日本の野球に適応できず、本来の力を発揮できないまま退団する外国人選手は少なくない。些細なコミュニケーションを取ることさえ難しく、あらゆる文化も習慣も違う国で、ただでさえ厳しい勝負の世界に身を置くことは、想像を絶するストレスをともなうものだろう。
しかしだからこそ、優れた適応力と柔軟な姿勢で、日本球界に長く在籍する外国人選手は信頼され、深く愛される。オリックスは9月、来日5年目のディクソン投手と、来季からの2年契約を締結することを発表した。
ディクソン投手は2006年にカージナルスと契約し、2011年にメジャーデビューを果たす。その年カージナルスはワールドシリーズチャンピオンに輝き、ディクソン投手もチャンピオンリングを手にしたが、登板したのはわずか4試合。チームが頂点に上り詰める過程で大きな役割を果たしたとは言い難かった。
日本に訪れたのは2012年オフ。翌年からオリックスでプレーすることになったが、見事に開幕ローテーションを勝ち取り、負傷離脱に見舞われながらも8勝8敗、防御率2.77の好成績を残す。来日1年目からその右腕でチームに貢献するとともに、コーチやスコアラー、チームメイトの言葉に耳を傾け、精力的にファンサービスに取り組む真摯な姿勢でも周囲からの信頼を得た。
2年目には3完投1完封を含む9勝。3年目には同じく9勝を挙げてオールスターゲームに出場する。2016年は防御率4点台と苦しんだものの、来日最多の171回1/3を投げ、先発ローテーションを守り抜いた。そして今季は、4月に4勝を挙げる好スタートを切る。8月には8勝に到達して来日初の2桁勝利に期待が高まったが、終盤で不調に陥り、以降1勝も挙げられず。ただ防御率は3.24まで改善され、先発の1人として変わらぬ貢献度の高さを見せたため、9月、オリックスは新たに2年契約を締結した。
ディクソン投手はアメリカ合衆国アラバマ州出身。金髪に青い目を持ち、すらりとした195センチの長身だ。投球スタイルは、140キロ台のツーシームと伝家の宝刀ナックルカーブを主とし、スライダー、チェンジアップを織り交ぜて「打たせて取る」タイプ。不調のときは被本塁打が多い一方、球界屈指のグラウンドボーラーでもあることは周知の事実だろう。
来日から5年。真面目な性格と確かな実力でオリックスの「投」の主力として立場を確立したディクソン投手だが、毎年あと一歩のところで2桁勝利を逃してしまっていることもまた、よく取り沙汰される話題である。2013年と2015年以外は負け越しを喫しており、勝率も5割を上回ったことがない。通算の防御率は3.30と安定しているが、自身の調子と打線がかみ合わないこともあって、なかなか大台に手が届かないままだ。
惜しいところまで行きながら夏場以降に不調に陥るのは、ディクソン投手自身も2桁勝利への思いが強く、それを意識するあまり本来の力が出せていないからではないか、という意見もあるようだ。1年目から毎年、ほとんど故障もなく8勝以上しているため、球界でも指折りの素晴らしい外国人投手であることは間違いないのだが、好調時の投球を見ているとさらなる期待を抱いてしまうのも人情というものだろう。
今季、オリックスはロメロ選手、マレーロ選手などの新外国人選手を新たに獲得したが、いずれも優れた成績を残してチームに貢献した。ディクソン投手はこの「後輩」たちにも日本球界で成功するためのアドバイスを送っており、単純な戦力として以上の役割を果たしてくれている。今の目標の1つは「日本人扱い」。来季こそは、この愛すべき右腕のさらなる活躍、そして2桁勝利に大いに期待したい。
文・東海林諒平
記事提供: