西武に入団して16年――坂元忍ファームS&Cヘッドが最も印象的だった出来事とは?/ライオンズ「チームスタッフ物語」2022【Vol.08】

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2022.10.16(日) 11:00

グラウンドで躍動する選手たちだけではなく、陰で働く存在の力がなければペナントを勝ち抜くことはできない。プライドを持って職務を全うするチームスタッフ。ライオンズを支える各部門のプロフェッショナルを順次、紹介していく連載、今回はファーム・育成グループでS&Cヘッドを務める坂元忍氏を紹介しよう。

専門学校には行かずに



西武のファーム・育成グループでS&Cヘッドを務める坂元忍氏[写真=球団提供]

 2019年から西武はトレーニングコーチの肩書きをS&Cに変更した。ストレングス(Strength)&コンディショニング(Conditioning)。仕事内容は変わらない。選手のケガの予防と身体能力向上を目的としてトレーニングを指導する役目だ。2007年に二軍トレーニングコーチとして西武に入団した坂元忍氏は現在、一軍を経て、ファーム・育成グループS&Cヘッドとして若手の成長を促す日々を送る。

 夢はプロ野球選手だった。近大付高では3年夏、1992年に副主将として甲子園に出場。卒業後、プロに進む森岡裕之(元ロッテほか)―久保充広(元近鉄ほか)のバッテリーを擁し、1回戦は松商学園高に5対0で勝利。二番・二塁でスタメン出場した自身も1安打3盗塁で初戦突破に貢献した。2回戦で北陸高に4対6で敗れ目標の全国制覇はならなかったが、進学した龍谷大でも野球部へ。しかし、そこでプロへの道をあきらめることになった。

「大学に進学したときは『何とか頑張って4年後にプロへ!』と少し思っていたんですが、実力がないことを痛感しましたね。2学年上に正津英志さん(元中日ほか)、大島寛さん(元西武)、1学年上に益田大介さん(元中日ほか)とプロ入りする先輩たちがいたのですが、その方たちと自分を比べると難しいな、と。あとは大学で肩を痛めてしまって。ボールをまともに投げられないし、思いどおりにいかないことが多かったですね。

 ただ、大学卒業後の進路を考えたとき、普通にサラリーマンになるイメージがわかなかったんですよ。やっぱり、野球やスポーツに携われたらいいなと考えて。近鉄やロッテなどでトレーニングコーチをやられていた立花龍司さんが大阪で開いていたジムに中学時代から通っていたこともあり、『こういう仕事もあるんだな』とは認識していたので、トレーナーの仕事も視野に入りました。

 それで大学卒業後は大学に所属されていたトレーナーの方について働かせてもらいながら、資格取得を目指しました。専門学校に通うよりも実際に現場を体験しながらのほうがいいと思ったんですよね。社会人野球や高校野球、ラグビー、アメリカンフットボールなどさまざまなスポーツ現場に派遣されて、経験を積んでいきました」

まずは対話を重ねて



選手としっかりコミュニケーションを取ることも心掛けている[写真=球団提供]

 トレーナーとして働きながら、学ぶ日々。ライオンズへ入団するきっかけは知り合いを通じて、当時西武に所属していた大迫幸一トレーニングコーチと縁ができたことだった。2007年に西武入団。まずは二軍トレーニングコーチからプロ球団でのキャリアをスタートさせた。

「最初は僕が選手に指導してもいいのか葛藤がありましたね。特にベテラン選手です。自分自身がやってきたのは正しいことだったという自信はありましたが、ベテランもそれまで自分が貫いてきたやり方があり、信念もある。そういった選手に、どうアプローチしていけばいいのかということが一番難しかったです。

 とにかく、まずはコミュニケーションを重ねていくしかなかったですね。選手も最初は『この人は本当にトレーニングのことが分かっているのか』と警戒していますから。「僕はこういう人間だよ」「こういうことを考えているんだよ」といったことを話しながら、少しずつ信頼を得ていくしかありませんでした。

 あと、トレーニングコーチとして重要なのは、選手を観察することでしょう。それは大前提です。選手の動きを見て、変化に気付く。それに対して適切なアプローチができるようにならないといけません。しっかりと選手をサポートして、信頼関係を築く。じゃないと成り立たない仕事です。

 実際、首脳陣に言えない体のことを、僕らに相談してくることがありますが、信頼関係がないとそうしてもらえないでしょう。そうやって選手から得た情報を僕らがうまく首脳陣に伝える。その三角形がきちんとできていないと、コンディショニングの面で、チームとしてうまく機能しないのだろうと思います。

 もし、体に痛みがあっても選手が僕らに話しにくい状況なら選手は無理をしてしまいますから。するとケガを未然に防ぐこともできません。選手がしっかり僕らを信頼して、何でも話せるような雰囲気つくることが大事になってくると思います」

一生懸命指導するだけ



現在はファームで若手選手を指導。彼らを一軍に定着させることが目標だ[写真=球団提供]

 10年まで二軍トレーニングコーチを務め、翌年からは一軍へ。コーチとして18年のリーグ優勝も経験した。19年からは枠組みが変わりコーチからS&Cスタッフに。今年はファーム・育成グループのS&Cヘッドを務めた。西武に入団して16年――。これからもチームの勝利のために力を尽くすことを誓う。

「ここまでで印象的だったことはいろいろありますよ。例えば僕が二軍にいたとき、ある若手にしんどい練習を課していました。やがて、彼は一軍に昇格して定着。それで、また僕は新たな若手にトレーニングをさせるわけです。でも、きついですから嫌々やっている。そのときに、一軍に定着した彼が『今のうちにトレーニングコーチの言うことを聞いておきなさい。それが将来につながるんだから』と言ってくれたんです。トレーニングの必要性を説明してくれたり、頑張れと励ましてくれたり。それを見て、厳しいことを言ってきたけど、理解してくれていたんだなと思いましたね。それで、今度は嫌々やっていた若手が、自分の下の世代に『ちゃんとやれ』と発破を掛けている姿を見て、うれしくなりましたね(笑)。

 今年は育成で入団した滝澤夏央がファーム開幕から2カ月弱で支配下に昇格し、一軍で活躍しましたね。彼は最初から身のこなしが素晴らしく、足のスピードにも秀でているなと思いました。すぐに一軍に行きましたから、僕らがトレーニングの指導をしたからというわけではありません。もともと滝澤が持っていたものを発揮した結果です。ただ、筋力的にはまだまだですし、自分の地位を確立するために、もっともっと鍛えていかないといけないと思います。

 今の目標は現在指導しているファームの選手を何年後かに一軍に定着させることです。それで活躍してチームの勝利に貢献してもらう。一軍が常に優勝争いに加わるチームになるには、一軍選手を脅かす若手をファームでどれだけつくれるかにかかっていますから。若手の成長をサポートできるように、僕も一生懸命に指導していきたいと思います。」

文=小林光男

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