
昨年、22年間続いた現役生活の幕を閉じることを決意した福岡ソフトバンク・和田毅投手。2002年ドラフトで当時の福岡ダイエーへ入団した左腕は、ルーキーイヤーから華々しい活躍を披露。11年オフには海外FA権を行使してメジャーリーグにも挑戦した。その後は16年に福岡ソフトバンクへ復帰すると、22年にNPB通算150勝、23年にはNPB通算2000投球回を達成。ホークスの主力投手としてキャリアを積み重ね、素晴らしい成績を残した。
その通算勝率.643は2000投球回以上を投げた投手の中で歴代5位にランクインしている。そんなNPB屈指の好左腕である同投手の最大の武器が、均整のとれたフォームから放たれるストレートだ。長年にわたって一線級の投手であり続けることができた主な要因がここにある。
年齢を重ねるごとにストレートの球速がアップ

通常、投手は年齢を重ねてキャリアが晩年に向かうにつれて球速が徐々に低下していく。ところが、和田投手は30歳台後半に差し掛かっていた16年のNPB復帰以降もストレートの球速を伸ばし続けており、22年には41歳という年齢で自己最速の149km/hを記録している。近年は各球場にトラッキングシステムが導入されたことで昔に比べて球速表示が高く出るようになったとはいえ、40歳を過ぎてなお球速が向上するのは驚くべきことだ。ひとえに彼のたゆまぬ努力のたまものだろう。
ただ、平均140km/h台前半という球速は、左投手ということを加味してもプロ野球の世界では決して速い方ではない。それでもこの球種が彼の最大の武器であった理由は、球速以上の威力を発揮していたからだ。

上記の表は、昨季のパ・リーグ投手のストレート奪空振り率の平均値を球速帯で分けて算出したもの。これを見ると球速が上がるほど奪空振り率も高くなるという因果関係があることが分かる。和田投手のストレートは最も速い時期で140~144km/hの範囲に当たり、その球速帯の平均奪空振り率は5.2%となっている。しかし、実際の彼のストレート奪空振り率はその数字とはかけ離れたものになる。
140キロ台前半の球速でリーグトップクラスの奪空振り率を記録

和田投手は21年に13.9%、22年には12.5%と非常に高いストレート奪空振り率を記録している。渡米前から10%前後の好成績を残していたが、球速アップに伴って奪空振り率も良化し、晩年になってその数字はリーグトップクラスにまで向上した。その数字自体も素晴らしいが、ともにランクインしている他の投手に注目してほしい。埼玉西武・平良海馬投手や北海道日本ハム・バーヘイゲン投手、オリックス・山下舜平大投手はいずれも平均球速150km/h以上を記録する速球派の投手だ。球速に約10km/hの差があるにもかかわらず、速球派の投手を上回るほどの奪空振り率を誇った彼のストレートが、いかに異質なものであったかということがよく分かるだろう。

決して順風満帆なプロ野球人生ではなく、メジャーでは度重なる故障に悩まされ、古巣復帰後も手術や左肩痛で一軍のマウンドに立てなかった期間があった。それでも左腕は最大の武器であるストレートを磨き続けることで、晩年まで持ち前の奪三振能力を維持。NPBで通算2099回2/3を投げて奪った三振は実に1901個を数え、奪三振率8.15は歴代4位の好成績となっている。22年間のプロ野球人生を通してクオリティーの高いピッチングをファンに披露し続けた証しだ。
そんな和田投手の引退試合は3月15日(土)、みずほPayPayドームで開催される。長きにわたってホークスを、そして日本球界を支えた偉大な左腕。「NPB最後の松坂世代」の勇姿を見届けよう。
※文章、表中の数字はすべて2024年シーズン終了時点
文・データスタジアム