「言葉一つで選手をダメにするかもしれない」
今季限りで現役を引退し、いきなり1軍内野守備走塁コーチに抜擢された本多雄一。秋季キャンプが行われている宮崎で、まだ新しい背番号のユニフォームが届かない中、おなじみの背番号「46」のまま新米コーチとして奮闘中だ。
「腰が上がっとるぞ!」「はい、もう1丁頑張れ!」。そんな威勢のいい言葉が、内野守備練習が行われている夕方のサブグラウンドに響く。声の主は、この秋季キャンプから指導者として新たなスタートを切った本多コーチだ。
10日に1軍内野守備走塁コーチ就任会見を行って以降「小学校の頃から左打ちだった」という本多コーチは、打球の質の偏りを防ぐため慣れない右打ちにも挑戦。右打ちノックが弱いハーフライナーになり「あ、ごめん」「許して」と苦笑いすると、練習を見守るファンから「コーチ、頑張れ」の声も上がっていた。
指導者となってわずか数日ではあるが「いろんな選手がいるので、本当に個性が一人ひとり違うんだなということを改めて感じています」という。
「だからこういう(プロ野球という)世界なんですけどね。選手たちが少しでも前向きな姿勢でやってくれるので教え甲斐もあるし、逆に言うとこちらがハッと気づかされることもあります」
工藤監督も期待「選手のことを思うコーチになれる」
本多コーチ自身も現役時代は1軍、2軍を合わせてさまざまなコーチと出会い、指導を受けてきた。自らが受けてきた指導方法を自分なりに租借しながら、自分なりの教え方を確立させていくことになるだろう。その一方で、現役選手としての感覚が強く残るからこその思いもある。
「教えられる側がどういう意識を持ってやるのかが大事だと思っています。教えられても意識せずにやる選手と、考えながらやってすぐに反応を見せてくれる選手がいます。教える方としては後者の方が嬉しいですし、伸びるも伸びないも選手次第だと思います。やっぱり実際にやるのは選手ですからね。逆にコーチという立場からすれば、教え方によって選手の捉え方も違ってくると思っています。言葉一つで選手をダメにするかもしれないし、自分が思った以上にグンと伸びてくれるかもしれない。そういう意味では本当に難しいですし、これからもずっと勉強ですよ」
工藤公康監督も「あれだけ右打ちノックを練習するのも試合と同じ質の打球じゃないと選手のためにならないという本多くんの優しさから。常に選手のことを思うコーチになれると思いますよ」と期待を寄せている。
「これから何年やるのかわからないですけど、シーズンに入れば選手に助けられる場面もあるでしょう。自分がいいと思ったことは挑戦すればいいし、それで壁にぶち当たればまた考えればいいと思います」
挑戦と挫折、そして試行錯誤。本多コーチ自身が選手として成長してきた道のりを後輩の選手たちにも伝えていくつもりだ。新たな背番号「80」のユニフォーム姿は春のキャンプまでお預けとなったが「オフもしっかりとノックの練習をしておきます」と、本格的なコーチ業に向けて抜かりはない。
(藤浦一都 / Kazuto Fujiura)
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