督を3年半ぐらいやらせてもらいましたけど、もっと簡単に盗塁ができて、ランナー二塁の状況をつくれると思ってました。でも、国際大会はルールが全然違う。(投手のセットポジションが)完全停止じゃないし、左投手でも、誰が見てもボークでしょっていうのも取られない。意外に盗塁ができません。結果的にWBCは長打で勝ちましたよね。効果的なホームラン。オーストラリア戦の中田(翔)の決勝ソロもそうですし、キューバ戦の山田(哲人)も、イスラエル戦の筒香(嘉智)のホームランもそうですし【注3】。東京ドームが本拠地ということもあるんで。今回もメンバーを見たら、長打を打てる選手がそろってるわけですから」

 国際大会の難しさは何も目に見えるところには限らない。審判も人間。まずは印象を良くすることも重要な作戦の一つだ。

 「審判を味方につける作業はした方がいいと思います。僕は城島(健司)からアドバイスをもらっていて、捕手陣には必ずストライク、ボールの判定で不服そうな姿を出すなと。癖で出てしまうんで、何年か前から、ボールと言われても平気で投手に返球できるように訓練するという話もしてましたんで。あと、走者がいない時はワンバウンドでも止めないですよね。でも、向こうの審判は怒るんで。走者がいない時でもしっかり止めようとか、細かいところもやらせてましたよね」

 現代野球で重要視される必勝リレー。第2先発は置かず、先発以外は救援が専門職の投手で固めたが、守護神の名前は戦略的に最後まで隠し通した。

 「僕と権藤さんの中では決めてたんですけど、抑えはあえて公表しませんでした。大魔神(佐々木主浩)さんとか岩瀬(仁紀)、球児(藤川)や上原(浩治)とかね。彼で打たれたらしょうがないと言われるぐらいの選手だったら、名前を出しても重圧はないでしょうけど、松井(裕樹)にしても牧田(和久)にしても、『日本のクローザー』だと挙げることによって押しつぶされるんじゃないかという親心的なところもありました。内々では牧田を抑えでいこうとしてましたけどね。今回も抑えは公表してないですもんね。そんな簡単にはできないと思います」

 大谷、ダルビッシュ有(パドレス)らが集結する今大会。小久保元監督も栗山英樹監督率いる侍ジャパンの戦いを心待ちにしている。

 「純粋に見てみたいと僕も思うんで。そのぐらい豪華なメンバーが集まったドリームチーム。世界一以外は許されない、とんでもない重圧の中で始まるんだろうなと思いますけど、日本国民を勇気づけ、湧かせてくださいと。アドバイスというよりはエールですね」

 ◆2017年のWBC 2大会ぶりの優勝を狙った日本は1次RをWBCでは代表史上初の3連勝で突破し、2次Rもオランダとの激闘を制して3連勝。6戦全勝でアメリカに乗り込んだが、準決勝で米国に1―2と惜敗した。決勝はその米国がプエルトリコを8―0で破り、悲願の初優勝を果たした。

【注1】2次Rのキューバ戦(東京D)は5―5で8回へ。1死一、三塁からこの試合で2安打の小林に代え、小久保監督は代打・内川を起用。決勝の右犠飛を放ち、山田の2ランと合わせて3点を勝ち越した。

【注2】初開催だった15年のプレミア12。準決勝の韓国戦(東京D)は先発の大谷が7回1安打無失点。8回は則本昂大が3人で抑え、3点リードの9回も続投したが、3連打で1点を失うと松井裕、増井浩俊も流れを止められず。一挙4失点で逆転負けを喫した。

【注3】1次Rのオーストラリア戦(東京D)では1―1の7回に中田が決勝ソロ。2次Rに進み、キューバ戦(同)では山田が先頭打者弾を含む2発、イスラエル戦(同)では筒香が6回先頭で先制ソロを打ち込んだ。日本代表は全7試合で一発が生まれ、計11本塁打。個人最多は筒香、中田の3本。

 ◆小久保 裕紀(こくぼ・ひろき)1971年10月8日、和歌山市生まれ。51歳。星林高(和歌山)から青学大を経て93年ドラフト2位(逆指名)でダイエー(現ソフトバンク)入団。95年に本塁打王、97年に打点王。03年オフに巨人にトレード移籍し、FA移籍で07年から古巣に復帰。12年限りで現役引退。通算2057試合で打率2割7分3厘、413本塁打、1304打点。青学大時代の92年にバルセロナ五輪で銅メダル、13~17年に侍ジャパン監督。21年にソフトバンクのヘッドコーチ就任。22年から2軍監督。181センチ、86キロ。右投右打。

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