第100回全国高等学校野球選手権記念大会が閉幕した。今年も甲子園で高校野球の頂点を巡る戦いから、多くの新たな物語が紡がれている。夢見た舞台へ辿り着くために、球児たちはどれだけの鍛錬、挑戦、葛藤を積み重ねているのだろうか。現役プロ野球選手の高校時代を振り返る連載第9回は、若くから正捕手の座を射止めた田村龍弘選手(千葉ロッテ)。小柄な体格を生かすような、素早いスローイングや軽快なフットワークはプロでも指折りのレベルとして数えられる。リーグを代表するキャッチャーたらしめているのは、抜け目のないプレーの根底にある思考力だ。
冴える野球脳をプレーへと連動させる能力
光星学院高校2年の夏から3季連続で甲子園準優勝を果たしたチームの看板選手だった。3年時は中学時代から大阪の狭山ボーイズでチームメイトだった北条史也選手(現阪神)と3、4番も組んだ。ポジションについては1年時はレフト、2年時は全国高等学校野球選手権大会でもサードを守ったが、これは打撃を優先した結果。中学時代にキャッチャー経験はあったが、本格的に捕手となった2年秋以降に田村選手の魅力はひと際輝きを増した。
ただ、攻守で目覚ましい活躍を見せた甲子園での大会が終わり、秋のドラフト前には青森県八戸市にある光星学院高校の練習グラウンドを訪ねると、田村選手は後輩に混じり、セカンドやサードでシートノックを受けていた。左手にはキャッチャーミットではなく内野手用のグラブ。実はドラフト候補となった田村選手に対し、スカウト陣からはこんな評価も聞こえていた。「あの体ではプロのレギュラーはきつい。長いシーズンもたない」。「内野で使えるなら2番手野手くらいになる可能性はあるが…」。
3年夏の資料を見ると173センチ、77キロ。スカウトの中には今もこのサイズを明確な基準として持っている人がいるが、3年春夏の甲子園を見終えた時、僕は「捕手・田村」以外に考えられなかった。強さと素早さを備えたスローイング、視野の広さを感じさせる1、3塁への牽制。そして何より、田村選手の優れた野球脳の一端に触れることができ...