台湾プロ野球前期優勝の「功労者」、楽天モンキーズ・古久保健二ヘッドコーチインタビュー

パ・リーグ インサイト

2022.7.31(日) 07:00

古久保健二ヘッドコーチ(C)CPBL
古久保健二ヘッドコーチ(C)CPBL

 前回の記事で紹介したように、今年の台湾プロ野球の前期シーズンは、楽天モンキーズが優勝した。そして楽天初の半期優勝を支えた一人が、現役時代、近鉄、大阪近鉄バファローズで捕手として実働18年、コーチとしても日本、韓国、台湾球界で20年以上の指導歴をもつ古久保健二一軍ヘッドコーチだ。台湾球界では、2019年から昨季まで富邦ガーディアンズで一軍バッテリーコーチを務め、今季は楽天モンキーズの川田喜則・副董事長から直々に招聘を受け一軍ヘッドコーチに就任した。今回は、古久保ヘッドコーチのインタビューをたっぷりご紹介しよう。

――前期シーズン優勝、おめでとうございます!

ありがとうございます。

――開幕ダッシュに成功も、クラスター発生で苦しい時期もあったと思いますが、今の正直なお気持ちをお聞かせください。

 調子の上がらないチーム、ケガ人の多いチーム、コロナで戦力が整わなかったチーム、ほとんどがそういうチームで、各チームに影響があった。幸いにも楽天はそれほど大きな影響がなく、早めに戦力が元に戻っていった。しかも、最初の部分で貯金があったっていうところでは、比較的優位に立てるかなっていう感じはしていたんですけれども。ただ、そこまで差を広げていて、ここでひっくり返されたらっていうプレッシャーは途中から感じていましたけどね。だけど、普通に選手が力を発揮してくれれば、簡単に負けるチームではないんで。それは3年間外から見ていて、やはり打力がある、選手個々の能力が非常に高いな、という風にはずっと感じていたんで。

――富邦時代と、実際に中に入られてからで、モンキーズに対する印象に違いはありましたか。キャンプの時点でここを強化したらもっと勝てるチームになる、という手応えはございましたか。

 雑というか、軽率というかね、一つ一つのプレーのつながりを改善すれば、もっとスムーズに試合が流れていくんだろうなっていう思いがありました。選手には、細かいことの積み重ねを大事にしていこうと。それは守備面においては、丁寧にボールを扱うということを常々注意してたし、基本に戻れというか、例えば、ただ全力で走る、当たり前のことを当たり前にしよう、ということをずっと言い続けていました。

――曾豪駒・監督も、日本人指導者の貢献が大きかったと口にされていました。また統一の林岳平・監督も、作戦に合わせた守備陣系など戦術面の変化を指摘していました。ヘッドコーチとして、チームにどのような意識付けや、新たな戦術を加えられましたか。

 作戦においては、より成功する確率の場面でサインを出していく考えはあるんですよね。奇襲とかそういうのはないです。正攻法なんですよね。だけどそれは、相手の投球パターンであったりとか、このカウントだったらこういう球が来るとか、ストライクが来るとかいうのをある程度はめ込んでいって、その作戦に繋げていく。それを実行して、成功してもらえる選手の技量っていうのもあるんですけど、この作戦はこういうふうにするんだってことを、選手が明確に理解してくれているのは、助かってるところですね

――前期は投手陣は先発、ブルペンとも安定、野手陣も、本来のクリーンアップこそ不振だったものの、伏兵が奮闘し、盛り上げた印象があります。優勝のキーマンを挙げるとすると、誰でしょうか。

 やっぱりチームを引っ張っていってくれた林立だとは思いますけどね。投手陣でいうと、やっぱりズーポン(黄子鵬)。先発ローテーションで、まして外国人だったらわかるんですけれども、きっちりローテーションを守ってくれ、なおかつ長いイニングを投げてもらえる。しかも、勝ち星でつなげてくれる。野手では林立に引っ張られる形で、成晉、チェンウェイ(陳晨威)。予想外に真ん中の3人が調子がいまいちで、でもそれ以外の6人が想像以上にやってくれたんで、そこだけで点取れる。ただ、真ん中の3人も目立つような成績ではなかったんですけれども、ここは1点欲しいとかいうようなところにおいてはそれなりのバッティングをしてくれるんでね。

 あとはもう、それで1点取れたら、また6番バッターからチャンスが広がっていって、1番に行ったらもう大量得点になるという。そういう面では、林立をはじめ他の6人の野手は本当に頑張ったと思いますね。

――捕手では、プロ入り後は苦しい時期も長かった張閔勛、そして終盤は嚴宏鈞が支えました。彼らの貢献も大きかったですかね。

 やはりバッターをよく見ていますよね、2人とも。だから失点も少ない。もう本当にバッテリーを中心に頑張ってくれたなと思うんですよ。非常に勉強していて、ピッチャーとのコミュニケーションをしっかり取ってくれるということ。閔勛は現時点では送球面の不安というのはあるんですけれども、そこは改善しつつあり、あとは本人がどう乗り切っていくか。宏鈞については本当に一番大事な最後の1週間頑張ってくれて、ぱっとベンチから見ていたら本当に大ベテラン、もう3000試合ぐらいかぶってんのちゃうか、というような雰囲気を醸し出してくれていました。キャンプ中から送球はピカイチ安定していました。でも、やっぱりポジションが一つしかないんでね、閔勛が出てる間に準備をしっかりしてくれていたなっていう、そこに感謝ですね。

 シャオパン(林泓育)も練習ですごく良くなってきているんで、そんな続けてはいかないけど、やっぱり戦力上、彼がキャッチャーしたときの方が打線に厚みが出るっていうのは当然あるんで、何試合出るかわかりませんけれど、彼も含めて3人回していけたら。

――古久保コーチは、よくチーム内外の関係者から「伝統的な日本人指導者とは少し異なる」という見方をされています。この点については、どのようにお感じになっていますか。

 この点については、やっぱり時代も流れていくわけで、台湾プロ野球は33年目でまだ歴史が浅い。33年前というと僕らもまだ現役の頃で、そのときの大先輩方、僕らが入団したときの練習方法っていうのは、本当に昭和の練習法だったと思うんですよ。『根性や』とか『千本ノックや』とか、それはその時代で、もう今はそういう練習方法は日本でもほとんどやらない。

 だけど、台湾のプロ野球が始まった当初、日本からこちらに来られた先輩方っていうのはそういう教え方をやっていて、こちらはそれについていった。やっぱり時代の流れとともに、練習方法も変われば考え方も違う、いろいろな知識も入ってくる。だから、厳しく上から押さえ込むんじゃなくて、選手からの意見を吸い上げていく。そういうことは一番僕は注意しているんですよ。頭ごなしに自分の意見を通さない。

――7月22日からは後期シーズンが始まります、後期シーズン、そしてシーズンの目標をお聞かせください。

 もちろん優勝ですね。それはもう優勝した土曜日(7月10日)の試合が終わって、次の日から『もう後期が始まってるんだ』と選手に言っているんです。一つの目標は達成した。じゃあ次の目標に向かってもう頑張ろうと。スタートしてますんで。

――古久保コーチが感じる台湾野球の魅力はどのような点でしょう。逆に、リーグやナショナルチームのレベルをさらに上げるためには、どのような点を強化すべきだと思いますか。

 台湾野球の魅力はやっぱり打つほうだと思うんです。全体的にいうと、スタンドとグランド内のパフォーマンスが『ショー』のようで盛り上がるんだけど、野球に関してはパワー野球を全面的に押し出している風には感じます。だけど、もう台湾も、戦術的にもそういうパワーだけの野球から脱却しつつあると思うんですよね。中信兄弟の林(威助)監督とか統一もね、これはもう、あんまり日本と変わらないなという戦術もやっぱり多いんでね。その上で長打も見せる。力だけじゃないよという野球に台湾自体変わってきていると思います。

 投手陣の強化、守備についても、もちろん楽天もそうですけども、林監督の中信もやっぱりその辺は厳しくやってきている。ここ1、2年、外国人ピッチャーだけじゃなくて、台湾人の先発に優秀なピッチャーが増えてきてるっていうのも、これ事実ですよね。しかも力がある。

――来年3月、 WBC が開催されることが決定しました。日本のファンにも是非とも注目してもらいたい、モンキーズや他球団の選手を何人か挙げていただけませんでしょうか。

 そうですね、モンキーズやったらやっぱり林立の身体能力よね。あとピッチャーで言うと、統一の古林睿煬や、今年は調子悪いんですけども江少慶(富邦)は元々力がある。後は富邦の抑え、曾峻岳かな。野手では中信兄弟のショート江坤宇、統一のセカンド(※林靖凱、現在はショートでの出場が主)の守備や守備範囲。あと統一の1番センター陳傑憲のバットコントロールとかね。彼なんかは日本行ってもある程度通用するんじゃないかな。彼と陳俊秀(楽天)のバットコントロールは、日本でも対応できるんじゃないかなと思いますよ。

――最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。

 なかなかリアルタイムで台湾プロ野球をご覧になることはないとは思うんですけども、何人か日本から教えに来ているコーチもいますし。一種のショーみたいなスタンドですけれども、選手たちの力と力の激しいぶつかり合い、いい選手、力のある選手が多いんでね、ぜひ見てほしいなと思います。

 今回、お話を聞かせていただき、最も印象的だったのは「厳しく上から押さえ込むんじゃなくて、選手からの意見を吸い上げていく」という指導ポリシーだ。古久保コーチのように選手、指導者として豊かなキャリアをもつ日本人コーチが、子どもくらいの年頃の若い選手達に対し、こうした柔軟な意識を持って指導にあたる事は、容易な事ではないように思える。

 こうしたスタンスの古久保コーチは、かつての富邦の選手とはもちろん、1年目の楽天でも既に選手達と信頼関係を築いており、グラウンド外での選手とのコミカルなやり取りも話題となっている。御本人のインスタグラム(@kenjifurukubo)や楽天モンキーズのSNSには、選手・スタッフ達から58歳の誕生日を祝ってもらったシーンもアップされた。

 台湾球界では現在、楽天の古久保健二一軍ヘッドコーチ、西村弥一軍守備走塁コーチ、川岸強二軍投手コーチの3人のほか、味全には今季3年目の高須洋介氏が二軍統括コーチとして、そして今季からは平野恵一氏が中信兄弟の一軍打撃兼野手統括コーチに就任と、元パ・リーグ戦士が多数、指導者として奮闘している。

 台湾プロ野球は、日本からも有料のOTT「CPBLTV」で視聴できる。WBCの「予習」を兼ねて、古久保コーチの挙げた注目選手を中心にチェックしてみてはいかがだろうか。もちろん、日台の自由な往来が解禁された際には、ぜひとも直接球場を訪れていただきたい。パワー野球から脱却しつつある野球そのものに加え、華やかなチアガールを中心とした応援文化、そして、運が良ければ試合前、スタンドから日本人指導者の方に直接声をかけるチャンスがあるかもしれない。「中毒性」あること、間違いなしだ。

文・駒田英

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