ロッテ、“1つ先の塁”を狙う走塁意識の高さ 井口監督が指揮を執った5年でチーム全体に浸透

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2022.10.4(火) 11:00

10回ロッテ一死三塁、角中の二犠飛で三走高部が生還 (C) Kyodo News

◆ 2年連続でリーグトップのチーム盗塁

 ロッテの井口資仁監督が2日に辞任したが、17年10月の就任会見で掲げた“機動力野球”は、この5年間で確実にチーム全体に浸透した。

 井口監督は17年10月に行われた就任会見で、「走れる選手が非常に多いと思っていますので、もっともっと足を使った野球をやっていきたい。足に関しては好不調というのはないので、もう少し機動力を使った野球を増やせていけば、持ち味が発揮できるのではないかと思います」と宣言。

 当時のロッテには足の速い選手はいたが、14年からチーム盗塁数は3年連続リーグ5位、17年はリーグ3位の78盗塁だった。井口監督が就任した1年目はリーグ2位のチーム盗塁数124、ホームランラグーンを設置した19年はリーグ4位の75盗塁と減少したが、20年以降は20年がリーグ3位の87盗塁、21年(107盗塁)と22年(132盗塁)は2年連続でチーム盗塁数が100を超え、リーグトップとなり、21年は荻野貴司と和田康士朗、22年は髙部瑛斗が盗塁王に輝いた。

 スタメンでは荻野、髙部、中村奨吾、ベンチには足のスペシャリスト和田、岡大海が控えるなど、とにかく走れる選手が増え、21年と22年は二桁盗塁をマークした選手がチーム内に5人いた。

▼ 21年22年に二桁盗塁をマークした選手
21年:荻野(24盗塁)、和田(24盗塁)、中村奨(12盗塁)、岡(11盗塁)、藤岡(10盗塁)
22年:髙部(44盗塁)、荻野(15盗塁)、中村奨(15盗塁)、岡(12盗塁)、和田(11盗塁)

◆ 1つ先の塁を狙う積極走塁

 “盗塁”だけでなく得点を挙げるためには相手の守備のミス、相手の隙を突いて1本の安打で俊足を飛ばして一塁走者や二塁走者などがホームへ還ってきたり、浅い外野へのヒットも相手の守備の動きを見て打者走者が一気に二塁へ陥れるなど、高い“走塁力”が得点に繋がることもある。

 井口監督が就任した2018年以降、1本の安打で1つ先の塁を狙う積極的な走塁がチーム内で徹底され、“1つ先の塁”を狙うことが当たり前のような感覚になってきている印象を受けた。シーズン後半ショートのレギュラーで出場することの多かった茶谷健太は「(1つ先の塁を狙う走塁を)意識していたというより、チーム全体でやっています。みんな一緒だと思います」とコメントした。

 今季は、相手選手の“捕球体勢”を見て内野フライでも三塁から生還するというシーンが何度かあった。5月8日のソフトバンク戦、3-8の6回一死一、三塁でレアードの打球はショートとレフトの間のフライとなり、ショートが後ろ向きでキャッチしているのを見て三塁走者の菅野剛士が生還。

 7月9日のオリックス戦でも0-2の4回無死一、三塁で安田尚憲が三遊間後方に放ったフライをショートがランニングキャッチし、捕球体勢が悪かったのを見て三塁走者の髙部がホームインした。

 9月23日のソフトバンク戦では、5-3の10回一死三塁で角中勝也の二飛で、前進守備で前目に守っていた二塁手が背走しながらキャッチ。捕球体勢を見て、三塁走者の髙部がスタートを切りホームイン。

 髙部は6月に行ったオンライン取材で「(1つ先の塁を狙う意識は)もちろんしています。簡単にヒットが出るものではないと思うので、なんとか走塁で1点取れたら強いと思います。全力でいくことで生まれる1点もある。そこは井口監督が大切にしている部分。僕たちも期待に応えられるようにと思ってやっています」と話した。

 相手のミスを見逃さず、次の塁を狙い得点に繋げることも多かった。5月24日の広島戦では6-0の9回無死一塁、エチェバリアの打席中に岡が二塁盗塁を試みると、捕手が後逸。その間に一気に三塁を陥れる好走塁と好判断(記録は二塁盗塁、捕逸の間に三塁進塁)。岡は小川の犠飛でホームインし、ちなみに無安打での得点だった。

 岡は「1つ先というのは常に狙っていますし、向こうの送球、少しの隙、小さなミスを見逃さないようにそこを突かれたら向こうもダメージがありますし、勢いがつく走塁だと思うので、そういうのは大事にしています」と口にした。

 5月26日の広島戦では、佐藤都志也が0-1の2回無死走者なしの打席、一塁へ強烈なゴロを放ち、一塁・マクブルームがファンブルしている間に全力疾走し一塁セーフを勝ち取り(記録は一失)、続くレアードが逆転2ランに繋げたこともあった。

 佐藤は走塁について「ファームのときからワンバウンドゴーというのは徹底されていますし、タッチアップでも浅いフライ、風が強い日、捕る体勢が不安定なときにある程度、足があるということが自分のなかでもある。1つ先の塁を狙えるようにと思ってやっています」と常に1つ先の塁を意識した走塁が内野安打を勝ち取ったといえる。


◆ ファームでも根付く走塁意識

 茶谷や佐藤が話したように、“1つ先の塁を狙う”意識は一軍だけでなく、ファームでも徹底されている。育成選手の村山亮介は4月に行ったオンライン取材で、「打球判断と第二リードをしっかり大きくとるということを徹底してやっています」と話しており、走塁練習に注目してみると、大きくリードを取り、打撃練習中の谷川唯人が放った打球にあわせて、試合を想定して全力でスタートを切ったり戻ったりしていた。

 4月8日の楽天との二軍戦では、1-2の3回一死一、二塁で西巻賢二の一塁後方のファウルフライで一塁手の捕球体勢を見て、二塁から三塁へタッチアップということもあった。4月に行ったオンライン取材で「千葉ロッテに入団してから走塁の練習もかなり増えて、そういう意識も自分のなかですごく芽生えているんじゃないかなと思っています。日頃の練習が試合にいきているんだとおもいます」と、日々の積み重ねが成果として現れた瞬間だった。


◆ 足が遅い選手も先の塁へ

 チーム全体で次の塁を狙う走塁が徹底されていることで、足が速いとはいえない選手たちも、積極的に次の塁を狙っているのがロッテの武器だ。

 井上は「足が遅いというところはあるんですけど、それは多分盗塁だけだと思う」と話す。「走塁というのは相手の隙というか動き次第でなんとでもなる。走塁ではみんなと一緒にできるように自分で心がけています。あいつ無理か、いけないかではなくて、いってみてトライというのはまだまだやっています」と、8月26日の楽天戦、1-0の8回二死一塁で安田が左中間に放った安打で、一気に一塁から生還した走塁は見事だった。

 安田は7月6日の日本ハム戦、1-2の4回無死二、三塁から井上の右犠飛で三塁走者に続き二塁から三塁にタッチアップ。佐藤の中犠飛で勝ち越しのホームを踏んだ。

 安田は「自分は足が速くないので、できることは限られているんですけど、そのなかで最大限努力していきたいと思っています」と話した結果が、7月6日の日本ハム戦のような走塁に繋がったといえそうだ。
 
 井口監督が指揮した5年間は四死球で出塁し、犠打で走者を進め、1本の安打で生還すると、打てない、点がなかなか取れないなかで、選手一人一人の走塁への意識の高さでなんとか1点をもぎとってきた。見ているファンからしたら一発長打が少なく、足を絡めた攻撃で地味に映ったかもしれない。

 またチームとしてはマーティン、レアードといった外国人選手に依存していた“長打力”という課題はある。山口が今季チームトップの16本塁打を放ち、安田も8・9月の2カ月で7本のアーチを描くなど、シーズン自己最多の9本塁打と長打の打てる若手も育ってきた。井口監督の時に磨いた“足を絡めた攻撃”に加え、新監督のもと時に本塁打も出る打線になれば、確実に今よりも得点力がアップするはずだ。この5年間取り組んだ“高い走塁への意識”が無駄ではなかったことを、新監督のもとで得点という形で証明してほしい。

取材・文=岩下雄太

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