「応援のプロ」ジントシオ氏にとって「幸せな瞬間」とは…初の著書「野球と応援スタイル大研究読本」を出版
スポーツ報知
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2022.9.12(月) 16:00
ロッテの応援団長や楽天の応援プロデューサーを務めるなど、広くスポーツ界で「応援のプロ」として知られる作曲家のジントシオ氏(42)がこのほど初の著書「野球と応援スタイル大研究読本」(カンゼン・税抜き1600円)を上梓した。応援の魅力と素晴らしさを掘り下げ、自身の応援哲学が記された一冊。208ページに込められた思いを聞いた。(加藤弘士)
ジン氏は言わずと知れた「応援のカリスマ」である。ロッテや楽天の応援を通じて数多くの名曲を世に放ち、スタジアムに熱狂をもたらしてきた。現在ではプロ野球という枠組みを超え、JリーグやBリーグなど他競技にも応援曲を提供。活躍の場を広げている。
「応援、好きですからね…。好きだからこそ、ああしよう、こうしようと発想が出てくるし、どんどん上達していったと思うんです。応援には確かにゴールはありませんが、そこには技術があり、センスが問われ、経験が必要とされます。応援団の人はこんな気持ちでやっていますと、多くの人に知ってほしいと思って、これまでのいろんな活動をまとめてみました。手引き書、入門書としても最適だと思っています」
応援で最も幸せを感じる瞬間は、どんな時だろうか。
「チャンステーマがうまくハマって、いろんな偶然が重なり、試合と応援がリンクした時ですね。押せ押せのチャンステーマが流れて、打線がつながっていく。自分が指揮をしている時、後押しする流れが少しでも作れたかなって思える時が、応援の楽しみであり、醍醐味でしょうね」
本書では、ロッテの伊志嶺翔大(現1軍走塁兼打撃コーチ補佐兼外野守備コーチ補佐)がファン感謝デー内の引退挨拶で、こう語ったエピソードがつづられている。「私の応援歌をお披露目する会が球場正面ステージで行われたことがありました。そこで皆さんと初めて自分の応援歌を聴くことが出来て、『本当に千葉ロッテの一員になれたんだ』と実感して、とても感動したことを今でも鮮明に覚えています。その応援歌が一番大好きでした」-。
伊志嶺の応援歌は、ジン氏にとっても思い入れが強いという。
「沖縄出身ということで、沖縄の言葉やかけ声、音階を使ったんですが、ここから他球団の沖縄出身者の応援歌にも広がっていったんですよね。真似されるのはうれしいです。認められている証拠なんで。影響を与えられるのは、すごくいいこと。引退に際して応援歌について言及してくれたのは、応援する側にとって最高の勲章になりましたね」
応援に対する考え方に影響を及ぼした人物として、ジン氏は演出家の蜷川幸雄氏を挙げる。2010年にロッテの応援団長に就任する前、蜷川氏の舞台に末端のスタッフとして関わる機会があり、究極のエンターテインメントを目指して妥協なくファンを意識する姿勢が大事だと、肝に銘じたという。
「舞台上の細部にまで気を使う方でした。自分も『応援したい』というだけでなく、ファンと選手が一体化する企画を考えたいな、演出したいなと思うようになりました。今だから言いますが、2010年の下剋上の時、福岡と名古屋の外野応援席の前で、選手が肩を組んでファンと一緒に歌う感動的なシーン…あれは事前に『選手の皆さんもやって下さい』と球団を通じてお願いして、やってもらったんです。こういったストーリーを作るのも、演出だと思っています」
活動の領域はプロ野球を超え、アマチュア野球にも及ぶ。中でも2017年、夏の甲子園に初出場した早稲田佐賀のチャンステーマ「チャンス早稲田佐賀」は名曲として知られる。
「甲子園に出場が決まってから、早稲田佐賀さんから『ロッテ時代の応援歌を使いたい』とリクエストが来たんです。せっかくですから『オリジナルの応援歌を作ろう』と話をして、制作することになりました。
歌詞には2つのキラーフレーズがある。「最高の夏にしようぜ」と「勝たんと唐津に帰れんけん」。部外者の私でも聞くたびに胸が熱くなり、涙してしまう。日本応援史に残る名フレーズと感じる。
「一番音程が高いところに一番言いたいフレーズを入れるのが大事だと思って、参考にしたのがアメリカ合衆国の国歌『星条旗』です。一番高いところに『Free』が来るんですよ。『自由』が至高の言葉だからでしょう。だから『最高の夏にしようぜ』をそこに入れました。完成して、走者が二塁に行ったら演奏しようと決めたんです。そしたら…」
初戦はエース・戸郷翔征(現巨人)を擁する聖心ウルスラ学園(宮崎)。なかなかランナーを二塁に進めることができない。初めて演奏されたのは5回裏だった。溜めに溜めた分、熱狂が爆発した。
「試合には負けちゃったんですが、選手たちや生徒のみなさんが本当に喜んでくれた。本当にうれしかったですよ。ゲーム『パワプロ2022』にも採用されました。最高の栄誉だと思います」
そして現在、ジン氏のフィールドはさらに広がりを見せている。千葉のラジオ局、bayfmの番組「it!!」のジングルも制作した。今後の夢について尋ねると、こう語った。
「作曲の仕事をしている以上、大ヒット曲を作りたいというのが目標です。そして新しいスポーツ、新しくできたチームを、応援のプロとしてプロデュースしたいという思いはありますね。応援はスポーツファンにとって、重要なコンテンツですから」
頑張っている人の背中をさらに押す、ジン氏の魔法のようなメロディー。これからも魂を揺さぶる「みんなのうた」を生み出し、人々の心を熱くしていくことだろう。
◆ジントシオ 1980年5月18日、東京都出身。中1で日本ハムの応援団員となり、14歳で選手応援曲を手がける。その後、高校入学後はロッテの応援団員として楽曲制作に尽力。高校卒業後、活動の場を韓国へ移す。スカバンド「Lazy Bone」のトランペットとしてプロミュージシャンとして活躍。02年に帰国後、04年までロッテの応援活動。一時応援の世界から離れるも10年にロッテ応援団長に就任(15年まで)。18年から21年まで楽天の応援プロデューサーとして活動。21年にはロケットミュージックより吹奏楽用譜面「ジントシオ作品集vol.1,2」を発売した。
◆9・19に福岡でトークライブ
福岡のシェア型本屋「ブックスアパート・ベリー」のオープンを記念して、ジン氏のトークライブが9月19日の午後2時から福岡クリエイティブビジネスセンター(FCBC)01スタジオで行われる。ジン氏の応援哲学にホークス大好きのラジオパーソナリティー・「カト淳」こと加藤淳也氏が切り込んでいく。さらにはロッテのイベントMCでも人気を博した庄司こなつさんのゲスト参加も決定。当日は野球愛と読書愛にあふれる熱トークが展開されそうだ。詳細は「ブックスアパート・ベリー」のホームページまで。
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